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第二話 地味女の夏休みの始まり
4 アルバイト二日目・午後の客
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そういえば新開会長は「そのうち店に顔を出す」って言っていた。
あの時は近藤の家が喫茶店をしているなんて知らなかったので、なんの暗号かと思っていたが。
ストレートに「家に遊びに行くよ」宣言だったようだ。
「こんにちは弘樹」
新開会長は入り口のあたりに立って、微笑みを浮かべて厨房の奥にいる近藤を真っ直ぐ見ている。
由紀のことは全く視界に入っていないようだ。
――えーと、どうしようかな。
本来ならば由紀は客をすぐに席へ誘導するべきである。
しかし新開会長はたぶん、近藤に席へ案内してもらいたいのだろう。
由紀の眼鏡の端まで漏れるように、新開会長の纏うピンク色がチラチラとうつり、恋愛アピール全開である。
これに対して近藤はというと、新開会長にちらりと視線を寄越しただけで、特になにを言うでもなくその場を動かない。
由梨枝もそんな息子と新開会長を、困ったように見比べている。
――誰も出て来んのかい。
であれば仕方ない、元々客の応対は由紀の仕事である。
由紀は新開会長に見えるように前に回り込む。
「席へご案内します」
そう声をかけると、ここで初めて新開会長は由紀の存在に気付いたらしい。
「あら? あなた……」
「その節はどうも」
新開会長はぶつかった相手のことを覚えていたようだ。
目を見張る彼女に由紀はペコリと頭を下げつつも、席に誘導する。
「こちらの席へどうぞ」
由紀がそう言って窓際の席へ案内しようとすると。
「え、出来ればカウンター席に……」
新開会長が座ろうとするカウンター席は現在結構混みあっていて、他の客と間を空けることができない。
ゆったり座れるようにと、空きのある窓際を進めているのだが、恐らく新開会長は近藤のいる厨房が見える席がいいのだろう。
「えっとぉ」
どうするべきかと、由紀がチラリと厨房に視線をやると、近藤が小さく首を横に振っている様子が見える。
――相手をしたくないってか。
「ただいま混みあってますので。
あちらの方が一人でゆったり座れて寛げますよ」
由紀が窓際の席を押すと、実際混んでいることもあり、新開会長は渋々窓際の席に座った。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
一礼してとっととこの場を去ろうとする由紀だったが。
「あなた、どうしてここに?」
新開会長はそれを逃すまいとするかのように、テーブルに置いてあるメニューを開きながら問いかけた。
「夏休み中のアルバイトです」
由紀はできるだけ笑顔を作って答える。
それ以外に、エプロンを着けてここにいる理由があるとでもいうのか。
「……そうなの」
この答えに新開会長が低く声で相槌を打つ。
由紀はその様子が気になって、眼鏡を直すフリをして、少しずらして相手を見る。
――およ?
新開会長の纏うピンクに、微かに黒が混じっていた。
あれから近藤は厨房から出てこないままだ。
丁度立て続けに客が来て、忙しかったのも幸いしたのだろう。
奥でひたすらドリンクを作り続けている。
けれど新開会長は近藤を待って、ケーキセットで二時間粘った。
――頑張るなぁ。
だが由紀はすごく気まずい。
なにせ新開会長の横を通るたびに、「どうしてお前なんだ」という視線が突き刺さるのだ。
出てこないのは近藤なのに、えらい八つ当たりである。
けれど粘った新開会長も、そろそろ帰らなければいけない時間になったのか。
「お会計、お願いします」
憮然とした顔で席を立つと、レジに向かった。
「ありがとうございました」
伝票を置いてお金を出す新開会長に、レジを打つ由梨枝が爽やかな営業スマイルを向ける。
ガン無視し続けた息子を待っていた相手なのに、由梨枝はさすが経営者というべきか、神経が図太い。
新開会長が由梨枝からプイっと目を背け、無言で店を出て行くのを、由紀はガラス越しに見送る。
――また来るかなぁ、もう来ないといいなぁ。
気疲れした由紀が肩を回していると。
「西田さん、上がっていいわよ」
由梨枝に上がり時間を告げられた。
「はい、お疲れ様でした」
由紀は上がりの挨拶をして、脱いだエプロンをロッカーに仕舞うと、厨房を覗く。
あの気まずい空気を吸わされた身としては、近藤に一言物申したい。
アイスコーヒーを作っている近藤に、由紀はススッと近寄る。
「あの一画だけ、空気が悪かったんだけど」
背後で腕を前で組む由紀を、近藤はちらりと振り返るが。
「エアコンが壊れたんじゃねぇの」
