15 / 17
15.君は騙されている!【ゴルドハイツ視点・ざまあ】後編
しおりを挟む「な……っ」
「さて、ゴルドハイツ・リグシュリー。俺が用意してやった最もマシな待遇を蹴り飛ばし、一番最悪な破滅へと足を踏み入れたご感想を聞くとしようか」
「は……? なん、ですか……どういうことですか?」
「さきほど、おまえは何を掴んだ?」
「なにって…………」
僕が先ほど掴んだのは、フェリスの腕だ。
たったそれだけのことなのに、なぜヴェルトアーバインはこうも不敵な笑みを浮かべているのだろう。
「たかが接触禁止令だと甘く思ったか? 近づいて声をかけただけでも罪になり、体に触れたらさらに罪が増える」
しまった…………っ!
早くフェリスを連れて行こうと焦るあまり、すっかり忘れていた。
婚約者への暴行……この事実はリグシュリーのブランドに傷がつくため、隠したがっていたのが父だ。ゆえに父はヴェルトアーバインと交渉し、フェリスとの婚約解消と接触禁止令だけで僕の件を赦してもらった。僕が犯罪者として逮捕されなかったのはコレが理由だ。
しかし、今の僕は父から勘当された身だ。
何の後ろ盾も頼る伝手もない。
通常の接触禁止令は、主に婦人を守るために作られたもので数年の懲役刑か罰金刑になるのだが、僕の場合は過去の暴行罪が加味されてもっと重い刑罰が科せられる想定だ。ヴェルトアーバインに現場を目撃されている以上、言い逃れすることは出来ない。
「まさか、最初から私をはめる魂胆だったのか!?」
あまりにもヴェルトアーバインが来るタイミングが早すぎる。
最初から、僕を犯罪者として仕立て上げるためだったとしか思えない。
僕はフェリスを見た。
フェリスは首を横に振っていた。
「ヴェル様はわたしの身を案じてくださっただけです。わたしは……ゴルドハイツ様がここまでわたしのことを想ってくださっているとは思っておりませんでした」
「そうだ! 私はフェリスのことを愛している! 当然だろう!? 私はフェリスの婚約者だ!!」
「確かに、昔はあなたのことが好きでした」
「昔、は……?」
なんだそれ……。
それじゃまるで、今は何とも想っていないような。
フェリスは僕の事を見ている。
でもその目つきは、可愛くない。
おかしいな。
絶対に昔よりも綺麗で可愛くなっているはずなのに、僕を見つめるその目は全然可愛くなかった。
嫌だ。
そんな目で、僕を見るな!
「今のわたしは、ヴェル様のために生きております。暗くて何も見えなくて、辛くて苦しい世界からわたしを救いだしてくれたのはヴェル様だけです。ゴルドハイツ様……あなたはわたしを恐怖で支配しようとした。それがあなたとヴェル様の決定的な違いです」
「支配、だって!? それは君が間違ったことをしようとしたからだ! 僕という婚約者がいながら他の男に色目を使った! 僕を立てないといけない存在なのに、君は僕よりも賢くあろうとした! それが許せなかったんだ!!」
「それは間違っています」
「そんな…………っ」
一人称が私から僕に変わっていることに、僕は気付いていなかった。
相変わらずフェリスは僕の事を否定する。
でも僕は、一つ思い出した。
「そうだ…………忘れていたよ。ごめんねフェリス、君はいまこの男に洗脳されているんだったね」
「は……い……?」
「だってここにいる男が、真にフェリスのためを思ってやっているわけがない!! 知っているだろう、この男は根っからの女嫌いで有名なんだぞ!!」
どうせ捕まるのならと、僕はやけになって叫んでいた。
効果はあった。
僕の腕を掴むヴェルトアーバインは明らかに力が弱まっていたし、おかげで振りほどくことも出来た。フェリスも動揺して、視線を左右にうろうろさせている。
チャンスだと思って、僕はフェリスの肩を抱き寄せた。
「分かったかい? フェリスを真に愛しているのは僕だけだ。誰にもフェリスは渡さないよ」
勝った。
あの男からフェリスを奪い返す事が出来て、すごい達成感だ。
でも、フェリスの様子がおかしい。
「……いいです」
「え……?」
「それでもいいです」
フェリスは僕のもとから離れ、ヴェルトアーバインの腕を掴んだ。
僕は唖然とする。
「わたしはヴェル様のことが好きです。たとえこの契約に恋愛感情がなくても、ヴェル様はわたしに手を差し伸べてくれたたった一人の人なんです。生きろと言ってくれた人なんです!」
なにそれ……どういうこと?
