不機嫌な乙女と王都の騎士

黒辺あゆみ

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六章 王子様の誕生パーティー

69話 叔父の行方

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王子様の誕生パーティーに向けて、パレットが忙しい毎日を送っている中、パレットの元に一通の手紙が届いた。

「ハイデン商会から荷物を持ってきた人が、一緒に渡してきたんだけど」

ハイデン商会から荷物を受け取ったレオンがそう言って、ハイデン氏からの手紙をパレットに持ってきた。

「そうなの、ありがとうレオン」

パレットは手紙を受け取りながらも、首を傾げる。
ちょっとした用事くらいは言付けで済ませるハイデン氏が、わざわざ封をした手紙を寄越すとは。

「なにごとかしらね」

なにやら不穏な感じがして、パレットはすぐに部屋に戻って手紙の封を切る。
 手紙を読んでみると、そこにはパレットの叔父について書かれていた。
驚くことに、叔父はまだ王都に戻っていないという。

 ――ジェームスに話を聞いて結構経っているのに、まだ帰ってないの!?

 叔父が不在のせいでドーヴァンス商会は混乱している、と書いてあった。
十年経っても相変わらず、あの店の体質は変わっていないと見える。
叔父もパレットの父親と同じように、従業員教育に力を注がなかったらしい。
 そして更に悪いことに、パレットが王都にいることを聞きつけた従業員らが、「お嬢様に戻ってきてもらおう」と言っているのだとか。
だがドーヴァンス商会からの連絡は、一切断るようにジーンに頼んであるので、あちらから連絡を取るのは難しい。
ならば直接会おうと、貴族街にある屋敷の周囲をうろつこうものなら、すぐに不審者として通報される。
そんなわけでパレットに会うことができない従業員らが、パレットと懇意であるハイデン商会に連日押しかけているのだとか。
それが騒ぎになり、先日は兵士を呼ぶ騒動に発展したらしい。
 そんなわけでハイデン氏から、どうしたものかという相談だった。

 ――なんて迷惑な連中かしら。

 これほどに腹の立つ手のひら返しはない。
従業員たちには罪悪感というものがないようだ。
むしろ「王城勤めに出世したのであれば、どうして実家を助けないのだ」と憤っている者が多いらしい。
人を馬鹿にした話である。

 ――誰かの命令を聞くしかできない従業員だから、悪事に利用されるのよ。

 誰かの言いなりに仕事をするだけならば、これほど楽なことはない。
難しいことはなにも考えず、どんな失敗も命令した相手に責任を押し付ければいいのだから。
けれど、それでは人として成長しない。
それは商人に限ることではなく、どんな仕事であってもそうだろう。
このことに、パレットは家出してから気がついた。
元を正せば、ある意味従業員を甘やかしていた、パレットの父親が悪いのだ。
 ドーヴァンス商会は父親がいなければ成り立たない商会だった。
だから今にして思えば、その父親が死んでしまった時点で、ドーヴァンス商会を解散するか売り払うのが、一番良かったのかもしれない。
あの時まだ子供だったパレットに、それができたとは思えないが、これが現在の被害を小さくする、最も賢いやり方だっただろう。
全てが手遅れのことながら、パレットはそう考えただけでため息が漏れ出る。
 ともかく考えなければならないのは、パレットとしても無視できなくなったドーヴァンス商会をどうするべきかだ。
このまま放っておくと、この屋敷の住人にも迷惑をかけることになるだろう。
頼りにしているハイデン氏も、他店であるドーヴァンス商会にとやかく言うことはできない。
そしてこの件でもう一人の当事者であるジェームスは、新たな人生の第一歩を踏み出したばかりで、こんなトラブルで戻って来いというのは、パレットとしてもさすがに気が引ける。

 ――もう、店を閉めさせようかしら。

 考えるのも嫌になったパレットに、そんな案が浮かぶ。
つい先ほど、解散か売却しておけばよかったと思ったが、しばらく休業させるというのもアリではなかろうか。
 叔父は攻撃用魔法具を許可なく取り扱い、ソルディング領で民衆の扇動に加担したのだ。
ドーヴァンス商会がこれまで通りに商売ができなくなるのは確実だ。
そして店に残っているはずの叔母は、商売ができる人ではなかったはず。
経営できる者がいないのだから、このまま放っておいても、自然に潰れるしかない店だ。
 だが、店を閉めさせるにも大義名分がいる。
ここは室長にちょっとお願いして、商売の無期限停止の許可を貰うのがいいかもしれない。
まだ叔父のやったことは公にできないが、兵士を呼ぶほどの騒動を起こしたのだから、それを表向きの理由付けにすればいい。
 従業員の当面の保証としては、店の資金を分配するように、パレットの名前で従業員らに通告すればいい。
戻って来いと言っているのはあちらなのだから、文句は言わせない。
従業員らが権力のある方に従うのは、子供の頃に十分思い知らされている。

 ――うん、そうしよう!

