私には未来が見える ※ただし生活密着型

黒辺あゆみ

文字の大きさ
上 下
17 / 42
第二話 入学式は波乱の幕開け

5 特別な生徒

しおりを挟む
私は神高や徳倉君たちとお喋りしながら、高等部の校舎へと向かう。
 と言っても神高は一歩後ろを黙ってついてきて、会話には参加しなかったが。
 その際に気が付いたのだが、昨日の私はどうやら入口を間違えていたらしい。
 あのだだっ広い駐車場は裏口で、寮から徒歩五分の所に正門があった。
 このバス停で降りれば、あんなに歩かずに済んだのに!
 がっくりとうなだれる私を、徳倉君たちが不思議そうに見ている。

「どうしたの?」

「いや、ここが正門だったんだなぁって思って」

乾いた笑みを浮かべつつそう述べる私に、徳倉君が告げた。

「ああ、この学校入口がたくさんあるもんね。
 違う入口から入ったら迷うから、バスから降りる時の『〇〇口』っていうのをよく見た方がいいよ」

「あんまり使わないとこから入ると、俺らだって迷うもんな」

徳倉君も松川君もあっけらかんと言ってくれるが、そのアドバイスを昨日の昼間のうちに聞きたかったよ。
 そうなると、やはり送迎を断った私が悪かったのか。
 「自力で行きます!」と言った時の相手の微妙な態度が、今ならわかるな。
 「お前本気か? 迷うぞ?」と思われたのだろう。
 そしてそれを、私は田舎者だと馬鹿にされていると感じていたのだが。
 そうではなく、本気で心配されていたのだ。
 それにもしかしたら、この正門側でずっと私の到着を待っていた人がいたのかもしれない。
 そう思うとますます申し訳ない限りだ。
 こっちは都会行きではしゃいでいたんだよ。
 素直に言うこと聞かなくてごめんね、あの時の電話の人。

それはともかくとして。
 今年の高等部への入学者について徳倉君と松川君に話を聞けば、ほとんどが皆例のテストを受けてからこの学園にやって来た者ばかりだという。
 つまりは初等部からの知り合いというわけだ。
 ちなみに、何故テストが初等部入学前の時期ではなく、一年の終わり頃になるのかという理由だが。
 実家で聞いた説明によれば、能力が確定するのが大体七歳を過ぎたくらいだから、だそうだ。
 子供によっては、幼いころにほんの少しの能力を持っていても、成長と共に消えてしまうこともあるのだとか。
 それが七歳を過ぎると、能力は消えることは滅多にないのだという。
 まあそれに、小学校に入学する前の子全員に、強制でテストを受けさせるのが難しい、っていうのもあるのかもね。
 なにせ幼児全員が幼稚園や保育園に通っているとは限らない。
 実際私、どっちにも通わずに畑をウロウロして育ったしね。
 そんな環境の子たちに通知をするだけでも一苦労だが、義務教育である小学校だとそれが比較的安易になるというわけだ。
 私たちはそんなことを話しているうちに正門をくぐり、校舎の前の受付で新入生の確認をしている列に並ぶ。
 どうやらここで名前を名乗って、クラスを教えてもらうらしい。

「あの人たちは生徒会の役員だよ」

知らない私に、徳倉君が教えてくれる。

「なるほど。
 他の人は休みだろうに、お勤めご苦労様です、だねぇ」

私はそんな呑気な感想を述べながら、待つ間に生徒会だというその人たちを観察する。
 こうした行事に生徒会が駆り出されるのは、これまたどの学校でも同じらしい。
 けれど慣れた様子でテキパキと新入生の列を捌くその中に一人、気になった生徒がいた。
 女子が一人、なにをするでもなくただニコニコと列を眺めているのだけれども。
 背が低めで、フワフワとしたヘアスタイルで可愛らしい人だ。
 彼女がどうして気になったのかというと、ちょっと距離を置いて彼女を囲んでいる女子達がいるのだ。
 彼女も生徒会の人なのだろうか?
 そして囲んでいる女子達は一体なんなのだ?
 私が不思議に思ってじっとその女子生徒を見つめていると、隣にすっと神高が立った。

「ちなみに。
 目を付けられると厄介なのが、昨日の夜の鴻上という二年の男子、そしてあそこにいる女子です」

そう囁くように言いながら、例の可愛い女子を目で指し示す。
 そう言えば昨日学園長が言っていたな。
 今、高等部で特別視されているのが、強力な発火能力を有する男子と、治癒能力者の女子だって。
 そして確かに、昨日あのヤンチャな鴻上先輩は火を出してみせた。
 ならば……

「じゃあもしかして、あの人が治癒能力者?」

ヒソッと尋ねる私に、神高が小さく頷く。

「なにか聞いていましたか。
 そう、女子寮の教祖様でもあります。
 彼女に楯突こうものなら、女子がそこかしこからわらわら湧いてきますよ」

そんなアンタ、どっかの害虫じゃないんだから。
 そんな会話が、聞こえたわけではないと思うが。

「そこ!
 なにかよからぬ会話をしていませんでしたか!?」

彼女を囲っている女子たちの中の一人が、明らかに私の方を見て怒鳴った。
 怖そうな顔をしてにらみつける姿に、私の周囲がざわついている。
 なんかやべぇヤツに目をつけられた的な、そんな雰囲気だ。

「よからぬっていうか、その人が可愛いなって話をしてました」

私がヘラっと笑ってそう言う。
 田舎者だからって舐めるなよ、こういう時は黙っていると、いいように受け取られるって知っているんだから!

「……そうですか」

「まあ、お世辞でも褒めてくれて嬉しいわ」

私の言葉を明らかに信じてなさそうな顔の女子のセリフに、例の可愛い女子が言葉を被せた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

処理中です...