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しおりを挟む俺、前世のジンが幼い頃にいた国は、他国から最も忌み嫌われるガイヤードルという国だった。
母上は隣の国メルゾーラのバクスという街の商人の娘で、未婚で俺を出産してしばらく後、散歩途中に糞義父……あー、もう糞でいいか。糞が母上を無理やり誘拐し連れ去ってきたらしい。
糞には妻と長男がいて、愛人の義子である俺は会うたびにその2人から躾と言う名の暴言と暴力を受けていた。
10歳の時、母上が亡くなると、義母と義兄の暴力が悪化。義兄より魔力が多い俺をずっと妬ましく思っていたらしく早く始末したかったらしい。糞は母上にしか興味がなかったので、俺がどうなろうともいつも見て見ぬふり。
ある日、今までにない命の危険を感じた俺は、以前から計画していた国外逃亡を遂行した。
逃げ先は隣の国メルゾーラ。
母上と俺の生まれ故郷で、豊かで住みやすい国。そして、結婚はしていなかったが、本当の父上もそこにいると、母上はいつも泣きながら帰りたい、あの人に会いたい、と嘆いていた。
俺は方角だけを便りにメルゾーラへとひたすら歩いた。
あの家は腐ってながらも貴族。愛人の義子でも教育を受けられたので、俺は将来役立てるため、死ぬ気で剣術や魔法を覚えた。お陰で、道中かなり役にたったが。
それでも子供の足で行くのは厳しく、インベントリに詰め込んだ食料も無くなり、俺は行き倒れてしまい、そんな俺を助けてくれたのが、ベルだった。
優しい歌声と暖かい風を感じ、ゆっくり目を開けると目の前に水色の長髪の美女がいた。
この世とは思えない美しさにただ呆然と見つめていた俺に美女はクスリと笑う。
『貴方、とっても綺麗。名は?』
「……ジ……ン」
美女にそっと両頬を包まれた瞬間、すーっと魔力が出ていくのを感じたかと思うと全身に温かいものを感じた。動かなかった体が次第に動き出す。
『ふふふ、ジンね。うん、いい魔力。気に入ったわ』
「……貴女……は?」
『水の精霊よ。うーん、そうね。貴方だったらいいわ。私に名前をつけてくれる?』
凛とした美女の声に、ベルという名を付けた。
『ベル……、私はベル。うん、気に入ったわ』
べルは行き場のない俺を快く迎えいれ、気が済むまでずっと側に居ると約束してくれた。まるで今までの心の傷を癒してくれるように……。
そうだよ、もう、本当の父上なんて探さなくてもいい。俺が生まれたことなんて知らないと母上が言っていたし、今さら俺が現れても迷惑だよな……。
母上の形見である青い涙型のネックレスに触りながら、母上にゴメンと謝る。
もう、疲れたんだ……。
ベル達にずっと包まれていたい。
綺麗な森林の空気、小さな精霊達の心地よいおしゃべりと暖かい魔力。優しいベル達に出会い、生まれて初めて幸せというものを感じることができたんだ。
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