 どうやら、解決の糸口は見えたようだ。
 だがそんなことよりも、今考えるべきは叔父の行方だ。
ソルディアの街で、あれだけどっぷり悪事に染まっているようだった叔父のことだ。
パレットたちがソルディアの街の反乱を防いだことで、すり寄っていた貴族相手に、なんらかの厄介ごとに行き当たったに違いない。

 ――悪いことをしてお金を稼いでも、いい結果にはならないっていうことかしらね。

 叔父がどうなろうと、自業自得だとは思う。
しかし、パレットの脳裏を一瞬、「厄介者として始末されたのでは」という考えが過ぎり、それを振り払おうと頭を振る。
あんなのでも、血の繋がった叔父だ。
どうなろうと知ったことではないが、叔父の死を望むかというと、尻込みしてしまう。
 ジーンに以前言われた通り、パレットは悪にはなれない小心者なのだ。
案外パレットの父親も、今の自分と同じような心境で、何度も商売を失敗する叔父のことを、見捨てられなかったのかもしれない。
そう思うと自分と父親は、似た者親子だったということだろう。
 取り合えず、ハイデン氏に返信の手紙を書いた。
叔父の行方は、こちらでも調べてみること。
叔父に万が一のことがあった場合は、パレットの考えとしては、ドーヴァンス商会は解散するつもりであること。
当面の間、店は休業してもらうこと。
それらを内容にしたためて、レオンに手紙を届けてもらう。

「まずは、ジーンに相談ね」

叔父の件はパレットの個人的な話に留まらないので、勝手に判断を下すのは危険だ。
 その夜、帰って来たジーンに手紙の内容を話した。

「その男のことは、副団長に話をしてみよう。
なにか知っているかもしれない」

ソルディアの街の反乱後、アレイヤードはドーヴァンス商会を監視しているはずだと、ジーンが言う。
パレットも明日、室長に相談してみるつもりだ。


ハイデン氏から手紙を貰った二日後、パレットはドーヴァンス商会に直接出向いた。
実に、十年ぶりの実家である。
ドーヴァンス商会の玄関に立ったパレットの背後には、数人の兵士が控えている。

「みんな、お嬢さまだ!」
「おお、これで助かる!」

パレットの来訪に気付いた従業員らは、その姿を見て喜んだ。
 だが王城の文官服を身にまとったパレットは、ことさら無表情で集まった従業員らを見回して、室長に作ってもらった王城からの通告書を突きつける。

「王都の治安を乱した罪で、ドーヴァンス商会には無期限の営業停止命令が出ています」

パレットが言い放った言葉に、従業員らは驚いた。

「お嬢様、今なんと仰ったのですか!?」

従業員の中から年嵩の男が、パレットの前に飛び出してくる。
彼の顔は十年前、最も早く叔父にすり寄った人物として覚えている。

「この店のお嬢様であることは、十年前に捨てました。
今の私は、王城の文官としてここにいます」
「ならば、命令の撤回を!
 お嬢様だって、この店に愛着がおありでしょう!?」

冷たく言い切るパレットに、男は情に訴えようとする。
パレットと男の間で、意識のズレがあるようだ。
男は王城の文官という権力で、パレットに自分たちの味方をしろと言いたいのだろう。
だが、パレットはそれを鼻で笑う。

「愛着? 私は両親を亡くした時に、家を失ったわ。
散々人を苛め抜いて居場所を奪っておきながら、都合のいい時だけお嬢様呼ばわりなんて、笑わせないでよ」

言い返されると思っていなかったのか、男は呆然とする。
パレットはもう、虐げられるのを我慢していた子供ではないというのに。

「……裏切者だ!」

誰かがそう叫ぶと、集まった従業員らは暴れ出した。
しかしこうなることは予想済みで、事前にジーンの口利きで兵士を数人護衛に付けてもらっていた。
暴れる者は、国の命令に逆らったとして兵士に拘束されていく。
それを目にして、従業員らはようやく、パレットは自分たちの味方ではないと理解したようだ。
 そして、王城からの営業無期限停止の通告書は、絶大な効果を発揮した。
本物の王城からの命令だとわかると、彼らは徐々に暴れることをしなくなった。
良くも悪くも、強いものに弱い連中なのだ。
そして店の資金から従業員らの生活の補償金を出すようにパレットが命令すると、全員がすぐに店の奥に飛んでいく。
きっと店の金をかき集めるのだろう。
従業員らで金の奪い合いが起こらないように、監視のためにパレットと兵士らも奥へ向かった。
 ようやく騒ぎに気付いた叔母がやって来て、金切り声でなにかを喚いていたが、パレットはそれに耳を貸すつもりもない。
その叔母も、王城の文官に乱暴を働いた罰で、兵士に捕らえられる。
 この一連の騒動を観察していた通行人は、ドーヴァンス商会が休業することに、喜んでいる様子だった。

 ――ドーヴァンス商会の悪評判って、これほどのことなのね。

 その悪評のあおりを受けずに済んだのは、思えばジーンのおかげだ。
アカレアの領主の使いで王都にやって来た際、ジーンの屋敷に招かれることなく街の宿屋に泊まっていたら、どんな扱いを受けたかわかったものではない。
ここにきて、改めて感謝の念が浮かぶのだった。
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