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第三話 地味女の初めての定休日
6 お土産選び
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ハンバーガーを食べ終えてお腹がいっぱいになり、由紀はまったりとした気持ちになった。
「どっか寄りたい所はあるか?」
そこへ近藤が尋ねて来た。
なにもなければこのまま帰るというので、由紀は「お土産が見たい」とリクエストする。
朝、由紀が出かけることを一応両親に連絡ところ、「お土産ヨロシク」とメールが入っていたのだ。
「土産を買うなら、近くにショップが集まった所があるぞ」
近藤の提案したのは最近できた場所であり、レストランや土産物店、アスレチックなどがある複合施設で、由紀もテレビのCMで見たことがある。
「じゃあそこで」
というわけで、二人はその施設に行くことにした。
移動時間はここから十分もかからない。
「ひろーい、すごーい」
施設に入って建物を見るるなり、由紀は感嘆の声を上げる。
中は建物も広ければ駐車場も広く、土産物が集まっているエリアの近くに停めないと、かなり歩くことになりそうだ。
「あー、今どこだ?」
「現在地がここだってさ」
由紀は近藤と二人で案内看板を見て、行くべき場所を探してからバイクを進めて停めた。
建物の中に入ると、美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきてた。
土産物はこの地方名産の物が多く、乳製品やハムなどの加工肉コーナーに人が集まっている。
そういうお高いものは予算オーバーなので買わないものの、由紀は試食をつまみがてら覗きに行く。
「あ、このチーズうまっ」
「腹いっぱいなのに美味いってのは、本物だな」
由紀の試食巡りに付き合う近藤も、美味しいチーズに感心している。
試食に満足したら、本題のお土産探しだ。由紀は手っ取り早くお菓子を売っているコーナーに行く。
「やっぱわかりやすく、『〇〇に行ってきました』って奴かな」
由紀は定番土産を手に取る。予算的にもお手頃で、しかも中のサブレがそこそこ美味しい。
バイクで帰るので荷物の大きさを考えなければならないが、大中小の大きさが揃っており、由紀のカバンに入るサイズがあった。
「親はこれでいいか」
ついでに田んぼ仲間にも、ここにしかないご当地キャラのキーホルダーでも買っていこうと選んでいると、近藤が由紀と同じお菓子を買っていた。
「そっちも買うの?」
近藤は土産なんて買う性格だと思っていなかったので、由紀がちょっとびっくりしていると、「母さん用」と近藤がボソリと言う。
そもそもこの二人旅を画策した由梨枝への、確かに行って来たという証拠品にしたいらしい。
――なんとなく思っていたけど、にゃんこ近藤は母親に弱いよね。
グレて迷惑をかけた反動かもしれないが、強面男子がホンワカそうな見た目の母親に振り回される様は、見ていて少しおかしい。
「……なんだ」
口元が緩みそうになる由紀を、近藤がギロリと睨む。
「なんでもないです、ハイ」
由紀はすまし顔でそう言って、キーホルダーに視線を移す。
三人の分とついでに自分用のキーホルダーも買って、お土産選びは終了だ
「じゃあ帰るか」
「異議なーし」
建物を出てバイクに戻り、由紀は買った土産をカバンに詰め、近藤はバイクの座席下のスペースに放り込む。
そして復路も行きと同じくこまめに休憩を挟みながら、のんびりと進むのだった。
そうして由紀が帰った来たのは日暮頃だった。
由紀の自宅マンション前に到着した近藤は、バイクのエンジンを止める。
「あー、帰って来たぁ」
由紀はそう呟きつつしがみ付いていた近藤の背中から離れ、バイクから降りた。
「はい、ヘルメット返す」
「明日一日、ケツをしっかり休めてろ」
今日一日旅のお供だったヘルメットを由紀が渡すと、受け取った近藤が余計なことを言う。
「ふーんだ、そうしますぅ!」
由紀は「イーッ」と歯を剥いて見せる。
あれから近藤の教えた通りにお尻を動かしたりして乗っていたら、悪化することはなかったが、いかんせん最初のダメージがデカすぎた。
「そのケツ痛も、バイクに乗る奴が一度は通る道だそうだ」
慰めなのか、近藤がそんなことを言う。
では近藤も最初の頃は、お尻が痛くて泣いたのだろうか。
そう思うと少し気持ちがスッとする。
「じゃあな」
そう言ってバイクのエンジンをかけた近藤だったが、由紀はその袖を引いた。
「あのさぁ」
言葉を紡ぐ由紀に、近藤がヘルメット越しに視線を寄越して来る。
由紀は今まで、親以外とあんなに遠くまで行ったことがない。
いわば人生初の大冒険だったと言えよう。
そんな大冒険に連れ出してくれた近藤には、感謝したいのだ。
「今日はなかなか楽しかったし、ありがとう」
