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第一話 いかにして私が「男子」になったのか
2 第一学園関係者発見
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「勘弁してよぉ……」
私は思わずそうこぼし、駐車場のアスファルトに膝をついた。
いつになったら学校の建物を拝めるのだ。
そしてこの駐車場の規模からして、ここへ来る人は移動がほとんど車なのだろう。
徒歩で来た私がおかしいのかもしれない。
「もう疲れた、歩きたくない、お家に帰りたい」
そんな愚痴が口から突いて出る私は、都会へ出て初日にして、もうホームシックになりかけていた。
そんな時。
「そこの君」
突然男の声がした。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
……空耳かな?
駐車場には私しかいないんだから、声なんか聞こえるわけないじゃないか。
やっぱり慣れない移動続きで疲れているんだろう。
でも疲れた、帰りたいと愚痴っていても、帰るための移動費もない。
それにこんなところで夜を明かすなんて冗談じゃない。
学園の敷地には入ったんだから、もうひと頑張りだ。
そう考えて奮起すると、よいしょっと立ち上がったのだが。
「安城明日香君ですか?」
また同じ声の空耳、しかも名前を言われた。
何故空耳のくせに私の名前を知っているのか。
そしてこの空耳、どうも上から聞こえている気がするのだが。
高い建物なんてない駐車場で、上から聞こえる声ってなんだ。
もしや、幽霊とか……。
そういえば時間もちょうど夕暮れ時に差し掛かっているし、幽霊が出るにはもってこいなシチュエーションと言えるかもしれない。
そこまで考えた私は、ブルりと頭を振る。
ダメダメ、そんなこと考えたら!
だいたい私って幽霊とかオカルト系はダメなんだって!
けれど暗くなってくる駐車場に長居するのが怖くなり、早歩きで校舎が見える方へ向かおうとした。
すると――
「もし安城明日香君なら、寮へ向かうには全く見当違い。
というかここから見て校舎の真裏ですよ」
「はぁ⁉ なにそれ、まだ歩けって言うの⁉」
衝撃の真実を告げられた私は、幽霊への恐怖も忘れて思わず声が聞こえる上を仰いだ。
そうしたら、なんか人が空に浮いていた。
年齢は私よりも上だろう、清潔に整えられた髪が風になびき、切れ長の目がこちらを見下ろしている。
身体つきは痩せてもおらず太ってもおらず、そこそこ鍛えているようだ。
そして、浮いている。
大事なことなので二度言いました。
なにこの人、リアル鳥人間?
突然のことに目を見開いてポカンと見上げる私の前に、その鳥人間はスウッと音も立てずに降りて来る。
「もう一度確認しますが、安城明日香君ですか?」
「あっハイそうです」
またまた名前を確認された私は、鳥人間が衝撃的過ぎて「怪しい人なのでは」とかいう警戒心が吹き飛び、素直に頷いてしまう。
というか相手が私服なので確信が持てないけれど、この人は学園の生徒なのだろうか?
鳥人間の能力者とか?
初めて見る自分以外の能力者を前にしてボーっとする私に、相手は「大丈夫かコイツ」という顔をした。
「安城君、ずいぶん到着が遅かったですね。
到着予定時間を大幅に過ぎているというのになかなか来ないから、なにか事件に巻き込まれたのかと上の人たちが心配していたというのに」
彼はそこで言葉を切ると、私の装備を確認してため息を漏らした。
「まさかここへ徒歩で移動してくると思いませんでした。
学園側から車を回されなかったのですか?」
そんな指摘を受け、私はスウッと視線を横に反らす。
確かに「移動が大変でしょうから、車を用意します」と言われた。
けれどそれを断ったのは、他でもない私だ。
ならばと代わりに電車と新幹線の切符を貰ったのだが。
だって自宅まで迎えが来て学園直行だったら、都会の街並みを楽しめない。
せっかく都会へ出るんだったら、駅とか見たいじゃないか。
そんなミーハー心で迎えの車を断った私は、バス停を探してさすらう間に当然後悔したとも。
田舎者の都会デビューは、案内役が必須なんだってね。
そしてまさか、学園がこんな僻地にあるとは予想外だった。
都会は田舎よりも便がいいという思い込みって、よくないと学習した私である。
だがそんな私の事情なんぞ、相手にとってはどうでもいいらしい。
「まあそんなことはとにかく、学園長も高等部校長も待ってますから。
さっさと行きますよ」
そう告げた彼につかつかと歩み寄られ、やおら小脇に荷物のように抱えられた。
「ちょっ、なに⁉」
「乙女に対してなんという抱え方をするのだ」と文句を言おうかと思ったら。
フワッ
なんと彼の身体ごと、地面から浮いた。
「うぎゃ、なに、なに⁉」
「暴れると危ないですよ。
君に合わせて道を歩いていたら、寮の閉門時間になってしまいますからね。
最短距離を行きます」
ジタバタと手足を動かす私に、彼はそう宣言するとギュインと上空へ舞い上がった。
「うぎゃぁぁあ‼」
この時の感情を、どう言えば理解してもらえるだろうか?
人の腕一本を命綱に、空をカッ飛ばされることの恐怖を。
だって考えても見てよ、初対面の人に抱えられているだけなんだよ?
怖くないわけないじゃないのさ!
「怖い!
小学校の頃に流行った崖の上から滝つぼダイブよりも怖い!
ちょっとチビりそう!」
「うるさいですねぇ……おや?」
なにか叫んでいないと気絶しそうな私が、ぎゃあぎゃ騒ぐのに嘆息した彼が、一瞬かすかに眉をひそめる。
けれどそんなことに、私が気付く余裕なんてあるはずがない。
私は思わずそうこぼし、駐車場のアスファルトに膝をついた。
いつになったら学校の建物を拝めるのだ。
そしてこの駐車場の規模からして、ここへ来る人は移動がほとんど車なのだろう。
徒歩で来た私がおかしいのかもしれない。
「もう疲れた、歩きたくない、お家に帰りたい」
そんな愚痴が口から突いて出る私は、都会へ出て初日にして、もうホームシックになりかけていた。
そんな時。
「そこの君」
突然男の声がした。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
……空耳かな?
駐車場には私しかいないんだから、声なんか聞こえるわけないじゃないか。
やっぱり慣れない移動続きで疲れているんだろう。
でも疲れた、帰りたいと愚痴っていても、帰るための移動費もない。
それにこんなところで夜を明かすなんて冗談じゃない。
学園の敷地には入ったんだから、もうひと頑張りだ。
そう考えて奮起すると、よいしょっと立ち上がったのだが。
「安城明日香君ですか?」
また同じ声の空耳、しかも名前を言われた。
何故空耳のくせに私の名前を知っているのか。
そしてこの空耳、どうも上から聞こえている気がするのだが。
高い建物なんてない駐車場で、上から聞こえる声ってなんだ。
もしや、幽霊とか……。
そういえば時間もちょうど夕暮れ時に差し掛かっているし、幽霊が出るにはもってこいなシチュエーションと言えるかもしれない。
そこまで考えた私は、ブルりと頭を振る。
ダメダメ、そんなこと考えたら!
だいたい私って幽霊とかオカルト系はダメなんだって!
けれど暗くなってくる駐車場に長居するのが怖くなり、早歩きで校舎が見える方へ向かおうとした。
すると――
「もし安城明日香君なら、寮へ向かうには全く見当違い。
というかここから見て校舎の真裏ですよ」
「はぁ⁉ なにそれ、まだ歩けって言うの⁉」
衝撃の真実を告げられた私は、幽霊への恐怖も忘れて思わず声が聞こえる上を仰いだ。
そうしたら、なんか人が空に浮いていた。
年齢は私よりも上だろう、清潔に整えられた髪が風になびき、切れ長の目がこちらを見下ろしている。
身体つきは痩せてもおらず太ってもおらず、そこそこ鍛えているようだ。
そして、浮いている。
大事なことなので二度言いました。
なにこの人、リアル鳥人間?
突然のことに目を見開いてポカンと見上げる私の前に、その鳥人間はスウッと音も立てずに降りて来る。
「もう一度確認しますが、安城明日香君ですか?」
「あっハイそうです」
またまた名前を確認された私は、鳥人間が衝撃的過ぎて「怪しい人なのでは」とかいう警戒心が吹き飛び、素直に頷いてしまう。
というか相手が私服なので確信が持てないけれど、この人は学園の生徒なのだろうか?
鳥人間の能力者とか?
初めて見る自分以外の能力者を前にしてボーっとする私に、相手は「大丈夫かコイツ」という顔をした。
「安城君、ずいぶん到着が遅かったですね。
到着予定時間を大幅に過ぎているというのになかなか来ないから、なにか事件に巻き込まれたのかと上の人たちが心配していたというのに」
彼はそこで言葉を切ると、私の装備を確認してため息を漏らした。
「まさかここへ徒歩で移動してくると思いませんでした。
学園側から車を回されなかったのですか?」
そんな指摘を受け、私はスウッと視線を横に反らす。
確かに「移動が大変でしょうから、車を用意します」と言われた。
けれどそれを断ったのは、他でもない私だ。
ならばと代わりに電車と新幹線の切符を貰ったのだが。
だって自宅まで迎えが来て学園直行だったら、都会の街並みを楽しめない。
せっかく都会へ出るんだったら、駅とか見たいじゃないか。
そんなミーハー心で迎えの車を断った私は、バス停を探してさすらう間に当然後悔したとも。
田舎者の都会デビューは、案内役が必須なんだってね。
そしてまさか、学園がこんな僻地にあるとは予想外だった。
都会は田舎よりも便がいいという思い込みって、よくないと学習した私である。
だがそんな私の事情なんぞ、相手にとってはどうでもいいらしい。
「まあそんなことはとにかく、学園長も高等部校長も待ってますから。
さっさと行きますよ」
そう告げた彼につかつかと歩み寄られ、やおら小脇に荷物のように抱えられた。
「ちょっ、なに⁉」
「乙女に対してなんという抱え方をするのだ」と文句を言おうかと思ったら。
フワッ
なんと彼の身体ごと、地面から浮いた。
「うぎゃ、なに、なに⁉」
「暴れると危ないですよ。
君に合わせて道を歩いていたら、寮の閉門時間になってしまいますからね。
最短距離を行きます」
ジタバタと手足を動かす私に、彼はそう宣言するとギュインと上空へ舞い上がった。
「うぎゃぁぁあ‼」
この時の感情を、どう言えば理解してもらえるだろうか?
人の腕一本を命綱に、空をカッ飛ばされることの恐怖を。
だって考えても見てよ、初対面の人に抱えられているだけなんだよ?
怖くないわけないじゃないのさ!
「怖い!
小学校の頃に流行った崖の上から滝つぼダイブよりも怖い!
ちょっとチビりそう!」
「うるさいですねぇ……おや?」
なにか叫んでいないと気絶しそうな私が、ぎゃあぎゃ騒ぐのに嘆息した彼が、一瞬かすかに眉をひそめる。
けれどそんなことに、私が気付く余裕なんてあるはずがない。
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