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第三話

6 計画は大切

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「これから狙うは、ある程度鉢巻を稼いだ生徒ね」

このゲームの勝利条件は「鉢巻の数」。
 それは集めた数であって、自力で奪った数ではない。
 そりゃそうだよね、これは男女混合戦なんだから、自力奪取のみにしてしまうと、体力のある男子有利になる。
 それにこれは、午前中を明一杯につかってのゲームなのだ。
 最初からとばしていたら、すぐにへばるのは目に見えている。
 だから時間配分を考えて体力を温存して、ある程度数が減ったのを見計らってのスタートなのである。
 そして体力自慢とまともに張り合っても仕方がないと割り切り。
 頑張り屋さんにある程度鉢巻を纏めておいてもらって、それを今から掻っ攫いに行こうと言う作戦である。

「……なるほど。
 狡賢いというか、効率的というか。
 たかが鬼ごっこによくそこまでのめり込めますね」

呆れた様子の神高に、私は真剣な顔で頷く。

「そりゃそうだよ、だって私はぜひにも食券が欲しい!」

そして、やるからには全力で。
 これは田舎遊びの基本ルールである。
 なにせ、子どもの数が少ない地域だ。
 誰か一人でもやる気を失くすと、他の皆もしらけてしまって、遊びが成り立たなくなる。
 遊びを成立させるには、どんなくだらないことにも全力投球が大事なのだ。

「あ、神高。
 なにもしないのは了解だけど、人が多い場所まで連れて行ってくれない?
 ほら、バビューンって」

「……そのくらいはいいですが」

神高は表情を変えずに頷くと、私をまるで米俵のごとくヒョイと肩に担ぎ上げた。
 オイ、またこの体勢かい!
 お姫様抱っこも嫌だけど、もっと人らしい運び方があるでしょ!?

***

安城明日香がようやく動き始めたその頃。
 風紀委員の万智は、控室でモニターチェックをしていた。
 校舎内のあちらこちらに設置されているカメラから、レクレーションの様子が送られてきているのだ。
 今のところ、危険行為をしている輩はいなさそうだ。
 まあ今年の一年生は過激な生徒はおらず、問題がありそうな生徒といえばあの神高くらい。
 その神高はやたらと噛みつく性格ではないので、鴻上などに比べれば安全だろう。

 ――いや、そうでもないか。

 高等部になってから同室者が現れて以来、威嚇行為が見られるようになった。
 そもそもあの新入りについても万智自身、突然知らされて驚いたものだ。
 本当に新学期直前になって、急に通達されたのだから。
 そしてこのレクレーションも、その新入りのために開催されたようなものだと思っているのだが。

「安城の姿が見えないな」

そう、今回の主役ともいえる存在がどこにも見られないのだ。
 どの生徒も、『無能』はカモだと考えて探しているというのにだ。

「どこか遠くに隠れているのか?
 まあそれが賢明か」

そうだとしたら安心だと万智がホッとして、休憩にコーヒーを飲んでいると。

『うぎゃぁぁぁあ!?』

モニターから大音響の悲鳴が聞こえた。

「なんだ!?」

万智が慌てて見たモニターの一つに映っていたのは。

「神高!?」

生徒が最も集まっている校舎の上空に、浮いている神高と。

『死んだ、絶対に私は一回死んだ!』

その神高に俵担ぎされた状態で、わめいているのは安城だ。

『煩いですね、君が運べと言ったのでしょうに』

『そうだけどさ!
 あんなアクロバットをする必要ってある!?』

『ほんの少々コントロールが狂っただけでしょうに』

『絶対嘘だぁ!?』

二人はカメラに拾われるくらいの大声で、呑気に言い合いをしている。
 堂々と姿を晒していることもあり、きっとすぐに生徒が集まってくるだろう。
 いくら神高がいるとはいえ、もみ合いになる事は間違いない。

「隠れてやり過ごすのではなかったのか!?
 馬鹿な事をしやがって!」

万智は即座に近くにいる風紀委員に連絡を入れ、攻撃行為を見張るように伝えるのだった。

***
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