由紀はペコリとお辞儀した。
「おぅよ」
これに近藤はヒラリと手を振り、エンジンを吹かしたバイクで走り去っていった。
「どっか寄りたい所はあるか?」
そこへ近藤が尋ねて来た。
なにもなければこのまま帰るというので、由紀は「お土産が見たい」とリクエストする。
朝、由紀が出かけることを一応両親に連絡ところ、「お土産ヨロシク」とメールが入っていたのだ。
「土産を買うなら、近くにショップが集まった所があるぞ」
近藤の提案したのは最近できた場所であり、レストランや土産物店、アスレチックなどがある複合施設で、由紀もテレビのCMで見たことがある。
「じゃあそこで」
というわけで、二人はその施設に行くことにした。
移動時間はここから十分もかからない。
「ひろーい、すごーい」
施設に入って建物を見るるなり、由紀は感嘆の声を上げる。
中は建物も広ければ駐車場も広く、土産物が集まっているエリアの近くに停めないと、かなり歩くことになりそうだ。
「あー、今どこだ?」
「現在地がここだってさ」
由紀は近藤と二人で案内看板を見て、行くべき場所を探してからバイクを進めて停めた。
建物の中に入ると、美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきてた。
土産物はこの地方名産の物が多く、乳製品やハムなどの加工肉コーナーに人が集まっている。
そういうお高いものは予算オーバーなので買わないものの、由紀は試食をつまみがてら覗きに行く。
「あ、このチーズうまっ」
「腹いっぱいなのに美味いってのは、本物だな」
由紀の試食巡りに付き合う近藤も、美味しいチーズに感心している。
試食に満足したら、本題のお土産探しだ。由紀は手っ取り早くお菓子を売っているコーナーに行く。
「やっぱわかりやすく、『〇〇に行ってきました』って奴かな」
由紀は定番土産を手に取る。予算的にもお手頃で、しかも中のサブレがそこそこ美味しい。
バイクで帰るので荷物の大きさを考えなければならないが、大中小の大きさが揃っており、由紀のカバンに入るサイズがあった。
「親はこれでいいか」
ついでに田んぼ仲間にも、ここにしかないご当地キャラのキーホルダーでも買っていこうと選んでいると、近藤が由紀と同じお菓子を買っていた。
「そっちも買うの?」
近藤は土産なんて買う性格だと思っていなかったので、由紀がちょっとびっくりしていると、「母さん用」と近藤がボソリと言う。
そもそもこの二人旅を画策した由梨枝への、確かに行って来たという証拠品にしたいらしい。
――なんとなく思っていたけど、にゃんこ近藤は母親に弱いよね。
グレて迷惑をかけた反動かもしれないが、強面男子がホンワカそうな見た目の母親に振り回される様は、見ていて少しおかしい。
「……なんだ」
口元が緩みそうになる由紀を、近藤がギロリと睨む。
「なんでもないです、ハイ」
由紀はすまし顔でそう言って、キーホルダーに視線を移す。
三人の分とついでに自分用のキーホルダーも買って、お土産選びは終了だ
「じゃあ帰るか」
「異議なーし」
建物を出てバイクに戻り、由紀は買った土産をカバンに詰め、近藤はバイクの座席下のスペースに放り込む。
そして復路も行きと同じくこまめに休憩を挟みながら、のんびりと進むのだった。
そうして由紀が帰った来たのは日暮頃だった。
由紀の自宅マンション前に到着した近藤は、バイクのエンジンを止める。
「あー、帰って来たぁ」
由紀はそう呟きつつしがみ付いていた近藤の背中から離れ、バイクから降りた。
「はい、ヘルメット返す」
「明日一日、ケツをしっかり休めてろ」
今日一日旅のお供だったヘルメットを由紀が渡すと、受け取った近藤が余計なことを言う。
「ふーんだ、そうしますぅ!」
由紀は「イーッ」と歯を剥いて見せる。
あれから近藤の教えた通りにお尻を動かしたりして乗っていたら、悪化することはなかったが、いかんせん最初のダメージがデカすぎた。
「そのケツ痛も、バイクに乗る奴が一度は通る道だそうだ」
慰めなのか、近藤がそんなことを言う。
では近藤も最初の頃は、お尻が痛くて泣いたのだろうか。
そう思うと少し気持ちがスッとする。
「じゃあな」
そう言ってバイクのエンジンをかけた近藤だったが、由紀はその袖を引いた。
「あのさぁ」
言葉を紡ぐ由紀に、近藤がヘルメット越しに視線を寄越して来る。
由紀は今まで、親以外とあんなに遠くまで行ったことがない。
いわば人生初の大冒険だったと言えよう。
そんな大冒険に連れ出してくれた近藤には、感謝したいのだ。
「今日はなかなか楽しかったし、ありがとう」
由紀はペコリとお辞儀した。
「おぅよ」
これに近藤はヒラリと手を振り、エンジンを吹かしたバイクで走り去っていった。
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