恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ

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第二話 地味女の夏休みの始まり

7 アルバイト三日目・田んぼ仲間集結

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賑やかな三人組がツーリングに出かけると、もうじきオープン時間となる。
 由紀が由梨枝を手伝ってお皿を準備したりしていると、近藤がもの言いたげな視線を向けていることに気付く。

「なに?」

「昨日とは逆だな」と思いつつ由紀が向き直ると、近藤は一瞬悩むようなそぶりを見せて、口を開いた。

「……相性診断はなにが根拠かと思ってな」

ボソボソと近藤が喋る。
 今までも似たような疑問を持たれたが、占いみたいなものだと説明してきた。

「根拠ね、色」

だがこの時の由紀は、何故か本当のことがスルリと出た。

「……は、色?」

「そう、その人たちの色」

 ――なに言ってるんだろ、私。

 呆れられるか馬鹿にされるだろうに、自分から教えてどうするのだ。

「ふぅん、色か」

けれど近藤は何故か頷いた。

「……信じるの?」

まさか納得されると思っていなかったので、由紀は反対にビビる。
 一方の近藤はスッキリした顔をしていた。

「信じるも信じないも 色占いっていうのは、雑誌なんかでたまに見るだろ?
 ソレを当てにするかは本人の勝手だ」

占いだと思われたのはいつものことだが、「色で判断する」というのを、しかも近藤に受け入れられるとは驚きだ。

 ――ていうか、占いが載っている雑誌を読むのか。

 由紀にはそっちの方が驚きかもしれない。


それにしても、日曜日はやはり客が多い。
 由紀が慌ただしく働いていると、いつの間にやら昼を過ぎていた。

 ――忙しいと時間が経つのが早いわ。

 気が付けば腹ペコ状態の由紀に、昼休憩の呼びかけがある。
 だが今日は客が多いので、近藤とは別時間だった。
 圧のない隣がホッとするような寂しいような、変なカンジだ。
 そうして休憩後、午後のティータイムになった頃。

「おーい、西田さん!」

「「やっほー」」

由紀の田んぼ仲間三人組が来店した。

「おお、ようこそ!」

由紀は彼女らと手を取りあう。
 ここでバイトすることを伝えていたので、偵察に来たのだろう。

「早速来ちゃったよー」

「チェーン店と違って、雰囲気あるねー」

「純喫茶ってカンジ」

入り口でキョロキョロする三人を、由紀はお喋りしやすいようにと、角のボックス席に誘導する。

「なんにする?」

「ねえ、ケーキセットあるよ」

「今日のケーキはミルクレープとシフォンケーキだって」

こうしてメニューを見ながらワイワイ騒ぐのも、楽しい時間なのである。

「西田さんのお勧めは?」

柴田に尋ねられたが、勧めるのはやはりアレだろう。

「アイスコーヒー、きっとビビるから」

「じゃあドリンクはそれ!
 ケーキはねぇ……」

ケーキ選びに熱の入る三人から注文を受け、厨房へ行く。

「ケーキセットでミルクレーブ二つにシフォンケーキ一つ、アイスコーヒー三つ」

由紀がメニューを読み上げると、近藤は角のボックス席をちらりと見た。

「アイツら、いつかファミレスにいた奴らだろう?」

近藤はあの時の由紀たちを覚えていたらしい。

「そう。西田・柴田・中田・下田で、田んぼ四人衆と呼ぶがいい」

由紀が真顔で宣言すると、近藤が小さく噴き出す。

 ――お、笑ったよ。

 近藤の笑顔とは、なかなか貴重だろう。
 やがて三人分のアイスコーヒーが出来上がり、ホイップクリームが器にこんもりと盛られる。
 これがかなりインパクトがあるのだ。

「西田さん、どうぞ持って行って」

由梨枝がそう言って並べた三つのケーキの皿に、小さなアイスクリームが添えられている。

 ――ケーキセットにアイスなんてついていない。

 首を捻る由紀に、用意した由梨枝がニコリと笑う。

「お友達でしょう? サービスよ」

そう言ってついでに、由紀の分のアイスまでガラスの器に盛ってくれた。

「これ、いいんですか?」

「今は私も手が空いているし、少しくらいおしゃべりしてきていいわよ」

なんと、本日二度目のおすそ分けである。

「ほら、弘くんも友達でしょう?
 顔を出してあげなさいよ」

由梨枝は近藤にケーキの乗ったトレイを差し出す。

「……いや」

「ほらほら!」

拒否しようとした近藤だったが、強引にトレイを押し付けられた。
 由紀の友達イコール近藤の友達とは限らないのだが。むしろ三人は近藤の顔を見て怯えそうだ。

「……知らねぇからな」

諦め顔の近藤を引き連れて、由紀は田んぼ三人組の元へ向かう。

「ほーい、お待ちかねのアイスコーヒーです」

由紀がアイスコーヒーと、こんもりとしたクリームをテーブルに置くと、三人が目を輝かせた。

「おお、すっごい!」

「なんて言うんだっけ、こういうの」

「ウィンナーコーヒー!」

三人はアイスコーヒーを見て、由紀と同じ反応をする。

 ――そうだろう、そうだろう。

 期待した反応が見れて、勧めた由紀は満足だ。

「……ケーキだ」

続けてケーキを運んで来た近藤が、仏頂面で皿を置く。

「「「……」」」

三人は途端に無言になって、ケーキと近藤を見比べる。

 ――まあ、こうなるわな。

 だが仕事仲間として、多少のフォローはしてやってもいいだろう。

「この人、この店が自宅だってさ。
 一応不良を卒業した真人間らしいから」

「……そうなの?」

「殴ってこない?」

由紀の説明に柴田が目を瞬かせるが、中田は本人を前にして聞いては駄目な質問ではなかろうか。

「女を殴るなんてしねぇよ」

近藤がムスッとした顔で律儀に答える。

「私、一緒に働いて三日目だけど、今のところ噛みつかれてもいないし。
 あ、この髪の色は地毛だって」

不良だと誤解される一番のポイントを押さえると、三人は安心した顔をした。

「なぁんだ地毛かぁ、なるほどねー。
 あ、私のシフォンケーキ美味しそう!」

下田がそう言って、興味を近藤からケーキへ移す。
 美味しいものを前にした女子なんて、こんなものなのだ。
 由紀も三人と一緒に席についてアイスクリームを食べながら、ふと考える。

 ――近藤がクオーターだとわかっていれば、ここまで茶髪でビビられないんじゃない?

 だがクオーターという事実よりも、不良という噂が先行しているため、茶髪イコール現役ヤンキーだと思われるのだ。
 確か学校には近藤以外にも、元々地毛が茶色い生徒は何人かいたはず。
 彼らと近藤は同じはずなのに、ここまで持たれるイメージが違うのも憐れである。
 キャッキャとケーキを食べ始めた三人を見て、近藤はボソリと漏らした。

「なんか、コイツら確実にお前の友達なんだな。
 なんつーか、のん気だ」

「そう?」

会話があまりシビアにならないのは認めるところだ。
 そうして四人プラス近藤で話していると、カランコロンと入り口のドアが鳴る。

「いらっしゃいませ」

田んぼ仲間と席に着いている由紀に代わって、近藤が入って来た客に声をかける。

「こんにちは、弘樹」

すると現れたのは、昨日に引き続きまたもや新開会長だった。
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