恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ

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第六話 恋はなに色?

4 合わない人間関係

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しばらくして天使の衝撃から立ち直った由紀は、アルバムの他の写真を見る。
 近藤の幼稚園時代の写真には、ロングヘアーの女の子が頻繁に写っていた。
 面影が残っているので誰なのかまるわかりだ。

「これ、新開会長ですか?」

由紀の指摘に、由梨枝が頷く。

「この頃の弘くんは、身体が弱くてね。
 いっつも熱を出して幼稚園を休んでたの」

幼稚園時代の近藤は病弱だったようだ。
 天使で病弱とか、漫画の主人公みたいである。
 今でも立派にバトル漫画の主人公っぽいが、幼少期はジャンルが違ったらしい。
 そして病弱天使を一生懸命に世話してくれたのが、近所に住んでいた新開会長だそうだ。

「それはもう、親よりも熱心に弘くんを看ていてくれたのよ?
 私が幼稚園から弘くんが熱を出したって連絡を受けて迎えに行ったら、いっつも亜依子ちゃんが寄り添っていてくれたわ」

由梨枝が写真を見ながら懐かしそうに語るが、当の本人である近藤は渋い顔のままだ。本人がいる場で昔語りをされる居たたまれなさは、由紀だってわかる。
 それにしても近藤と新開会長は、ただ近所に住んでいたというだけの繋がりではなかったらしい。

「……近藤さんや、ちなみにその記憶は?」

「ないな」

由紀が尋ねると、近藤はきっぱりとそう言った。
 それだけ熱心にお世話していたのに、忘れられる新開会長もある意味可哀想ではある。

 ――でも、なんだかだんだん状況が見えてきたぞ。

 由紀は近藤と新開会長の関係がこじれた原因がわかった気がした。
 恐らく二人の間のキーワードは、「天使な弘くん」だ。


それから昼の休憩を終えた近藤が仕事に戻った後、由紀の隣には春香が座ってアルバムをペラペラめくっていた。

「これは弘兄ぃのアルバムだから、私が持っているのとは写真が違うのよねー」

そんなことを話す春香の手が止まったのは、両親と兄妹で写っている家族写真があるページだった。

「これがパパよ」

春香が写真の中の男性を指さして言う。
 兄妹の父親は近藤の強面を幾分か柔らかくして、笑顔を足した顔立ちだった。
 つまり、あまり似ていないとも言える。
 兄妹両者とも母親の血が濃いのだろう。
 自宅前で撮ったのか、立派な一軒家が背後に写っている。

 ――なんか、お金持ちっぽい家だな。

 そんな感想を抱いた由紀に、春香が告げた。

「正直、パパと一緒に暮らしていた頃の方が、いい家に住んでいたし裕福だったわ」

友達の中でも貰うお小遣いは多い方だったし、強請ればなんでも買ってもらえた。
 傍から見れば、この頃の方が恵まれていたのかもしれないと春香は語る。

「けどね、私は今の生活の方がいいな。
 だって、誰も喧嘩しないもん」

母親は毎日忙しそうだけれどいつも笑顔だし、兄も悪い仲間とすっぱり縁を切り、春香に付き合って買い物にも行ってくれるという。

「え、一緒に買い物行くの? あの顔で?」

由紀は思わず尋ねた。
 きっとモデルをしている春香だから、由紀が利用する量販店ではなくて、繁華街にある女子がいっぱいいるお洒落なショップに行くのだろう。
 そんな場所に妹についていく強面男子。
 悪いが考えただけでちょっと笑えるかもしれない。

「そっ、あの顔で。目立つなんてもんじゃないわー」

春香もカラリと笑う。
 それでも付き合ってくれるのが嬉しくて、つい誘ってしまうのだという。
 そんな春香を見て、由紀は彼女に前に聞いた話を思い出した。
 「女は家にいるべし」という古い考え方の人だという、由梨枝の元夫。

 ――二人、色が合わなかったんだろうなぁ。

 たまに鈍い人がいて、濁る色同士なのに付き合って結婚するカップルもいる。
 そういう人たちは大抵外見やお金だとかステータスに惑わされ、自分の性質を忘れてしまっていたりする。
 けれどそれらにも慣れてしまうと、やはり相性の悪さが浮き立って来るもの。
 それで結局は離婚という結果が待ち受けるのだ。
 これは、近藤と新開会長にも言えることだ。
 例え新開会長が粘り勝ちをして、近藤と付き合い始めたとしても。
 二人の纏う色だと、ずっと連れ添っていく未来はないだろう。
 おそらく近藤は、押せ押せタイプな女子が苦手だ。
 紫色を纏う人は、だいたいキャラが強い傾向もある。
 上昇志向で自分に自信があると、自然とそうなるのだろう。
 新開会長は生徒会長で美人でカリスマがあってと、典型的な紫色の性質で、人をぐいぐい引っ張っていくタイプだ。
 引っ張ってもらいたい人だったら丁度いい相手なのだろうが、緑色のような自分のペースで行きたい性質の人だと、「ウザい」となる。
 新開会長の長所が、近藤にとっての短所となってしまった。

 ――長所も短所も、相手によりけりってことか。

 人間関係とは、マニュアル通りとはいかないものなのだ。
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