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第一話 予定が狂った夏休み
20 アルバイト三日目・再来店
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「今日は表にいるのね、昨日は違う娘がいて会えなかったからよかったわ」
ホッとした笑顔を見せる新開会長は、どうやら由紀に気付いていないようだ。由紀たちのいるボックス席は観葉植物の陰になっていることもあり、彼女のいる入り口付近からは見えにくい。そろそろと頭を低くする由紀に、近藤が小声で囁く。
「おめぇ、ここにじっとしていろよ」
そして新開会長のそばに近付いた。
「いらっしゃい、この席でいいか?」
近藤が誘導したのは、入り口近くのカウンター席だった。
「ええ! どこでもいいわ!」
近藤が来たからだろう、新開会長は輝く笑顔で頷く。昨日の由紀に対する態度とは偉い違いだ。
「なににする?」
けれど近藤はその笑顔をスルーして、注文を聞く。その際も、近藤が盾になるように立っているので、新開会長は由紀たちが見えないだろう。
――もしかして、新開会長がこっちに気付かないように?
昨日由紀が絡まれていたのを、近藤も実は気にしていたのだろうか。
一方で新開会長はそんな近藤の動きを一切気にすることなく、メニューを見る。
「ケーキセット、アイスコーヒーとミルクレープで」
「わかった」
注文を受けてすぐに厨房へ引っ込もうとした近藤だったが。
「待ってよ、言いたいことがあるの」
新開会長が袖を掴んで阻止する。捕まった近藤は袖を引き戻しつつ、無表情で向き直った。
「……なにか?」
「弘樹、アルバイトが必要なら私に言ってくれればいいのに」
静かに問いかける近藤に、新開会長はぷうっとむくれるような表情をする。
――美人はあんな顔をしても様になるのね。
由紀は観葉植物越しに、コッソリと様子を観察していた。
新開会長の物言いに、近藤はため息を吐く。
「……アンタ、受験生だろうが」
近藤の意見はもっともで、受験生にバイトを勧めるのはいただけない。
けどこれに新開会長は反論する。
「私、もう推薦がほぼ決まってるもの」
「……」
「弘樹、私じゃ頼りない?」
引き下がらない新開会長に、近藤が耐えるように無言を貫く。
その様子を、由紀たちは角のボックス席からコソコソ見ていたのだが。
「ねえ、なんか意外な組み合わせなんだけど」
「しかも修羅場っぽい」
「ウンウン」
野次馬丸出しでヒソヒソする田んぼ三人組に、由紀も顔を寄せて囁く。
「実はあの人、昨日も来たし」
しかもそこそこ客の入っている場所で、声を潜めずに修羅場を演じるあたり、確信犯っぽい。あれでは逃げたら近藤は悪者だ。
――計算高いなぁ。
近藤もえらい幼馴染を持ったものだ。由紀は新開会長を憧れの女子生徒としてちょっと尊敬してただけに、ドン引き度合いもすごい。
少々げんなりしている由紀に、中田が尋ねた。
「ねえ西田さん、あの二人は?」
言葉を端折っているが、相性を聞きたいのだろう。
――近藤と新開会長ねぇ。
「……ノーコメント」
「ってそれ、顔がすべてを語ってるって」
由紀が渋い顔で告げると、柴田が小声で苦笑する。
近藤と新開会長は、恋バナとしては最高に面白いが、ベストカップルになれそうかと言えばノーである。
人の纏う色は相性にも影響する。色が似通っている者、あるいは混じり合っても濁らない色同士である者は、恋でも友情でもけっこう上手く行く。
けれどこれが、混じると色が濁る者同士だと、恋も友情も上手く行かない。これは由紀の経験則だ。近藤とバイク仲間が上手く付き合えているのも、色が濁らない関係だからだろう。永野愛花との相性を聞いた彼に「いい方」だと答えたのも、色が同じ系統同士という理由である。
それで言うと近藤の色と新開会長の色は、混じり合うと濁る。しかも色味が新開会長の方が強い。これは二人の関係性にも表れているように思える。押せ押せの新開会長と、引き気味の近藤。近藤は己が濁らされることを、本能で察しているのかもしれない。
動けないでいる近藤を救ったのは、由梨枝だった。
「弘くーん、ちょっと手伝ってー」
「わかった、今行く」
近藤は新開会長から視線を離すと、厨房へ入っていく。
残された新開会長は、唇を噛み締めていた。
昨日は二時間粘った新開会長だったが、今日はケーキセットをさっさと食べてすぐに帰った。近藤から思うような反応が引き出せず、一旦退散したのだろう。
ところでこの件は、近藤に意外な影響をもたらした。
「弘くんだって、あの強面で」
「可愛い呼び方だね」
「でも、意外と似合うかなぁ」
由紀が仕事に戻ると、田んぼ三人組がニヤニヤしながら厨房を覗いているのが窺える。
一方で「弘くん」呼びをクラスメイトに聞かれた近藤は、厨房で一人項垂れていた。
「……最悪だ」
落ち込む近藤の肩を、由紀はポンと叩く。
「そのうち皆慣れるって」
「そうじゃねぇよ!」
由紀の慰めに、近藤が噛みつくように返す。近藤にも、キープしていたいイメージがあったらしい。
ホッとした笑顔を見せる新開会長は、どうやら由紀に気付いていないようだ。由紀たちのいるボックス席は観葉植物の陰になっていることもあり、彼女のいる入り口付近からは見えにくい。そろそろと頭を低くする由紀に、近藤が小声で囁く。
「おめぇ、ここにじっとしていろよ」
そして新開会長のそばに近付いた。
「いらっしゃい、この席でいいか?」
近藤が誘導したのは、入り口近くのカウンター席だった。
「ええ! どこでもいいわ!」
近藤が来たからだろう、新開会長は輝く笑顔で頷く。昨日の由紀に対する態度とは偉い違いだ。
「なににする?」
けれど近藤はその笑顔をスルーして、注文を聞く。その際も、近藤が盾になるように立っているので、新開会長は由紀たちが見えないだろう。
――もしかして、新開会長がこっちに気付かないように?
昨日由紀が絡まれていたのを、近藤も実は気にしていたのだろうか。
一方で新開会長はそんな近藤の動きを一切気にすることなく、メニューを見る。
「ケーキセット、アイスコーヒーとミルクレープで」
「わかった」
注文を受けてすぐに厨房へ引っ込もうとした近藤だったが。
「待ってよ、言いたいことがあるの」
新開会長が袖を掴んで阻止する。捕まった近藤は袖を引き戻しつつ、無表情で向き直った。
「……なにか?」
「弘樹、アルバイトが必要なら私に言ってくれればいいのに」
静かに問いかける近藤に、新開会長はぷうっとむくれるような表情をする。
――美人はあんな顔をしても様になるのね。
由紀は観葉植物越しに、コッソリと様子を観察していた。
新開会長の物言いに、近藤はため息を吐く。
「……アンタ、受験生だろうが」
近藤の意見はもっともで、受験生にバイトを勧めるのはいただけない。
けどこれに新開会長は反論する。
「私、もう推薦がほぼ決まってるもの」
「……」
「弘樹、私じゃ頼りない?」
引き下がらない新開会長に、近藤が耐えるように無言を貫く。
その様子を、由紀たちは角のボックス席からコソコソ見ていたのだが。
「ねえ、なんか意外な組み合わせなんだけど」
「しかも修羅場っぽい」
「ウンウン」
野次馬丸出しでヒソヒソする田んぼ三人組に、由紀も顔を寄せて囁く。
「実はあの人、昨日も来たし」
しかもそこそこ客の入っている場所で、声を潜めずに修羅場を演じるあたり、確信犯っぽい。あれでは逃げたら近藤は悪者だ。
――計算高いなぁ。
近藤もえらい幼馴染を持ったものだ。由紀は新開会長を憧れの女子生徒としてちょっと尊敬してただけに、ドン引き度合いもすごい。
少々げんなりしている由紀に、中田が尋ねた。
「ねえ西田さん、あの二人は?」
言葉を端折っているが、相性を聞きたいのだろう。
――近藤と新開会長ねぇ。
「……ノーコメント」
「ってそれ、顔がすべてを語ってるって」
由紀が渋い顔で告げると、柴田が小声で苦笑する。
近藤と新開会長は、恋バナとしては最高に面白いが、ベストカップルになれそうかと言えばノーである。
人の纏う色は相性にも影響する。色が似通っている者、あるいは混じり合っても濁らない色同士である者は、恋でも友情でもけっこう上手く行く。
けれどこれが、混じると色が濁る者同士だと、恋も友情も上手く行かない。これは由紀の経験則だ。近藤とバイク仲間が上手く付き合えているのも、色が濁らない関係だからだろう。永野愛花との相性を聞いた彼に「いい方」だと答えたのも、色が同じ系統同士という理由である。
それで言うと近藤の色と新開会長の色は、混じり合うと濁る。しかも色味が新開会長の方が強い。これは二人の関係性にも表れているように思える。押せ押せの新開会長と、引き気味の近藤。近藤は己が濁らされることを、本能で察しているのかもしれない。
動けないでいる近藤を救ったのは、由梨枝だった。
「弘くーん、ちょっと手伝ってー」
「わかった、今行く」
近藤は新開会長から視線を離すと、厨房へ入っていく。
残された新開会長は、唇を噛み締めていた。
昨日は二時間粘った新開会長だったが、今日はケーキセットをさっさと食べてすぐに帰った。近藤から思うような反応が引き出せず、一旦退散したのだろう。
ところでこの件は、近藤に意外な影響をもたらした。
「弘くんだって、あの強面で」
「可愛い呼び方だね」
「でも、意外と似合うかなぁ」
由紀が仕事に戻ると、田んぼ三人組がニヤニヤしながら厨房を覗いているのが窺える。
一方で「弘くん」呼びをクラスメイトに聞かれた近藤は、厨房で一人項垂れていた。
「……最悪だ」
落ち込む近藤の肩を、由紀はポンと叩く。
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