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しおりを挟むコンコンとドアのノック後、声と共に扉が開いた。
「ジン、起きろーっと、もう起きてたか……っ!どうした!何かあった!」
「?」
ズカズカと音を立てて近寄ってきたアークの大きな手が、俺の頬を包み込み、親指で涙袋を優しく擦られる。アークの親指の動きと共に歪む視界に、自分が今涙を流していることに気付く。
「……っ、ごっ、ごめん。何でもないよ」
慌てて涙を袖で拭いながら首を振るが、アークは眉間に皺を寄せ、納得していない表情で俺を見た。
「何もなくて、こんなに泣くはずないだろ」
そう言うと優しく抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でてくれた。安心する暖かい体温に、匂いに、包まれ再び涙がこぼれ落ちる。
「大丈夫だ。話してみろ」
今更、思い出し話したところで、母との約束を守ることは難しい。だが、この気持ちをどうしたらいいか分からず、重い口を開く。
「……俺、今まで大事なこと、忘れてた。……このネックレス……母上の、大事なものに似てて……俺、母上との最後の約束、思い出して……でも、もう、無理で……今更……罪悪感に……陥ってる……」
「そうか、どんな約束をしたんだ?」
「……父上に、愛してるって……ずっと、愛してたって……探して、伝えてって……」
「親父さんは、いなくなったのか?」
「父上は、俺が生まれたことを、知らない……」
「ん?まて。俺に似てる親父さんだろ?」
「父さんは、育ての親。父上は、血の繋がった親」
「……何だか複雑だな。もう、探せないのか?」
「……無理。ネックレスがないから。きっと、見つかっても証拠がない。父上は……隠してたみたいだけど、貴族みたいだって、母上が言ってたから……」
目の前にネックレスはある。だが、このネックレスを持っていくわけにはいかない。これは俺が死ぬ直前まで付けていたネックレスだ。いわば、アークにとってそれは俺、ジンの形見になる。
それに、このネックレスを貸してもらい探したとしても、見つかったとき何て言えばいいかわからない。俺は、もう、あのジンじゃない……。
「そうか……。ネックレスがなくても、探そうと思えば探せるかもしれないが……それでもか?」
「うん……いいんだ、もう」
数秒間の沈黙後、ポンポンと背中を叩かれた。そして、抱えられ数歩後、そっとベッドの近くに降ろされる。ギシリとベットが軋み、お互い並ぶように横に座り、アークは無言のまま両手の指を組んだ後、うつむいた。
「……なぁ、ジン。俺の話も聞いてくれるか?」
懺悔でもするかのような姿勢と強張った声にゆっくり頷いた。
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