ボソッと言うと、またアイスコーヒー作りに戻る。
――ふーん、そういうこと言うんだ。
しらばっくれようとする近藤に、由紀は白い目を向ける。
あの時は近藤の家が喫茶店をしているなんて知らなかったので、なんの暗号かと思っていたが。
ストレートに「家に遊びに行くよ」宣言だったようだ。
「こんにちは弘樹」
新開会長は入り口のあたりに立って、微笑みを浮かべて厨房の奥にいる近藤を真っ直ぐ見ている。
由紀のことは全く視界に入っていないようだ。
――えーと、どうしようかな。
本来ならば由紀は客をすぐに席へ誘導するべきである。
しかし新開会長はたぶん、近藤に席へ案内してもらいたいのだろう。
由紀の眼鏡の端まで漏れるように、新開会長の纏うピンク色がチラチラとうつり、恋愛アピール全開である。
これに対して近藤はというと、新開会長にちらりと視線を寄越しただけで、特になにを言うでもなくその場を動かない。
由梨枝もそんな息子と新開会長を、困ったように見比べている。
――誰も出て来んのかい。
であれば仕方ない、元々客の応対は由紀の仕事である。
由紀は新開会長に見えるように前に回り込む。
「席へご案内します」
そう声をかけると、ここで初めて新開会長は由紀の存在に気付いたらしい。
「あら? あなた……」
「その節はどうも」
新開会長はぶつかった相手のことを覚えていたようだ。
目を見張る彼女に由紀はペコリと頭を下げつつも、席に誘導する。
「こちらの席へどうぞ」
由紀がそう言って窓際の席へ案内しようとすると。
「え、出来ればカウンター席に……」
新開会長が座ろうとするカウンター席は現在結構混みあっていて、他の客と間を空けることができない。
ゆったり座れるようにと、空きのある窓際を進めているのだが、恐らく新開会長は近藤のいる厨房が見える席がいいのだろう。
「えっとぉ」
どうするべきかと、由紀がチラリと厨房に視線をやると、近藤が小さく首を横に振っている様子が見える。
――相手をしたくないってか。
「ただいま混みあってますので。
あちらの方が一人でゆったり座れて寛げますよ」
由紀が窓際の席を押すと、実際混んでいることもあり、新開会長は渋々窓際の席に座った。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
一礼してとっととこの場を去ろうとする由紀だったが。
「あなた、どうしてここに?」
新開会長はそれを逃すまいとするかのように、テーブルに置いてあるメニューを開きながら問いかけた。
「夏休み中のアルバイトです」
由紀はできるだけ笑顔を作って答える。
それ以外に、エプロンを着けてここにいる理由があるとでもいうのか。
「……そうなの」
この答えに新開会長が低く声で相槌を打つ。
由紀はその様子が気になって、眼鏡を直すフリをして、少しずらして相手を見る。
――およ?
新開会長の纏うピンクに、微かに黒が混じっていた。
あれから近藤は厨房から出てこないままだ。
丁度立て続けに客が来て、忙しかったのも幸いしたのだろう。
奥でひたすらドリンクを作り続けている。
けれど新開会長は近藤を待って、ケーキセットで二時間粘った。
――頑張るなぁ。
だが由紀はすごく気まずい。
なにせ新開会長の横を通るたびに、「どうしてお前なんだ」という視線が突き刺さるのだ。
出てこないのは近藤なのに、えらい八つ当たりである。
けれど粘った新開会長も、そろそろ帰らなければいけない時間になったのか。
「お会計、お願いします」
憮然とした顔で席を立つと、レジに向かった。
「ありがとうございました」
伝票を置いてお金を出す新開会長に、レジを打つ由梨枝が爽やかな営業スマイルを向ける。
ガン無視し続けた息子を待っていた相手なのに、由梨枝はさすが経営者というべきか、神経が図太い。
新開会長が由梨枝からプイっと目を背け、無言で店を出て行くのを、由紀はガラス越しに見送る。
――また来るかなぁ、もう来ないといいなぁ。
気疲れした由紀が肩を回していると。
「西田さん、上がっていいわよ」
由梨枝に上がり時間を告げられた。
「はい、お疲れ様でした」
由紀は上がりの挨拶をして、脱いだエプロンをロッカーに仕舞うと、厨房を覗く。
あの気まずい空気を吸わされた身としては、近藤に一言物申したい。
アイスコーヒーを作っている近藤に、由紀はススッと近寄る。
「あの一画だけ、空気が悪かったんだけど」
背後で腕を前で組む由紀を、近藤はちらりと振り返るが。
「エアコンが壊れたんじゃねぇの」
ボソッと言うと、またアイスコーヒー作りに戻る。
――ふーん、そういうこと言うんだ。
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