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第二話 噂の「ハルカ」
32 妹のお仕事
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「いらっしゃいませ」
「あの、人と待ち合わせをしているのですが」
出迎えた由紀にそう窺って来たのは、三十代半ばくらいのスーツ姿の男性だ。
「もういらっしゃってます」
由紀は込み入った話のしやすい、角のボックス席に案内した。ちなみにそこは、先日田んぼ三人組が陣取った席でもある。既に席にスタンバイしていた春香が、男性に手を振る。
「ああ、本当ですね」
彼がホッとした表情で席に向かったので、由紀は少し間を開けて注文を聞きに行く。
「ご注文は?」
「えー、コーヒーをお願いします」
こうして貰った注文を伝えに行くと、近藤がカウンターからコッソリと春香たちを覗いていた。
「コーヒーです」
「おぅ……アイツがそうか」
由紀がそう言ってペラリと伝票を見せても、近藤は気持ちがあちらのボックス席に飛んでいる。兄として、妹のことが気になるのだろう。一人っ子の由紀には、そういった関係が少し羨ましいかもしれない。
近藤家の大事らしいと知れば、由紀もちょっとは気になるというもの。
――ふぅん?
由紀は少し眼鏡をずらし、角のボックス席を見る。春香は近藤や由梨枝と同じ緑系で、黄緑のような明るめの色だ。その一方で男性の纏う色は、濃い紫。新開会長も紫系だが、この色は気位が高く、上昇志向が強い傾向がある。ここまでは普通の出世したい人なのだが、あの男性の場合は所々黒がかっている。
どんな色であれ、黒が混じるのは危険なサインだ。それは恨みを抱いている者、悪だくみをしている者が持つことの多い色である。
「駄目だなありゃ」
由紀ボソッと呟くと、近藤がちらりとこちらを見る。
――聞こえちゃったかな?
「なにがだ」と問われるかと思い、どう言い訳しようかと考えていると。
「コーヒーだったな」
由紀から視線を逸らした近藤がコーヒーを淹れに厨房の奥へ戻ると、ちょうど新たに客が入って来た。
「あ、いらっしゃいませー」
すぐに由紀の意識も逸れたため、このことはすぐに忘れてしまう。
近藤の淹れたコーヒーを春香たちの席に持っていくと、資料を見せての説明の真っ最中だった。
「コーヒー、お待たせしました」
「ありがとう、そしてですね……」
テーブルの空いているスペースにコーヒーを置くが、男性はそちらを見向きもせず、熱心に話をしている。そして見たところ、春香も乗り気であるように思える。
――この人、話が上手いものね。
営業をかけるだけあり、相手を引き込む話術が巧みだ。コーヒーを運んだだけの由紀ですら、言葉に熱意を感じる。由紀たちのような社会人経験の浅い子供には、手ごわい相手であろう。
それから小一時間程話していただろうか。
「じゃあどうするかを決めたら、電話で伝えます」
「前向きな検討を、よろしくお願いします」
そう告げる春香に、男性は深々と頭を下げて店を出て行った。
その後、春香は自宅スペースへ帰っていった。妙な緊張感から解放された店内に、穏やかな時間が流れ始める。
やがてお昼目当ての客がパラパラと入り出し、昼食の忙しい時間を凌げば昼休憩である。
「西田さん、休憩いいわよー」
「はぁい」
由梨枝に言われて賄いが用意されたカウンターに行くと、またもや近藤と隣り合わせだ。この並びはもう由梨枝の中で決まっているらしい。ちなみに、本日のメニューはナポリタンだ。
「いただきます!」
由紀は口周りが汚れるのを気にせず、豪快にナポリタンを頬張る。濃厚なケチャップの味がとても美味しい。隣の近藤の皿は、由紀のものよりボリュームが三割増しになっていて、それを案外上手に食べている。一瞬自分の食べ方と比べてしまった由紀だが。
――いいの、美味しさの前に上手な食べ方なんて無意味なの!
