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第一話 いかにして私が「男子」になったのか
5 私の能力とは
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私が教師に呼び出された時、美化委員の作業中だったために体育着だったことがいけなかったのかもしれない。
それにその後、事情説明のために自宅まで訪ねて来た人と会った時も、畑を耕すのを手伝っていたから農作業着だったし。
私は家の手伝いで日々農具を振り回す関係で、身体つきは女子にしてはたくましい方だ。
髪も農作業で邪魔になるからとバッサリ切っていて、当然こんがり日焼けもしている。
いわゆるポンキュッポン体型ではないため、体育着や作業着だと男子に見えるとよく言われるのだ。
学校で他の女子から回してもらう雑誌で見るような、色白でほっそりしていて、髪だって手入れされて艶々な都会の女子たちを見慣れている人からすれば、ツルペタのぱっつん髪でこんがり日焼けな私を見て、男子だと思うのも無理はないだろう。
なにせ顔見知りのはずの地元民でも、普通に私を弟と間違うのだから。
それでも、もしあの時の服装が制服だったら、さすがに女子だとわかっただろう。私服だと微妙だが。
それを言うなら学園の制服はどうしたという話になるが。
制服の発注は今からだと完全に間に合わないと言われ、母ちゃんに測ってもらった私の寸法をメールで送り、既存のものからサイズが合いそうなものをとりあえず着るようになっていたのだ。
後日にちゃんと採寸して作るから、間に合わせにということで。
ここで試着ができていたら、また話は違っただろう。
それでも、戸籍や学校のデータを確認すれば女子だとわかりそうなもの。
だがなにせ入学まで時間がなく、学園側も私の方も各種手続きに追われていた。
急いだせいで確認を後回しにして、手書きのデータがそのまま使用されてしまったらしい。
そう、まさかの単純な確認ミスで、ここまで来てしまったのである。
「完全にこちら側の業務怠慢だ、どんなに謝っても謝り切れない」
「いや、そういうのはもういいですから」
何度も頭を下げる学園長に、加減に頭を上げてくれと頼む。
私としては直前であっても、事実がわかったのだからいいじゃないかと思っている。
まだ荷ほどきもしていないし、私が今から女子寮へ行けば済む話だ。
呑気な奴だと思われるかもしれないが、朝暗い内からずっと移動しっぱなしだった身としては、なんでもいいから早く休みたかったのである。
けれど、学園長にとってはそれで済まない事態のようで。
「いや、そういういわけにはいかないんだよ」
学園長はそう言うと、難しい顔をして唸る。
「え、もしかして女子寮に空きがなくて入れないとか?」
私としては部屋がないなら別にセキュリティが万全な個室でなくとも、そこいらの六畳一間とかでも十分なのだが。
そう考える私に、しかし学園長は首を横に振る。
「それは違う。
空き部屋は常に確保することになっているから、女子寮だって入れるだろう」
女子寮にはちゃんと私が入れる余裕はあるという。
だったら、一体なにが問題なのだろうか。
「男子と間違えていたとはいえ、安城さんを神高君と同室にしたことには、ちゃんと理由があるんだ」
疑問顔の私に、学園長がそう前置きすると。
「安城さんの能力についてだがね」
そんな重々しい口調で告げる。
そう、私がどんな能力なのか、まだわかっていないのだ。
何度も言うが時間がなかったこともあり、入学準備が優先され。
そのため、詳細は学校でということになっていた。
その詳細が今、学園長の口から明かされようとしている。
「私の、能力は……」
思わずごくり息をのむ私を、学園長はじっと見つめて言った。
「詳細について、まだわかっていない」
「なによそれ⁉」
思わずツッコむ私を、学園長が「まあまあ」となだめる。
「色々能力者の生活で現れる事例と検証してみたのだが、安城さんの場合そのどれも当てはまらない。
おそらく非常に稀有な能力なのだろう、とは考えている」
「……それって、そもそも能力なんてない、って可能性は?」
恐る恐る尋ねる私に、しかし学園長は首を横に振る。
「それはない。
テストで示された通り、安城さんは間違いなく能力者だ。
けれどたまにいるのだよ、どんな能力か判別できずに入学する子は」
「はあ、そうなんですか」
私は気の抜けた相槌を打つ。
もうドッと疲れた、さっきの緊張感を返してくれ。
しかし学園長は話を続ける。
「だから安城さんは『能力未定』となっているのだが、これがまた問題でな」
「問題、ですか」
やる気がなさそうに首をかしげる私を、学園長はひたりと見据える。
それにその後、事情説明のために自宅まで訪ねて来た人と会った時も、畑を耕すのを手伝っていたから農作業着だったし。
私は家の手伝いで日々農具を振り回す関係で、身体つきは女子にしてはたくましい方だ。
髪も農作業で邪魔になるからとバッサリ切っていて、当然こんがり日焼けもしている。
いわゆるポンキュッポン体型ではないため、体育着や作業着だと男子に見えるとよく言われるのだ。
学校で他の女子から回してもらう雑誌で見るような、色白でほっそりしていて、髪だって手入れされて艶々な都会の女子たちを見慣れている人からすれば、ツルペタのぱっつん髪でこんがり日焼けな私を見て、男子だと思うのも無理はないだろう。
なにせ顔見知りのはずの地元民でも、普通に私を弟と間違うのだから。
それでも、もしあの時の服装が制服だったら、さすがに女子だとわかっただろう。私服だと微妙だが。
それを言うなら学園の制服はどうしたという話になるが。
制服の発注は今からだと完全に間に合わないと言われ、母ちゃんに測ってもらった私の寸法をメールで送り、既存のものからサイズが合いそうなものをとりあえず着るようになっていたのだ。
後日にちゃんと採寸して作るから、間に合わせにということで。
ここで試着ができていたら、また話は違っただろう。
それでも、戸籍や学校のデータを確認すれば女子だとわかりそうなもの。
だがなにせ入学まで時間がなく、学園側も私の方も各種手続きに追われていた。
急いだせいで確認を後回しにして、手書きのデータがそのまま使用されてしまったらしい。
そう、まさかの単純な確認ミスで、ここまで来てしまったのである。
「完全にこちら側の業務怠慢だ、どんなに謝っても謝り切れない」
「いや、そういうのはもういいですから」
何度も頭を下げる学園長に、加減に頭を上げてくれと頼む。
私としては直前であっても、事実がわかったのだからいいじゃないかと思っている。
まだ荷ほどきもしていないし、私が今から女子寮へ行けば済む話だ。
呑気な奴だと思われるかもしれないが、朝暗い内からずっと移動しっぱなしだった身としては、なんでもいいから早く休みたかったのである。
けれど、学園長にとってはそれで済まない事態のようで。
「いや、そういういわけにはいかないんだよ」
学園長はそう言うと、難しい顔をして唸る。
「え、もしかして女子寮に空きがなくて入れないとか?」
私としては部屋がないなら別にセキュリティが万全な個室でなくとも、そこいらの六畳一間とかでも十分なのだが。
そう考える私に、しかし学園長は首を横に振る。
「それは違う。
空き部屋は常に確保することになっているから、女子寮だって入れるだろう」
女子寮にはちゃんと私が入れる余裕はあるという。
だったら、一体なにが問題なのだろうか。
「男子と間違えていたとはいえ、安城さんを神高君と同室にしたことには、ちゃんと理由があるんだ」
疑問顔の私に、学園長がそう前置きすると。
「安城さんの能力についてだがね」
そんな重々しい口調で告げる。
そう、私がどんな能力なのか、まだわかっていないのだ。
何度も言うが時間がなかったこともあり、入学準備が優先され。
そのため、詳細は学校でということになっていた。
その詳細が今、学園長の口から明かされようとしている。
「私の、能力は……」
思わずごくり息をのむ私を、学園長はじっと見つめて言った。
「詳細について、まだわかっていない」
「なによそれ⁉」
思わずツッコむ私を、学園長が「まあまあ」となだめる。
「色々能力者の生活で現れる事例と検証してみたのだが、安城さんの場合そのどれも当てはまらない。
おそらく非常に稀有な能力なのだろう、とは考えている」
「……それって、そもそも能力なんてない、って可能性は?」
恐る恐る尋ねる私に、しかし学園長は首を横に振る。
「それはない。
テストで示された通り、安城さんは間違いなく能力者だ。
けれどたまにいるのだよ、どんな能力か判別できずに入学する子は」
「はあ、そうなんですか」
私は気の抜けた相槌を打つ。
もうドッと疲れた、さっきの緊張感を返してくれ。
しかし学園長は話を続ける。
「だから安城さんは『能力未定』となっているのだが、これがまた問題でな」
「問題、ですか」
やる気がなさそうに首をかしげる私を、学園長はひたりと見据える。
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