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五章 ソルディング領
41話 一家団欒?
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翌朝パレットは目を覚ました時、自分がどこにいるのかわからなかった。
目を開けた自分の前にあったのが、ミィのお尻だったからだ。
どうやらパレットの枕元に、ミィが移動してきたらしい。
ミィをそっと抱き寄せると、その温もりで朝の冷たい空気が和らぐ。
パレットがそのまま寝返りを打とうとして、次に視界に入ったのは秀麗な男の顔だった。
「……!?」
思わず悲鳴を上げそうになるが、かろうじて飲み込む。
そしてすぐに今の状況を思い出した。
――そうか、ベッドが一つしかなかったんだ!
ジーンの寝息がかかるくらいの至近距離だ。
お互いにベッドの端で寝たはずが、寝返りを打つうちに、真ん中へと移動したようだ。
布団越しにジーンの温もりが伝わってきて、パレットは一人鼓動を早める。
一方のジーンの方はまだ寝ているようで、身動きする様子は見られない。
ここで下手に動けばジーンが起きてしまう気がして、パレットはそのままの体勢で固まってしまった。
――父親以外の男の人を、こんなに近くで見たことはないわ。
整った顔立ちに長いまつ毛、窓から漏れる日差しに輝く白い肌。
美しい貴族の騎士様に混じっても、見劣りのしない男だ。
そして戦う者としても優秀で、逞しい身体の持ち主でもある。
そのジーンが、どうして今こうしてパレットと共にいるのか、いつも不思議でならない。
――ある意味、私と別世界の人なのにね。
ジーンは華やかな場所が似合う男だ。
王都でも女性に人気があったジーンだが、旅で立ち寄った街や村でも、娘たちの視線を釘付けにしている。
騎士の肩書などなくても、魅力的な男なのだ、ジーンは。
そんな男が、どうして地味な自分などを構うのか、パレットには不可思議でならない。
ジーンはいつもパレットが落ち込んでいる時、素早く察知して近寄ってくる。
――王城で働く、唯一の庶民だからかしら?
仲間意識が働いていることは、ありえる話ではある。
だとしたら、これから先庶民の採用が増えれば、パレットの存在などどうでもよくなるだろう。
期待をするのは後で後悔する。
そこまで考えて、パレットはふと気が付く。
――期待って、なにを期待するのよ、私は。
朝から異常な状況なせいで、思考回路がおかしくなっているに違いない。
パレットはぎゅっと目を閉じて、頭の中のおかしな考えを追い出そうとした。
その時。
「人の寝顔を見て、楽しいか?」
間近から声が聞こえて、パレットはぎょっとして目を開ける。
すると、目の前にある秀麗な顔は、ニヤリと笑みを浮かべていた。
ジーンは起きていたのだ。
「……っ、いつ、起きたんですか?」
「アンタがミィの尻に驚く前だな」
最初から起きていたらしい。
自分の考えに没頭していたパレットは、ジーンが薄目を開けているのに気づかなかったのだ。
――ぐるぐる考える顔を、ずっと見てたってこと!?
恥ずかしくて、布団に潜り込んでしまいたい。
身悶えするパレットの目の前で、ジーンが可笑しそうに口元を震わせる。
「……うみゃぁ」
そんな二人のせいで、ミィが眠りから覚めたらしい。
パレットの腕の中からもぞもぞと抜け出したミィの、ゆったりと振った尻尾がぺちりとジーンの顔に当たった。
「……ふっ!」
その様子が可笑しくて、パレットは思わず吹き出す。
それが気に障ったのか、ジーンが眉をひそめる。
「笑ったな、こいつ」
そう言ってジーンが腕を伸ばし、パレットの首を絡めとり、引き寄せる。
「きゃっ……!」
パレットは突然のことに、目を見開いたまま固まる。
鼻先がつきそうな至近距離に、ジーンの顔がある。
「おはよう、奥さん?」
耳元でそう囁かれた。
パレットがどうすることもできず、真っ赤な顔でジーンと見つめ合っていると。
「みゃあ」
自分も、とばかりにミィがパレットとジーンの顔の隙間に、自分の顔を割り込ませて鳴いた。
ミィは二人が遊んでいると思ったのかもしれない。
二人はこのミィの行動にしばらく固まっていたが、どちらともなく笑いだす。
「ミィったら、仲間外れが嫌なのね」
「みぃ!」
パレットが笑いながら話しかけると、ミィは元気に鳴いてぺろりと頬を舐めてくる。
ミィのおかげで緊張感が吹き飛んでしまった。
「ああ、はいはい。
お前もおはようさん」
ジーンも悪戯心が静まったようで、ガシガシとミィを撫でると、パレットから身体を離して起き上がった。
「そろそろ起きないと、出発の時間だぜ。
フロストが焦れるぞ」
「……そうですね」
その後二人揃って宿屋を出る時、宿屋の主夫婦から妙に生暖かい視線を向けられたことは、パレットは気付かなかったことにしたい。
だがこの「新婚夫婦事件」はこれだけではなかった。
それからも宿泊に立ち寄った街や村で、似たような状況に陥ることがしばしば発生した。
――誰よ、新婚夫婦なんていう身の上にしたの!
正確に言うならば、アレイヤードは新婚などとは言わなかった。
ただ、若い二人連れが夫婦だと名乗れば、人は勝手に新婚だと考えるというだけの話だ。
しかしそのせいで、ある意味特別扱いを受けるのは迷惑な話だ。
パレットたちは荷馬車やフロストの管理のために、経費としてある程度料金の高い宿に宿泊しているせいもあり、金払いがいいと思われるようだ。
そのためか、行く先々で夜の雰囲気たっぷりの部屋に通されることに慣れてしまうのは、危険な気がした。
これが本当に新婚だったならば、いろいろと楽しめたのかもしれないが。
そしてさらに危険なのは、ベッドの上の距離が縮まってきているということだ。
「どうせ寝返りを打てば、こっちに来るんだろ?
風邪をひく方が馬鹿らしい」
そう言ってジーンが、勝手に枕を引き寄せるのだ。
――神様、私はなにかしましたか!?
己に降りかかる試練について、神に問うパレットだった。
目を開けた自分の前にあったのが、ミィのお尻だったからだ。
どうやらパレットの枕元に、ミィが移動してきたらしい。
ミィをそっと抱き寄せると、その温もりで朝の冷たい空気が和らぐ。
パレットがそのまま寝返りを打とうとして、次に視界に入ったのは秀麗な男の顔だった。
「……!?」
思わず悲鳴を上げそうになるが、かろうじて飲み込む。
そしてすぐに今の状況を思い出した。
――そうか、ベッドが一つしかなかったんだ!
ジーンの寝息がかかるくらいの至近距離だ。
お互いにベッドの端で寝たはずが、寝返りを打つうちに、真ん中へと移動したようだ。
布団越しにジーンの温もりが伝わってきて、パレットは一人鼓動を早める。
一方のジーンの方はまだ寝ているようで、身動きする様子は見られない。
ここで下手に動けばジーンが起きてしまう気がして、パレットはそのままの体勢で固まってしまった。
――父親以外の男の人を、こんなに近くで見たことはないわ。
整った顔立ちに長いまつ毛、窓から漏れる日差しに輝く白い肌。
美しい貴族の騎士様に混じっても、見劣りのしない男だ。
そして戦う者としても優秀で、逞しい身体の持ち主でもある。
そのジーンが、どうして今こうしてパレットと共にいるのか、いつも不思議でならない。
――ある意味、私と別世界の人なのにね。
ジーンは華やかな場所が似合う男だ。
王都でも女性に人気があったジーンだが、旅で立ち寄った街や村でも、娘たちの視線を釘付けにしている。
騎士の肩書などなくても、魅力的な男なのだ、ジーンは。
そんな男が、どうして地味な自分などを構うのか、パレットには不可思議でならない。
ジーンはいつもパレットが落ち込んでいる時、素早く察知して近寄ってくる。
――王城で働く、唯一の庶民だからかしら?
