26 / 50
第四話 地味女と「ハルカ」
4 再びの
しおりを挟む
お昼を少し過ぎた時刻になると、春香はカウンターで焼きそばを食べ始めた。
由梨枝が買い物に行った時に焼きそば麺が安かったらしく、これが本日の賄いとなっている。
喫茶店で焼きそばを食べる絵というのもなかなかないが、由梨枝の焼きそばは美味しいに違いないので、由紀はもうしばらくで来るであろう休憩を楽しみにしておく。
「やっぱさぁ、撮影で出るお弁当より、断然ママのご飯の方がいいわ」
焼きそばをズルズル食べながらしみじみと言う春香に、由紀は素朴な疑問をぶつける。
「ああいう時のお弁当って、高級なお店のが出るんじゃないの?」
先日テレビでロケ弁の特集をやっていて、「いいもの食べてるなぁ」と思ったものだが。
これに春香が「わかってないなぁ」という顔をした。
「どんな弁当でもね、毎日食べると飽きるのよ」
たとえ高級店の日替わり弁当でも、ローテーションの種類は知れている。
それにああいった弁当はどうしても味が濃くなってしまうそうで、お茶の飲む量が増えてお腹がタプタプになるらしい。
「やっぱりそうなのかぁ」
飽きるという気持ちは、由紀にも少しわかる。
母も自身も料理が苦手で、父もそれなりに仕事が忙しい西田家だ。
中学までは給食があったが、高校になってからはそれがない。
なので由紀の学校での昼食は基本コンビニで買っていくか、学食だ。
でも由紀の学校の学食は運動部向けにボリュームたっぷりなメニューとなっているので、それほど量がいけるわけではない女子には多すぎる。
なので学食の利用は、遅刻しそうでコンビニに寄る暇がなかった時くらいだった。
加えてコンビニのおにぎりやサンドイッチは、毎日買っても買いきれないほど種類豊富なわけではなく、結果マンネリ化してくるのだ。
「私も毎日お昼ご飯にコンビニで同じような物ばっかり買っているとさ、新商品を見たらテンションあがっちゃって。
たまに『これ美味しいか?』というヤツも構わずに買っちゃうんだよね」
「わかるわそれ。ゲテモノ系でも目新しいっていうだけで、美味しそうに見えるのよ」
由紀は春香と二人で深く頷き合う。
おかしなところで意見が合ってしまった。
だがそれほどまでに、「食事メニューに飽きた」というのは深刻な問題なのだ。
この会話が聞こえたのか、近藤が厨房からカウンターに顔を覗かせ、しかめっ面をした。
「お前ら、仮にも食いもの屋でそんな寂しい話をするな」
「すんませんねぇ、寂しい食生活で」
由紀が近藤に軽口を叩いていた、その時。
カランコロン
入り口ドアが来客を告げた。
「いらっしゃ、いませー……」
由紀が前半は元気よく、後半は脱力して声をかける。
入り口から現れたのは、黒のストレートロングヘアを風になびかせた女子。
「こんにちは、弘樹」
――また来たよ。
新開会長が近藤に挨拶するのと、由紀が内心でツッコむのが重なる。
まるで再現VTRのような挨拶に、脱力しそうになった。
実は新開会長は初めて来店した日から今まで、毎日通っているのだ。
それにしても彼女はだいたいティータイムに来るのだが、今日は早い来店である。
――長く居座って、近藤との接触を図ろうとしているのかも。
なにせ近藤は、新開会長がいると表に出てこない。
その近藤はといえば、新開会長が入ろうとする姿が見えたのか、とっくに厨房の奥に隠れてしまっていた。
行動の早い男である。
「なにあれ、カンジ悪ぅ」
頬張っていた焼きそばを飲み込んだ春香が、ボソリと呟く。
この意見に由紀も同意で、思えば新開会長は最初から店に来たら近藤にしか挨拶をしない。
由紀はともかく、由梨枝のことも無視である。
「あら春香ちゃん、いたのね」
この声が聞こえたのか、新開会長がこの時初めて気が付いたというように、カウンター席に座る春香を見た。
「どーも、お久しぶりです」
顔だけ向けて挨拶してくる春香を見て、新開会長は眉をひそめて言う。
「お店の手伝いってわけじゃなさそうだけど、それじゃいけないわ。
赤の他人を雇うより、あなたに手伝ってもらった方が家族も安心できるに決まってるじゃない。
妹だからって、いつまでも甘えていないで、もう来年は高校生なんだから自立しないと」
春香の格好などで、店の手伝いでここにいる風ではないと思ったのか。
それにしても人気モデルとしてそこそこの稼ぎのあるであろう春香に、自立を説くとは新開会長もなかなか剛毅である。
稼いでいるイコール自立しているとはならないのかもしれないが、春香がカチンとくる言い方なのは確かだ。
しかも「赤の他人」の部分を強調した。
――アンタが店を手伝っていれば、私みたいなのが店に入り込んで、近藤に近付くことはなかったんだと言いたいのか。
要は、由紀への当てつけに使われた形である春香が、顔を赤くして声を荒げる。
「なんでアンタにそんなことを言われなきゃなんないのよ!」
「そんなことなんて、年長者のアドバイスじゃない」
だが新開会長はそう言い張る。
今日はずいぶんと攻撃的な新開会長だが、ちなみにここまでの間に一切由紀を視界に入れようとしない。
由梨枝が買い物に行った時に焼きそば麺が安かったらしく、これが本日の賄いとなっている。
喫茶店で焼きそばを食べる絵というのもなかなかないが、由梨枝の焼きそばは美味しいに違いないので、由紀はもうしばらくで来るであろう休憩を楽しみにしておく。
「やっぱさぁ、撮影で出るお弁当より、断然ママのご飯の方がいいわ」
焼きそばをズルズル食べながらしみじみと言う春香に、由紀は素朴な疑問をぶつける。
「ああいう時のお弁当って、高級なお店のが出るんじゃないの?」
先日テレビでロケ弁の特集をやっていて、「いいもの食べてるなぁ」と思ったものだが。
これに春香が「わかってないなぁ」という顔をした。
「どんな弁当でもね、毎日食べると飽きるのよ」
たとえ高級店の日替わり弁当でも、ローテーションの種類は知れている。
それにああいった弁当はどうしても味が濃くなってしまうそうで、お茶の飲む量が増えてお腹がタプタプになるらしい。
「やっぱりそうなのかぁ」
飽きるという気持ちは、由紀にも少しわかる。
母も自身も料理が苦手で、父もそれなりに仕事が忙しい西田家だ。
中学までは給食があったが、高校になってからはそれがない。
なので由紀の学校での昼食は基本コンビニで買っていくか、学食だ。
でも由紀の学校の学食は運動部向けにボリュームたっぷりなメニューとなっているので、それほど量がいけるわけではない女子には多すぎる。
なので学食の利用は、遅刻しそうでコンビニに寄る暇がなかった時くらいだった。
加えてコンビニのおにぎりやサンドイッチは、毎日買っても買いきれないほど種類豊富なわけではなく、結果マンネリ化してくるのだ。
「私も毎日お昼ご飯にコンビニで同じような物ばっかり買っているとさ、新商品を見たらテンションあがっちゃって。
たまに『これ美味しいか?』というヤツも構わずに買っちゃうんだよね」
「わかるわそれ。ゲテモノ系でも目新しいっていうだけで、美味しそうに見えるのよ」
由紀は春香と二人で深く頷き合う。
おかしなところで意見が合ってしまった。
だがそれほどまでに、「食事メニューに飽きた」というのは深刻な問題なのだ。
この会話が聞こえたのか、近藤が厨房からカウンターに顔を覗かせ、しかめっ面をした。
「お前ら、仮にも食いもの屋でそんな寂しい話をするな」
「すんませんねぇ、寂しい食生活で」
由紀が近藤に軽口を叩いていた、その時。
カランコロン
入り口ドアが来客を告げた。
「いらっしゃ、いませー……」
由紀が前半は元気よく、後半は脱力して声をかける。
入り口から現れたのは、黒のストレートロングヘアを風になびかせた女子。
「こんにちは、弘樹」
――また来たよ。
新開会長が近藤に挨拶するのと、由紀が内心でツッコむのが重なる。
まるで再現VTRのような挨拶に、脱力しそうになった。
実は新開会長は初めて来店した日から今まで、毎日通っているのだ。
それにしても彼女はだいたいティータイムに来るのだが、今日は早い来店である。
――長く居座って、近藤との接触を図ろうとしているのかも。
なにせ近藤は、新開会長がいると表に出てこない。
その近藤はといえば、新開会長が入ろうとする姿が見えたのか、とっくに厨房の奥に隠れてしまっていた。
行動の早い男である。
「なにあれ、カンジ悪ぅ」
頬張っていた焼きそばを飲み込んだ春香が、ボソリと呟く。
この意見に由紀も同意で、思えば新開会長は最初から店に来たら近藤にしか挨拶をしない。
由紀はともかく、由梨枝のことも無視である。
「あら春香ちゃん、いたのね」
この声が聞こえたのか、新開会長がこの時初めて気が付いたというように、カウンター席に座る春香を見た。
「どーも、お久しぶりです」
顔だけ向けて挨拶してくる春香を見て、新開会長は眉をひそめて言う。
「お店の手伝いってわけじゃなさそうだけど、それじゃいけないわ。
赤の他人を雇うより、あなたに手伝ってもらった方が家族も安心できるに決まってるじゃない。
妹だからって、いつまでも甘えていないで、もう来年は高校生なんだから自立しないと」
春香の格好などで、店の手伝いでここにいる風ではないと思ったのか。
それにしても人気モデルとしてそこそこの稼ぎのあるであろう春香に、自立を説くとは新開会長もなかなか剛毅である。
稼いでいるイコール自立しているとはならないのかもしれないが、春香がカチンとくる言い方なのは確かだ。
しかも「赤の他人」の部分を強調した。
――アンタが店を手伝っていれば、私みたいなのが店に入り込んで、近藤に近付くことはなかったんだと言いたいのか。
要は、由紀への当てつけに使われた形である春香が、顔を赤くして声を荒げる。
「なんでアンタにそんなことを言われなきゃなんないのよ!」
「そんなことなんて、年長者のアドバイスじゃない」
だが新開会長はそう言い張る。
今日はずいぶんと攻撃的な新開会長だが、ちなみにここまでの間に一切由紀を視界に入れようとしない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
青空の色
小鳥遊 雛人
青春
高校の屋上、どこまでも広がる空。雨上がりの夏空は青く、太陽がキラキラと光る。
僕は青空を見るのが好きだ。傷ついた時も、1人の寂しい時も、青空はいつもそこにあった。そんな青は自分の悩みなんて、ちっぽけだと思わせてくれる。
どこまでも広がる澄んだ青空。もくもくと膨らむ白い雲。屋上に敷かれた緑の人工芝。そのどれもが僕の目には鮮やかで美しく見えた。
そんな青空の下、突然可愛らしい声が降ってくる
「ねぇ、君!」
彼女がかけている茶色のサングラスに陽光が反射する。
「今日の空は何色に見える?」
僕は、この日から──
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる