恋は虹色orドブ色?

黒辺あゆみ

文字の大きさ
上 下
11 / 50
第二話 地味女の夏休みの始まり

4 アルバイト二日目・午後の客

しおりを挟む
そういえば新開会長は「そのうち店に顔を出す」って言っていた。
 あの時は近藤の家が喫茶店をしているなんて知らなかったので、なんの暗号かと思っていたが。
 ストレートに「家に遊びに行くよ」宣言だったようだ。

「こんにちは弘樹」

新開会長は入り口のあたりに立って、微笑みを浮かべて厨房の奥にいる近藤を真っ直ぐ見ている。
 由紀のことは全く視界に入っていないようだ。

 ――えーと、どうしようかな。

 本来ならば由紀は客をすぐに席へ誘導するべきである。
 しかし新開会長はたぶん、近藤に席へ案内してもらいたいのだろう。
 由紀の眼鏡の端まで漏れるように、新開会長の纏うピンク色がチラチラとうつり、恋愛アピール全開である。
 これに対して近藤はというと、新開会長にちらりと視線を寄越しただけで、特になにを言うでもなくその場を動かない。
 由梨枝もそんな息子と新開会長を、困ったように見比べている。

 ――誰も出て来んのかい。

 であれば仕方ない、元々客の応対は由紀の仕事である。
 由紀は新開会長に見えるように前に回り込む。

「席へご案内します」

そう声をかけると、ここで初めて新開会長は由紀の存在に気付いたらしい。

「あら? あなた……」

「その節はどうも」

新開会長はぶつかった相手のことを覚えていたようだ。
 目を見張る彼女に由紀はペコリと頭を下げつつも、席に誘導する。

「こちらの席へどうぞ」

由紀がそう言って窓際の席へ案内しようとすると。

「え、出来ればカウンター席に……」

新開会長が座ろうとするカウンター席は現在結構混みあっていて、他の客と間を空けることができない。
 ゆったり座れるようにと、空きのある窓際を進めているのだが、恐らく新開会長は近藤のいる厨房が見える席がいいのだろう。

「えっとぉ」

どうするべきかと、由紀がチラリと厨房に視線をやると、近藤が小さく首を横に振っている様子が見える。

 ――相手をしたくないってか。

「ただいま混みあってますので。
 あちらの方が一人でゆったり座れて寛げますよ」

由紀が窓際の席を押すと、実際混んでいることもあり、新開会長は渋々窓際の席に座った。

「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

一礼してとっととこの場を去ろうとする由紀だったが。

「あなた、どうしてここに?」

新開会長はそれを逃すまいとするかのように、テーブルに置いてあるメニューを開きながら問いかけた。

「夏休み中のアルバイトです」

由紀はできるだけ笑顔を作って答える。
 それ以外に、エプロンを着けてここにいる理由があるとでもいうのか。

「……そうなの」

この答えに新開会長が低く声で相槌を打つ。
 由紀はその様子が気になって、眼鏡を直すフリをして、少しずらして相手を見る。

 ――およ?

 新開会長の纏うピンクに、微かに黒が混じっていた。


あれから近藤は厨房から出てこないままだ。
 丁度立て続けに客が来て、忙しかったのも幸いしたのだろう。
 奥でひたすらドリンクを作り続けている。
 けれど新開会長は近藤を待って、ケーキセットで二時間粘った。

 ――頑張るなぁ。

 だが由紀はすごく気まずい。
 なにせ新開会長の横を通るたびに、「どうしてお前なんだ」という視線が突き刺さるのだ。
 出てこないのは近藤なのに、えらい八つ当たりである。
 けれど粘った新開会長も、そろそろ帰らなければいけない時間になったのか。

「お会計、お願いします」

憮然とした顔で席を立つと、レジに向かった。

「ありがとうございました」

伝票を置いてお金を出す新開会長に、レジを打つ由梨枝が爽やかな営業スマイルを向ける。
 ガン無視し続けた息子を待っていた相手なのに、由梨枝はさすが経営者というべきか、神経が図太い。
 新開会長が由梨枝からプイっと目を背け、無言で店を出て行くのを、由紀はガラス越しに見送る。

 ――また来るかなぁ、もう来ないといいなぁ。

 気疲れした由紀が肩を回していると。

「西田さん、上がっていいわよ」

由梨枝に上がり時間を告げられた。

「はい、お疲れ様でした」

由紀は上がりの挨拶をして、脱いだエプロンをロッカーに仕舞うと、厨房を覗く。
 あの気まずい空気を吸わされた身としては、近藤に一言物申したい。
 アイスコーヒーを作っている近藤に、由紀はススッと近寄る。

「あの一画だけ、空気が悪かったんだけど」

背後で腕を前で組む由紀を、近藤はちらりと振り返るが。

「エアコンが壊れたんじゃねぇの」

ボソッと言うと、またアイスコーヒー作りに戻る。

 ――ふーん、そういうこと言うんだ。

 しらばっくれようとする近藤に、由紀は白い目を向ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂?  ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

かみさまの運だめし

うずらぬこ
青春
ある日、不運な少年、佐藤利男(さとうとしお)に恋の神(自称)山田花子(やまだはなこ)が降臨し、日常が大きく変わる!! 利男は不運フラグを回避し、恋人を得ることができるのか…? 現中1の語彙力・文章力皆無な人が書いてます。途中文章が成り立ってなかったり設定など詰めが甘い 所があると思いますが温かい目で見てあげてください。

処理中です...