恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ

文字の大きさ
上 下
35 / 50
第五話 地味女と眼鏡とコーヒー

5 地獄へGO!

しおりを挟む
定休日の朝。

 由紀が両親が出勤した後、自宅のリビングでくつろいでいると、エントランスからのインターフォンが鳴った。
 モニターを見に行くと、そこにはやる気のなさげな近藤が映っている。

『おら、面倒だからさっさと行くぞ』

「へぇい」

インターフォン越しに急かす近藤に、由紀もやる気のない返事をして、エントランスに降りる。

 由紀たちが今から出かける先は、ここから車で十分ほどの場所にある大型ショッピングモールだ。

「ていうかさ、なんであそこなの?」

由紀はエントランスの前にバイクを停めて待つ近藤に会うなり、文句を言う。
 夏休みで人が多いであろう場所にわざわざ行く意味がわからない。
 これに、近藤はダルそうに答える。

「俺の家と田島の家の、ちょうど真ん中だからだ」
夏休みだから遊びたいとかのドキドキワクワク的なことではなく、いたって合理的な理由だった。
 それでもなお納得できないことがある。

「でもあのショッピングモールなら、私バスに乗って行ったのに」

そう、どうして近藤と一緒に行くのかという事だ。
 涼しいバスに揺られて行き、ショッピングモールのどこかで落ち合うのが最も涼しい方法ではなかろうか。
 そんな由紀の小言に対する、近藤の意見はというと。

「どうせ同じ所に行くんだろう、時間と金の手間が省けるじゃねぇか」

この男、こういう所が気い遣い屋である。

「なんでもいいから、早く行くぞ」

「はぁい」

ヘルメットを放り投げられたのを由紀がキャッチして被り、近藤の後ろにしがみつくと、バイクは出発する。
 その姿を、道の陰から見ている姿があることに、由紀も近藤も気が付かなかった。


バイクを走らせてショッピングモールに到着すると、二輪用の駐車スペースにバイクを停める。
 そして建物の中に入れば、そこは人ばかりだった。

「平日でこれなら、土日は地獄だなここ」

人ごみにうんざりしながら愚痴る由紀に、近藤が周囲を見渡しながら告げた。

「サマーセールと物産展があってるってよ。だから多いんじゃねぇの?」

なんと、集客イベントのダブルパンチの結果らしい。
 別々に日をずらして開催すればいいのに。
 というか、こんな日に呼び出した田島を呪いたい。
 こんなに人がわんさかいる場所で眼鏡を外したら、絶対に酔うどころではない気がする。
 眼鏡をきっちりかけ直した由紀は、近藤に尋ねる。

「で、どこにいるのよ、その田島くんは?」

「二階のフードコートだ」

 ――フードコートって、二階の端っこじゃんか。

 今いる場所とは真反対の場所を言われ、由紀はげんなりする。

「じっとしてても、むしろ人が増えるだけだぞ」

「へぇい……」

近藤に促され、由紀は渋々歩き出す。
 ガタイの良い近藤を盾にしながら人ごみをすり抜け、フードコートにたどり着いた。
 まだ昼時には早い時間なので、人はあまりいないかと思いきや、買い物途中の休憩をしている人が結構いる。
 アイスクリームやスイーツ系のショップも入っているので、休憩にもってこいなのだ。
 そんな場所で、テーブルに一人座る男子がこちらにブンブンと手を振っているのが見えた。

「なんか、無視して通り過ぎてやりたくならない?」

「……可哀想だからやめてやれ」

ちょっとした悪戯心が疼く由紀だったが、近藤に窘められたので素直に寄っていく。

「やーやー、わざわざ悪いねお二人さん!」

会って早々テンションが高い田島は笑顔全開で、まさにこの世に春が来たという様子である。

「今日は奢っちゃうよ、俺。なんでも頼んで!」

そんな太っ腹なセリフが飛び出すのも、ハイになっているせいだろう。
 しかし、由紀はここで遠慮なんかしない性質だ。

「そう? なら遠慮なく」

由紀は早速パフェ専門店のカウンターに向かい、一番お高いパフェを頼んだ。
 財布を持った田島はなにか言いたげな顔をしつつも、結局なにも言わずにいる。

「簡単にあんなことを言うからだ、馬鹿が」

そう言う近藤も、具沢山の豪華盛りなホットドックを買っていた。
 こちらも友人に気を使ったりしないらしい。

「お前らさぁ……」

「「ゴチです」」

財布の中身を切なそうに見る田島に、由紀は図らずも近藤と声を揃えて礼を言った。
 今日は「口は禍の元」ということわざが、田島の心に刻まれたことだろう。
 テーブルに三人で座り、田島は水を飲み、由紀は近藤と二人で口をモグモグさせながら、話を促す。

「で? 永野愛花ちゃんを誘うの、成功したって?」

すると項垂れていた田島は、たちまちテンションを蘇らせた。

「そうなんだよ!
 勇気出したんだぜ俺も」

それから近藤にざっと聞かされた話を、田島の口から再び聞くことになる。
 同じような内容だったが、「愛花ちゃんがその時どれくらい可愛かったか」がちょいちょい挟まれるので、話が無駄に長い。

「……というわけで、西田に聞きたいわけだ!」

そう田島の話が完結した時には、由紀はパフェを食べ終わっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂?  ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

かみさまの運だめし

うずらぬこ
青春
ある日、不運な少年、佐藤利男(さとうとしお)に恋の神(自称)山田花子(やまだはなこ)が降臨し、日常が大きく変わる!! 利男は不運フラグを回避し、恋人を得ることができるのか…? 現中1の語彙力・文章力皆無な人が書いてます。途中文章が成り立ってなかったり設定など詰めが甘い 所があると思いますが温かい目で見てあげてください。

処理中です...