そう割り切って、ナポリタンの攻略に集中する。
「あの、人と待ち合わせをしているのですが」
出迎えた由紀にそう窺って来たのは、三十代半ばくらいのスーツ姿の男性だ。
「もういらっしゃってます」
由紀は込み入った話のしやすい、角のボックス席に案内した。ちなみにそこは、先日田んぼ三人組が陣取った席でもある。既に席にスタンバイしていた春香が、男性に手を振る。
「ああ、本当ですね」
彼がホッとした表情で席に向かったので、由紀は少し間を開けて注文を聞きに行く。
「ご注文は?」
「えー、コーヒーをお願いします」
こうして貰った注文を伝えに行くと、近藤がカウンターからコッソリと春香たちを覗いていた。
「コーヒーです」
「おぅ……アイツがそうか」
由紀がそう言ってペラリと伝票を見せても、近藤は気持ちがあちらのボックス席に飛んでいる。兄として、妹のことが気になるのだろう。一人っ子の由紀には、そういった関係が少し羨ましいかもしれない。
近藤家の大事らしいと知れば、由紀もちょっとは気になるというもの。
――ふぅん?
由紀は少し眼鏡をずらし、角のボックス席を見る。春香は近藤や由梨枝と同じ緑系で、黄緑のような明るめの色だ。その一方で男性の纏う色は、濃い紫。新開会長も紫系だが、この色は気位が高く、上昇志向が強い傾向がある。ここまでは普通の出世したい人なのだが、あの男性の場合は所々黒がかっている。
どんな色であれ、黒が混じるのは危険なサインだ。それは恨みを抱いている者、悪だくみをしている者が持つことの多い色である。
「駄目だなありゃ」
由紀ボソッと呟くと、近藤がちらりとこちらを見る。
――聞こえちゃったかな?
「なにがだ」と問われるかと思い、どう言い訳しようかと考えていると。
「コーヒーだったな」
由紀から視線を逸らした近藤がコーヒーを淹れに厨房の奥へ戻ると、ちょうど新たに客が入って来た。
「あ、いらっしゃいませー」
すぐに由紀の意識も逸れたため、このことはすぐに忘れてしまう。
近藤の淹れたコーヒーを春香たちの席に持っていくと、資料を見せての説明の真っ最中だった。
「コーヒー、お待たせしました」
「ありがとう、そしてですね……」
テーブルの空いているスペースにコーヒーを置くが、男性はそちらを見向きもせず、熱心に話をしている。そして見たところ、春香も乗り気であるように思える。
――この人、話が上手いものね。
営業をかけるだけあり、相手を引き込む話術が巧みだ。コーヒーを運んだだけの由紀ですら、言葉に熱意を感じる。由紀たちのような社会人経験の浅い子供には、手ごわい相手であろう。
それから小一時間程話していただろうか。
「じゃあどうするかを決めたら、電話で伝えます」
「前向きな検討を、よろしくお願いします」
そう告げる春香に、男性は深々と頭を下げて店を出て行った。
その後、春香は自宅スペースへ帰っていった。妙な緊張感から解放された店内に、穏やかな時間が流れ始める。
やがてお昼目当ての客がパラパラと入り出し、昼食の忙しい時間を凌げば昼休憩である。
「西田さん、休憩いいわよー」
「はぁい」
由梨枝に言われて賄いが用意されたカウンターに行くと、またもや近藤と隣り合わせだ。この並びはもう由梨枝の中で決まっているらしい。ちなみに、本日のメニューはナポリタンだ。
「いただきます!」
由紀は口周りが汚れるのを気にせず、豪快にナポリタンを頬張る。濃厚なケチャップの味がとても美味しい。隣の近藤の皿は、由紀のものよりボリュームが三割増しになっていて、それを案外上手に食べている。一瞬自分の食べ方と比べてしまった由紀だが。
――いいの、美味しさの前に上手な食べ方なんて無意味なの!
そう割り切って、ナポリタンの攻略に集中する。
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