契約……?
恋愛感情?
フェリスが、この男の事が好き……?
おかしい。
フェリスがこんな大きな声を出すはずないし、僕以外の男を好きになるはずなんてない。
やっぱり変だ……。
「なるほどな」
呆然とする僕の目の前で、ヴェルトアーバインが顔を手で覆いながら呟いた。
僕がキッと睨みつけると、女嫌いであるはずの男から予想外の言葉が飛び出してくる。
「そうか…………これが“愛おしい”という感情か」
ヴェルトアーバインは顔から手を外し、僕を見る。
ほんのわずかだが、口角が上がっているような気がした。
「フェリス」
ヴェルトアーバインがフェリスと向き直る。
とてつもなく……嫌な予感がした。
「嫌だったら蹴り飛ばしてくれていいぞ」
「え、どういうことですか……?」
ヴェルトアーバインが膝を折り曲げ、フェリスの目線の高さにまで自身の頭を下げた。そして……どんどん二人の距離が近づいていって……。
僕には見えなかったが、二人の境界線が交わった。
「な……っ!」
それが本当に“キス”だったのか、それとも“キス”したフリだったのかは判別出来なかったが、僕は完全に前者だと思い込んでいた。
「分かったか? 俺は女嫌いだがフェリスは特別だ」
「ありえない……!」
「ありえないと言われてもこれが現実だ。フェリスのためと言いながら、自分の欲望のために暴力を振るう奴に、フェリスは絶対に渡さない。
────俺はフェリスを、妻に迎える」
膝から崩れ落ちた僕を、いつの間にかやってきた衛兵が取り押さえる。
衛兵に引きずられるようにして、僕はその場から退場した。
何も考えられなかった。
フェリスが僕ではなく他の男を選んだこと。
その相手が、僕なんかよりもずっと優秀で、しかも王族だということ。
僕は間違っていたのか?
分からなかった。
考え続けていれば、その意味も分かるだろうか。
分かったことといえば。
──騎士団に入って更生する機会すら失い、破滅したということだけだ。
4
お気に入りに追加
1,653
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】ワガママな妹は私の婚約者を奪ったが、すぐ叱ってくるから嫌だと返された〜再び私が婚約したら、幸せが待っていました〜
よどら文鳥
恋愛
妹のシャインは私の私物をなんでも持っていくし、我儘である。
両親も妹のことばかりを極端に溺愛しているため、私(レイナ=ファルアーヌ)が助けを求めても無駄であった。
いつか家を出て行くつもりだったので、私は一人でも暮らしていけるように魔法学の勉強を毎日励んでいた。
ある日、シャインは、私宛に来ていたはずの縁談までも奪ってしまう。両親も、妹が求めているのだから優先させるとの一点張りだった。
だが、そのお相手が嫌いだということで、再び私が縁談をすることになってしまった。
この縁談によって私の人生が変わろうとしていた。
更に、今まで試すこともなかった魔法を発動してみた結果……。
シャイン……。私がいなくなっても、ファルアーヌ家で元気にやっていってくださいね。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。
おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子
設定ゆるゆるのラブコメディです。
[完結]妹の信者達に殺されかけてましたが、逃がしたつもりだった義弟がやたらかっこよくなって帰ってきました。
雨宮ユウリ
恋愛
貴族の娘であるソフィーと血の繋がらない弟ウィルは、妹であるメアリーの嘘によって酷い扱いを受けていた。両親はメアリーばかり愛し、メアリーの信奉者というべき貴族の少年たちには嫌味を言われたり、怪我をさせられる地獄。特に、弟であるウィルへの物理的な攻撃が悪化していく中、ウィルだけは守ろうとしたソフィーはウィルを海外留学へ送り、地獄から遠ざけようとする。
そして、五年後。十六歳になったソフィーは強制的に結婚することが決まる。命の危険も増していく中、かつて逃がしたと思った義弟、ウィルがやたらかっこよくなって帰ってきて……。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる