45 / 50
第六話 恋はなに色?
6 会長の本領発揮
しおりを挟む
「それって、明るい茶色の髪に青の目、白い肌の、羽を背負わせれば天使に見える愛らしさな幼児の近藤くんですか?」
「そんな言い方じゃ表現できないわ!
弘樹ちゃんはこの世のものとは思えない可愛さなんだから!」
尋ねた由紀に、新開会長が目をくわっと開き、噛みつくように言う。
これまで見た彼女の中で、恐らく今が最もテンションが高いだろう。
それから新開会長は、「弘樹ちゃん」との思い出を怒涛のように語り始めた。
「弘樹ちゃんと初めて会ったのは私が五歳の時ね。
近所の子が同じ幼稚園に入るから、仲良くしてねと親に言われて引き合わされたのよ。
あなたは知ってる?
弘樹ちゃんのあの髪は地毛だって。
一目見て、私は天使って本当にいるんだと思ったわ」
そこから近藤のことをなにかと気にかけ、一人で寂しそうにしていたら遊んでやり、熱を出したらお見舞いに行きと、熱心にお世話をしたという。
「大勢の女の子に囲まれるとなにも言えなくなって、よく髪にリボンを結ばれていて、泣きべそをかいていたわ」
新開会長がさらっと近藤の黒歴史をバラす。
――可愛かったから、女の子扱いされちゃったのか。
リボンが似合いそうだなとは、由紀も写真を見て思ったことだ。
もしや近藤が当時を覚えていないのは、思い出したくない記憶を抹消したからではなかろうか。
「人に強く出られると流されちゃうし、繊細だから些細なことを気にして熱を出すし」
――その傾向は今でもあるな。
あの近藤の流され気にしぃな性格は、生まれ持ったものらしい。
「熱を出して苦しんでいるんじゃないか、いじめられて困っているんじゃないかって、気になって気になって……」
――近藤のオカンかアンタは。
こうして、新開会長の「弘樹ちゃん」への愛が止まらずに続いていく。
昨日、由梨枝が言っていたのだ。
『もしかして亜依子ちゃんの中では、未だに弘くんはこの姿なのかもしれないわね』
『……新開会長の目には、この強面が天使に見えているってことですか?』
そう尋ねた由紀はかなり無理があると思っていたが、その無理を押し通したからおかしなことになったのか。
幼児期、新開会長が近藤に一目惚れしたのはいい。
けれど彼女はそれから時が経っても、ずっと近藤のことは「弘樹ちゃん」で。
新開会長は近藤弘樹ではなく、「弘樹ちゃん」に恋をしているのだ。
――色が濁るわけだよ。
恋の色は人によって色彩が違う。
暗いピンク色だったり、まばゆいショッキングピンク色だったりと、色々なバリエーションがある。
何故なら、恋は相手を想って染まる色だから。
けれども新開会長は自分の記憶の中の「弘樹ちゃん」に恋をしていて、「弘樹ちゃん」は「近藤弘樹」ではない。
相手不在の一人よがりの恋だから、新開会長の恋の色はドブ色なのだ。
しかし、このままでは新開会長にとっても良くないだろう。
――確かにあの頃の近藤は可愛かったし、一目惚れしちゃったのはわかるけどさぁ。
けど近藤だって生身の人間なのだから、年を経るごとに成長するのだ。
「新開会長、目を覚ましましょうよ。
天使な『弘樹ちゃん』は、もうこの世にいないんです」
「そんなことない!
弘樹ちゃんは今でも弘樹ちゃんだもの!」
説得を試みる由紀に、新開会長が猛反論する。
恐らく過去に誰かに同じようなことを言われたのだろう。
というか、ここ最近の彼女の店での問題行動が両親の耳に入って、説得を試みられたのかもしれない。
それでも彼女にとって「もう弘樹ちゃんじゃない」というのは、最も聞きたくない言葉なのだ。
けれど、由紀は言葉を続ける。
「そんなことありますって、見てくださいコレ。
ほとんど別人だと思いませんか?」
そう言って新開会長の眼前に二枚の写真を突きつけた。
それは近藤の幼児の頃と現在との、ビフォーアフター写真だった。
ちなみに現在の写真は昨日のバイト終わりに撮ったものだ。
近藤はカメラのレンズを睨む癖があるのか、普段の二割増しで厳つい。
「あ、弘樹ちゃんの写真!
それと……?」
新開会長は「天使の弘樹ちゃん」の写真に食いつくと、もう一枚の写真を訝し気に見る。
「これは、現在の『弘樹ちゃん』の写真です。
すごく厳ついでしょう?」
「嘘おっしゃい、弘樹ちゃんはこんなのじゃないわ」
由紀がずいっと押し出した強面写真を、新開会長が即否定する。
「こんなのなんです、現実の『近藤弘樹』は」
けれど、由紀は強い口調で言った。
「かつては『弘樹ちゃん』だった近藤くんも日々成長しているんです。
昔を懐かしむのは新開会長の勝手ですが、本人の成長を否定しちゃ駄目だと思います」
写真は、ある意味本物よりもより本物な現実を突きつける。
写真だと老けて見えるとか、印象が違って見えるというのもそういうことだ。
ちゃんと二つの写真を見比べて、「弘樹ちゃんフィルター」越しではない近藤を見てほしい。
「弘樹ちゃん」ではない、現在の「近藤弘樹」も認めてあげてほしい。
「そんな言い方じゃ表現できないわ!
弘樹ちゃんはこの世のものとは思えない可愛さなんだから!」
尋ねた由紀に、新開会長が目をくわっと開き、噛みつくように言う。
これまで見た彼女の中で、恐らく今が最もテンションが高いだろう。
それから新開会長は、「弘樹ちゃん」との思い出を怒涛のように語り始めた。
「弘樹ちゃんと初めて会ったのは私が五歳の時ね。
近所の子が同じ幼稚園に入るから、仲良くしてねと親に言われて引き合わされたのよ。
あなたは知ってる?
弘樹ちゃんのあの髪は地毛だって。
一目見て、私は天使って本当にいるんだと思ったわ」
そこから近藤のことをなにかと気にかけ、一人で寂しそうにしていたら遊んでやり、熱を出したらお見舞いに行きと、熱心にお世話をしたという。
「大勢の女の子に囲まれるとなにも言えなくなって、よく髪にリボンを結ばれていて、泣きべそをかいていたわ」
新開会長がさらっと近藤の黒歴史をバラす。
――可愛かったから、女の子扱いされちゃったのか。
リボンが似合いそうだなとは、由紀も写真を見て思ったことだ。
もしや近藤が当時を覚えていないのは、思い出したくない記憶を抹消したからではなかろうか。
「人に強く出られると流されちゃうし、繊細だから些細なことを気にして熱を出すし」
――その傾向は今でもあるな。
あの近藤の流され気にしぃな性格は、生まれ持ったものらしい。
「熱を出して苦しんでいるんじゃないか、いじめられて困っているんじゃないかって、気になって気になって……」
――近藤のオカンかアンタは。
こうして、新開会長の「弘樹ちゃん」への愛が止まらずに続いていく。
昨日、由梨枝が言っていたのだ。
『もしかして亜依子ちゃんの中では、未だに弘くんはこの姿なのかもしれないわね』
『……新開会長の目には、この強面が天使に見えているってことですか?』
そう尋ねた由紀はかなり無理があると思っていたが、その無理を押し通したからおかしなことになったのか。
幼児期、新開会長が近藤に一目惚れしたのはいい。
けれど彼女はそれから時が経っても、ずっと近藤のことは「弘樹ちゃん」で。
新開会長は近藤弘樹ではなく、「弘樹ちゃん」に恋をしているのだ。
――色が濁るわけだよ。
恋の色は人によって色彩が違う。
暗いピンク色だったり、まばゆいショッキングピンク色だったりと、色々なバリエーションがある。
何故なら、恋は相手を想って染まる色だから。
けれども新開会長は自分の記憶の中の「弘樹ちゃん」に恋をしていて、「弘樹ちゃん」は「近藤弘樹」ではない。
相手不在の一人よがりの恋だから、新開会長の恋の色はドブ色なのだ。
しかし、このままでは新開会長にとっても良くないだろう。
――確かにあの頃の近藤は可愛かったし、一目惚れしちゃったのはわかるけどさぁ。
けど近藤だって生身の人間なのだから、年を経るごとに成長するのだ。
「新開会長、目を覚ましましょうよ。
天使な『弘樹ちゃん』は、もうこの世にいないんです」
「そんなことない!
弘樹ちゃんは今でも弘樹ちゃんだもの!」
説得を試みる由紀に、新開会長が猛反論する。
恐らく過去に誰かに同じようなことを言われたのだろう。
というか、ここ最近の彼女の店での問題行動が両親の耳に入って、説得を試みられたのかもしれない。
それでも彼女にとって「もう弘樹ちゃんじゃない」というのは、最も聞きたくない言葉なのだ。
けれど、由紀は言葉を続ける。
「そんなことありますって、見てくださいコレ。
ほとんど別人だと思いませんか?」
そう言って新開会長の眼前に二枚の写真を突きつけた。
それは近藤の幼児の頃と現在との、ビフォーアフター写真だった。
ちなみに現在の写真は昨日のバイト終わりに撮ったものだ。
近藤はカメラのレンズを睨む癖があるのか、普段の二割増しで厳つい。
「あ、弘樹ちゃんの写真!
それと……?」
新開会長は「天使の弘樹ちゃん」の写真に食いつくと、もう一枚の写真を訝し気に見る。
「これは、現在の『弘樹ちゃん』の写真です。
すごく厳ついでしょう?」
「嘘おっしゃい、弘樹ちゃんはこんなのじゃないわ」
由紀がずいっと押し出した強面写真を、新開会長が即否定する。
「こんなのなんです、現実の『近藤弘樹』は」
けれど、由紀は強い口調で言った。
「かつては『弘樹ちゃん』だった近藤くんも日々成長しているんです。
昔を懐かしむのは新開会長の勝手ですが、本人の成長を否定しちゃ駄目だと思います」
写真は、ある意味本物よりもより本物な現実を突きつける。
写真だと老けて見えるとか、印象が違って見えるというのもそういうことだ。
ちゃんと二つの写真を見比べて、「弘樹ちゃんフィルター」越しではない近藤を見てほしい。
「弘樹ちゃん」ではない、現在の「近藤弘樹」も認めてあげてほしい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
私の話を聞いて頂けませんか?
鈴音いりす
青春
風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。
幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。
そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ひなまつり
はゆ
青春
茉莉は、動画配信チャンネル『ひなまつり』の配信者。 『そんな声でよう生きてけるな』言われてから、声にコンプレックス持って、人と話すの怖なった。
現実逃避先はライブ配信サイト。配信時に絡んでくる<文字列>が唯一の相談相手。 やかましくて変な<文字列>と、配信者〝祭〟の日常。
茉莉は、学校の友達が出来へんまま、夏休みに突入。
<文字列>の後押しを受け、憧れの同級生と海水浴に行けることになった。そやけど、問題が発生。『誘われた』伝えてしもた手前、誰かを誘わなあかん――。
* * *
ボイスノベルを楽しめるよう、キャラごとに声を分けています。耳で楽しんでいただけると幸いです。
https://novelba.com/indies/works/937809
別作品、桃介とリンクしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる