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番外編 ルドルファン王国訪問記
その5
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パレットとジーンはオルレイン導師から、揃って一日休みを貰った。
せっかく外国に来たのだから、観光して来いと言われたのだ。
せっかくの好意なので、パレットたちは屋敷のみんなに土産を買うため、城下町へ出かけることとなった。
「同じ王都でも、こちらの方が賑やかね」
パレットはキョロキョロしながら、そんな感想を述べる。
行き交う人の服装や表情、露店の品物。
どれをとっても、マトワール王国よりもルドルファン王国の方が質が上だ。
「俺らの国は、ごたごたを嫌がった商人がだいぶ逃げ出したそうだから、そのせいだろうな」
休みとあって猫かぶりの外面モードではないジーンも、興味深そうに周囲を観察している。
ミィを連れて二人並んで歩いていると、通りすがる人々がぎょっとした顔をしてミィを見る。
魔獣とはわからずとも、馬以外の大きな獣が珍しいのだろう。
警備の者たちには、マトワール王国の使者が魔獣を連れていることを通達されているらしく、通りかかっても特に注意を受けたりしない。
パレットたちはそんな警備の一人に勧められ、観光用の辻馬車で、街を一回りしてみることにした。
貴族向けの店が多い王城前通りを抜ければ、城壁に近くなるほど高級志向の店は減っていく。
しかし大通りから外れた庶民向けの安い店が並ぶあたりでも、特に廃れた風には感じられない。
「治安がいいのね」
王城から行ってはいけない地区などを特に挙げられなかったが、パレットは実際に城下町に出るとそれも納得である。
マトワール王国で見られるような貧民街は、どうやら形成されていないらしいのだ。
「細い裏路地なんかに入らなきゃ、警備の目が行き届くってわけか」
マトワール王国の王都では、あからさまに貴族と庶民で線引きされており、特に貧民街ではろくに警備もされていなかった。
けれどここでは城壁付近まで来ても、汚れた服を着て居たり、残飯を漁ったりする姿が見られない。
他国の使者に見られないように、そういった貧民をどこかに集めて隠している可能性もある。
だが普通に買い物をしている人々の表情を見ていると、その可能性も低いだろう。
これも教会学校を始めとした教育改革の恩恵だろう。
読み書きができれば雇用が広がる。
残飯漁りで食い扶持を繋ぐ必要もないのだ。
「王族が揉めていないと、ここまで違うものなのね」
「そうだな」
パレットの呟きに、ジーンも神妙な顔をする。
これも、この国が十数年かけて手に入れた平穏だ。
室長は恐らくパレットたちに、この平穏を実感してもらいたかったのだろう。
――これが、目指すべき未来の目標か。
幸いなことに、マトワール王国は地方がまともに機能している。
国の全てを一からやり直したルドルファン王国とは、始まりが違う。
今目にする笑顔が、いつかマトワール王国全てで見られたらいいな、とパレットは思う。
観光をして土産物も買ったパレットたちは、昼食を済ませるのにアヤのお勧めの店へ行くことにした。
なんでもアヤが懇意にしている、お好み焼きというものを食べさせる店なのだそうだ。
「お好み焼きって、どんな食べ物かしらね」
「まだベラルダの街にも入って来てなかったな」
未知の食べ物への期待を胸に歩くパレットたちは、時折道を聞きながら店に向かう。
王城前通りの一番外れで、庶民が集う通りの一番手前に、その店はあった。
「いらっしゃいませ!」
店員の威勢の良い挨拶に迎えられた店内は、なかなか混みあっている。
パレットたちのような観光客らしき者もいれば、地元の者もいた。
「あの、この子も一緒では駄目からしら?」
パレットは入り口付近にいた店員の女性に、ミィのことを尋ねる。
「ああ、聞いています。
噂の魔獣ちゃんですよね!」
すると店員に笑顔で店内に通された。
どうやらアヤから話がいっていたらしい。
加えて説明されたところ、普段聖獣の出入りもある関係で、店内にはペット同伴客のための席があるのだとか。
こうしてパレットたちがミィと一緒にテラス席へと案内されると、そこには先客がいた。
長い黒髪を綺麗に巻いた女性で、お供の使用人の女性を二人従え、楽しそうに会話している。
「セシリア様見てください、噂の魔獣ちゃんですよ!」
店員が先客三人に親し気に話しかけたところ、彼女たちはこちらを振り向いた。
そしてパレットとジーン、ミィの姿を捕らえると、表情を輝かせる。
「まぁ、待ち伏せていた甲斐がありましたわ。
あなた方は、マトワール王国の使者御一行の方々でしょう?」
「「魔獣だけどかわいい~!!」」
扇を広げて含み笑いをする女性の背後で、お供の二人が悶えている。
「えっと……」
突然のことに目を丸くするパレットの横で、ジーンは表情を険しくする。
ミィを連れている以上、パレットたちの身元が明らかなのは仕方ないものの、国の代表として身の安全には気を配らなければならないのだ。
緊張するパレットたちの態度を見て、黒髪の女性が微笑んだ。
「ごめんなさいね、騒がしくして。
わたくしはセシリア・キンダスと申します」
優雅に一礼してみせたセシリアは、その気品ある佇まいから察するに貴族に違いない。
「運動会を観覧するため、王都へ滞在中ですの。
魔獣を連れた使者の話をアヤに聞いて、どうしても会いたくなって待ち伏せてしまいました」
セシリアはにこりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あぁ、なるほど」
ジーンが情報漏洩先と待ち伏せられた理由を知り、ホッと息を吐いた。
恐らくアヤがこの店をお勧めしたのも、彼女と会わせたかったのだろう。
だが宰相夫人であるアヤの知り合いということは、高位の貴族の可能性が高い。
アヤの知り合いと聞いて、緊張が解けるはずもない。
「まずはお座りになってくださいな。
お食事をしながらお話をしたいわ」
セシリアがこちらに着席を促す。
「こちらがメニュー表となります」
すると店員がすぐさまメニューを差し出してくる。
高位貴族の前であっても、店員は緊張していない。
むしろ先ほどの様子からすると、仲がよさそうだ。
――セシリアさんは、この店の常連なの?
戸惑うパレットをよそに、店員はメニューについて説明する。
「初めての方は、パンケーキをイメージしていただくとわかりやすいですね。
あれに具をたっぷり混ぜ込んだ形になります」
お好み焼きについて説明した店員におすすめを聞いて、パレットはミックス焼き、ジーンが豚玉焼きを注文した。
ミィも鼻をヒクヒクさせて興味津々だったので、聖獣スペシャルという動物メニューを注文した。
しばらくすると、お好み焼きのタネが運ばれてきた。
確かに説明の通り、パンケーキのタネに野菜や肉などいろいろな具を混ぜたものであるのがわかる。
「自分で焼くのと、店員に焼いてもらうのが選べますけど」
店員に尋ねられたが、貴族であるセシリアも自分で焼いていたので、パレットたちも自分で焼くことにした。
「パンケーキは、兵士の野営でよく焼いたな」
ジーンが懐かしそうにお好み焼きを焼いている傍らで、セシリアのお供の二人がミィを撫でている。
「毛並みがサラサラですわ」
「でもスベスベですわ」
ミィは宰相の屋敷で綺麗に洗っているので、只今毛並みの綺麗な美魔獣だ。
なんでも、いつもアヤと一緒にいる聖獣は風呂を好むらしく、それゆえ動物でも使える石鹸やシャンプーが揃っていたのだ。
二人に褒められ、ミィもまんざらでもない顔で尻尾を揺らしている。
お好み焼きを焼くのにパレットは少し苦戦したものの、手慣れたジーンにミィの分まで焼いてもらうと、早速実食だ。
「美味しいわね」
香ばしいソースが食欲を刺激するので、パレットとジーンのお好み焼きを食べるペースが自然と早くなる。
ミィもこの料理を気に入ったようで、夢中で食べている。
「帰って屋敷でもみんなでやりたいな」
ジーンがそんなことを言った。
確かに、屋敷に帰ってもできそうな材料だ。
だが、この独特の風味のソースはどうしようか。
そんなことを考えていると、隣の席から声がかかった。
「この店秘伝のソース、頼めば売って貰えますわよ」
「本当ですか!?」
セシリアがいいことを教えてくれたので、帰りに購入することにしよう。
お好み焼きを楽しむパレットたちに、セシリアがこの料理の流行について語った。
「このお好み焼きは、特に貴族の間で人気があるのです。
上着がソースで汚れないように、みんな脱いで食べるでしょう?
だから身分を気にせず話そうという意味を込めて、お好み焼きを一緒に食べようと誘うのですわ」
「へぇ、そんなことが……」
この話を聞いたパレットが、最初に思い浮かべたのは王子様だ。
――帰ったらまず、王子様を筆頭とした子供たちに食べさせてやりたいわね。
そんな想いに浸るパレットに、セシリアが語った。
「この店はわたくしとアヤが出資して、孤児院を出た子供たちが働ける場として、始めた店なのです」
それが今では、主要な街に支店を構える大商会へと発展したそうだ。
支店でも、孤児の雇用を優先しているのだとか。
「そうなんですか」
パレットは目を細めて、忙しく働く店員を見る。
生き生きとした顔をしている彼らがみんな、孤児院出身者だとは。
アヤが聖女として国中外で人気があるのは、こうした功績ゆえなのだろう。
「あなたのことも噂に聞こえてましてよ、マトワール王国の王城で初の女性文官殿」
隣国の貴族の女性に、パレットは驚く。
ジーンはともかくパレットのことが隣国まで知られているとは。
「何事も初めてというのは、困難が纏わりつくものです。
ですが信頼する方がいれば、どんな困難も乗り越えられることでしょう。
アヤがそうだったように」
パレットがジーンを見ると、優しく微笑んでくれた。
「心強いお言葉、ありがとうございます」
こうして昼食が、思いがけず楽しい時となった。
せっかく外国に来たのだから、観光して来いと言われたのだ。
せっかくの好意なので、パレットたちは屋敷のみんなに土産を買うため、城下町へ出かけることとなった。
「同じ王都でも、こちらの方が賑やかね」
パレットはキョロキョロしながら、そんな感想を述べる。
行き交う人の服装や表情、露店の品物。
どれをとっても、マトワール王国よりもルドルファン王国の方が質が上だ。
「俺らの国は、ごたごたを嫌がった商人がだいぶ逃げ出したそうだから、そのせいだろうな」
休みとあって猫かぶりの外面モードではないジーンも、興味深そうに周囲を観察している。
ミィを連れて二人並んで歩いていると、通りすがる人々がぎょっとした顔をしてミィを見る。
魔獣とはわからずとも、馬以外の大きな獣が珍しいのだろう。
警備の者たちには、マトワール王国の使者が魔獣を連れていることを通達されているらしく、通りかかっても特に注意を受けたりしない。
パレットたちはそんな警備の一人に勧められ、観光用の辻馬車で、街を一回りしてみることにした。
貴族向けの店が多い王城前通りを抜ければ、城壁に近くなるほど高級志向の店は減っていく。
しかし大通りから外れた庶民向けの安い店が並ぶあたりでも、特に廃れた風には感じられない。
「治安がいいのね」
王城から行ってはいけない地区などを特に挙げられなかったが、パレットは実際に城下町に出るとそれも納得である。
マトワール王国で見られるような貧民街は、どうやら形成されていないらしいのだ。
「細い裏路地なんかに入らなきゃ、警備の目が行き届くってわけか」
マトワール王国の王都では、あからさまに貴族と庶民で線引きされており、特に貧民街ではろくに警備もされていなかった。
けれどここでは城壁付近まで来ても、汚れた服を着て居たり、残飯を漁ったりする姿が見られない。
他国の使者に見られないように、そういった貧民をどこかに集めて隠している可能性もある。
だが普通に買い物をしている人々の表情を見ていると、その可能性も低いだろう。
これも教会学校を始めとした教育改革の恩恵だろう。
読み書きができれば雇用が広がる。
残飯漁りで食い扶持を繋ぐ必要もないのだ。
「王族が揉めていないと、ここまで違うものなのね」
「そうだな」
パレットの呟きに、ジーンも神妙な顔をする。
これも、この国が十数年かけて手に入れた平穏だ。
室長は恐らくパレットたちに、この平穏を実感してもらいたかったのだろう。
――これが、目指すべき未来の目標か。
幸いなことに、マトワール王国は地方がまともに機能している。
国の全てを一からやり直したルドルファン王国とは、始まりが違う。
今目にする笑顔が、いつかマトワール王国全てで見られたらいいな、とパレットは思う。
観光をして土産物も買ったパレットたちは、昼食を済ませるのにアヤのお勧めの店へ行くことにした。
なんでもアヤが懇意にしている、お好み焼きというものを食べさせる店なのだそうだ。
「お好み焼きって、どんな食べ物かしらね」
「まだベラルダの街にも入って来てなかったな」
未知の食べ物への期待を胸に歩くパレットたちは、時折道を聞きながら店に向かう。
王城前通りの一番外れで、庶民が集う通りの一番手前に、その店はあった。
「いらっしゃいませ!」
店員の威勢の良い挨拶に迎えられた店内は、なかなか混みあっている。
パレットたちのような観光客らしき者もいれば、地元の者もいた。
「あの、この子も一緒では駄目からしら?」
パレットは入り口付近にいた店員の女性に、ミィのことを尋ねる。
「ああ、聞いています。
噂の魔獣ちゃんですよね!」
すると店員に笑顔で店内に通された。
どうやらアヤから話がいっていたらしい。
加えて説明されたところ、普段聖獣の出入りもある関係で、店内にはペット同伴客のための席があるのだとか。
こうしてパレットたちがミィと一緒にテラス席へと案内されると、そこには先客がいた。
長い黒髪を綺麗に巻いた女性で、お供の使用人の女性を二人従え、楽しそうに会話している。
「セシリア様見てください、噂の魔獣ちゃんですよ!」
店員が先客三人に親し気に話しかけたところ、彼女たちはこちらを振り向いた。
そしてパレットとジーン、ミィの姿を捕らえると、表情を輝かせる。
「まぁ、待ち伏せていた甲斐がありましたわ。
あなた方は、マトワール王国の使者御一行の方々でしょう?」
「「魔獣だけどかわいい~!!」」
扇を広げて含み笑いをする女性の背後で、お供の二人が悶えている。
「えっと……」
突然のことに目を丸くするパレットの横で、ジーンは表情を険しくする。
ミィを連れている以上、パレットたちの身元が明らかなのは仕方ないものの、国の代表として身の安全には気を配らなければならないのだ。
緊張するパレットたちの態度を見て、黒髪の女性が微笑んだ。
「ごめんなさいね、騒がしくして。
わたくしはセシリア・キンダスと申します」
優雅に一礼してみせたセシリアは、その気品ある佇まいから察するに貴族に違いない。
「運動会を観覧するため、王都へ滞在中ですの。
魔獣を連れた使者の話をアヤに聞いて、どうしても会いたくなって待ち伏せてしまいました」
セシリアはにこりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あぁ、なるほど」
ジーンが情報漏洩先と待ち伏せられた理由を知り、ホッと息を吐いた。
恐らくアヤがこの店をお勧めしたのも、彼女と会わせたかったのだろう。
だが宰相夫人であるアヤの知り合いということは、高位の貴族の可能性が高い。
アヤの知り合いと聞いて、緊張が解けるはずもない。
「まずはお座りになってくださいな。
お食事をしながらお話をしたいわ」
セシリアがこちらに着席を促す。
「こちらがメニュー表となります」
すると店員がすぐさまメニューを差し出してくる。
高位貴族の前であっても、店員は緊張していない。
むしろ先ほどの様子からすると、仲がよさそうだ。
――セシリアさんは、この店の常連なの?
戸惑うパレットをよそに、店員はメニューについて説明する。
「初めての方は、パンケーキをイメージしていただくとわかりやすいですね。
あれに具をたっぷり混ぜ込んだ形になります」
お好み焼きについて説明した店員におすすめを聞いて、パレットはミックス焼き、ジーンが豚玉焼きを注文した。
ミィも鼻をヒクヒクさせて興味津々だったので、聖獣スペシャルという動物メニューを注文した。
しばらくすると、お好み焼きのタネが運ばれてきた。
確かに説明の通り、パンケーキのタネに野菜や肉などいろいろな具を混ぜたものであるのがわかる。
「自分で焼くのと、店員に焼いてもらうのが選べますけど」
店員に尋ねられたが、貴族であるセシリアも自分で焼いていたので、パレットたちも自分で焼くことにした。
「パンケーキは、兵士の野営でよく焼いたな」
ジーンが懐かしそうにお好み焼きを焼いている傍らで、セシリアのお供の二人がミィを撫でている。
「毛並みがサラサラですわ」
「でもスベスベですわ」
ミィは宰相の屋敷で綺麗に洗っているので、只今毛並みの綺麗な美魔獣だ。
なんでも、いつもアヤと一緒にいる聖獣は風呂を好むらしく、それゆえ動物でも使える石鹸やシャンプーが揃っていたのだ。
二人に褒められ、ミィもまんざらでもない顔で尻尾を揺らしている。
お好み焼きを焼くのにパレットは少し苦戦したものの、手慣れたジーンにミィの分まで焼いてもらうと、早速実食だ。
「美味しいわね」
香ばしいソースが食欲を刺激するので、パレットとジーンのお好み焼きを食べるペースが自然と早くなる。
ミィもこの料理を気に入ったようで、夢中で食べている。
「帰って屋敷でもみんなでやりたいな」
ジーンがそんなことを言った。
確かに、屋敷に帰ってもできそうな材料だ。
だが、この独特の風味のソースはどうしようか。
そんなことを考えていると、隣の席から声がかかった。
「この店秘伝のソース、頼めば売って貰えますわよ」
「本当ですか!?」
セシリアがいいことを教えてくれたので、帰りに購入することにしよう。
お好み焼きを楽しむパレットたちに、セシリアがこの料理の流行について語った。
「このお好み焼きは、特に貴族の間で人気があるのです。
上着がソースで汚れないように、みんな脱いで食べるでしょう?
だから身分を気にせず話そうという意味を込めて、お好み焼きを一緒に食べようと誘うのですわ」
「へぇ、そんなことが……」
この話を聞いたパレットが、最初に思い浮かべたのは王子様だ。
――帰ったらまず、王子様を筆頭とした子供たちに食べさせてやりたいわね。
そんな想いに浸るパレットに、セシリアが語った。
「この店はわたくしとアヤが出資して、孤児院を出た子供たちが働ける場として、始めた店なのです」
それが今では、主要な街に支店を構える大商会へと発展したそうだ。
支店でも、孤児の雇用を優先しているのだとか。
「そうなんですか」
パレットは目を細めて、忙しく働く店員を見る。
生き生きとした顔をしている彼らがみんな、孤児院出身者だとは。
アヤが聖女として国中外で人気があるのは、こうした功績ゆえなのだろう。
「あなたのことも噂に聞こえてましてよ、マトワール王国の王城で初の女性文官殿」
隣国の貴族の女性に、パレットは驚く。
ジーンはともかくパレットのことが隣国まで知られているとは。
「何事も初めてというのは、困難が纏わりつくものです。
ですが信頼する方がいれば、どんな困難も乗り越えられることでしょう。
アヤがそうだったように」
パレットがジーンを見ると、優しく微笑んでくれた。
「心強いお言葉、ありがとうございます」
こうして昼食が、思いがけず楽しい時となった。
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