仲間意識が働いていることは、ありえる話ではある。
だとしたら、これから先庶民の採用が増えれば、パレットの存在などどうでもよくなるだろう。
期待をするのは後で後悔する。
そこまで考えて、パレットはふと気が付く。
――期待って、なにを期待するのよ、私は。
朝から異常な状況なせいで、思考回路がおかしくなっているに違いない。
パレットはぎゅっと目を閉じて、頭の中のおかしな考えを追い出そうとした。
その時。
「人の寝顔を見て、楽しいか?」
間近から声が聞こえて、パレットはぎょっとして目を開ける。
すると、目の前にある秀麗な顔は、ニヤリと笑みを浮かべていた。
ジーンは起きていたのだ。
「……っ、いつ、起きたんですか?」
「アンタがミィの尻に驚く前だな」
最初から起きていたらしい。
自分の考えに没頭していたパレットは、ジーンが薄目を開けているのに気づかなかったのだ。
――ぐるぐる考える顔を、ずっと見てたってこと!?
恥ずかしくて、布団に潜り込んでしまいたい。
身悶えするパレットの目の前で、ジーンが可笑しそうに口元を震わせる。
「……うみゃぁ」
そんな二人のせいで、ミィが眠りから覚めたらしい。
パレットの腕の中からもぞもぞと抜け出したミィの、ゆったりと振った尻尾がぺちりとジーンの顔に当たった。
「……ふっ!」
その様子が可笑しくて、パレットは思わず吹き出す。
それが気に障ったのか、ジーンが眉をひそめる。
「笑ったな、こいつ」
そう言ってジーンが腕を伸ばし、パレットの首を絡めとり、引き寄せる。
「きゃっ……!」
パレットは突然のことに、目を見開いたまま固まる。
鼻先がつきそうな至近距離に、ジーンの顔がある。
「おはよう、奥さん?」
耳元でそう囁かれた。
パレットがどうすることもできず、真っ赤な顔でジーンと見つめ合っていると。
「みゃあ」
自分も、とばかりにミィがパレットとジーンの顔の隙間に、自分の顔を割り込ませて鳴いた。
ミィは二人が遊んでいると思ったのかもしれない。
二人はこのミィの行動にしばらく固まっていたが、どちらともなく笑いだす。
「ミィったら、仲間外れが嫌なのね」
「みぃ!」
パレットが笑いながら話しかけると、ミィは元気に鳴いてぺろりと頬を舐めてくる。
ミィのおかげで緊張感が吹き飛んでしまった。
「ああ、はいはい。
お前もおはようさん」
ジーンも悪戯心が静まったようで、ガシガシとミィを撫でると、パレットから身体を離して起き上がった。
「そろそろ起きないと、出発の時間だぜ。
フロストが焦れるぞ」
「……そうですね」
その後二人揃って宿屋を出る時、宿屋の主夫婦から妙に生暖かい視線を向けられたことは、パレットは気付かなかったことにしたい。
だがこの「新婚夫婦事件」はこれだけではなかった。
それからも宿泊に立ち寄った街や村で、似たような状況に陥ることがしばしば発生した。
――誰よ、新婚夫婦なんていう身の上にしたの!
正確に言うならば、アレイヤードは新婚などとは言わなかった。
ただ、若い二人連れが夫婦だと名乗れば、人は勝手に新婚だと考えるというだけの話だ。
しかしそのせいで、ある意味特別扱いを受けるのは迷惑な話だ。
パレットたちは荷馬車やフロストの管理のために、経費としてある程度料金の高い宿に宿泊しているせいもあり、金払いがいいと思われるようだ。
そのためか、行く先々で夜の雰囲気たっぷりの部屋に通されることに慣れてしまうのは、危険な気がした。
これが本当に新婚だったならば、いろいろと楽しめたのかもしれないが。
そしてさらに危険なのは、ベッドの上の距離が縮まってきているということだ。
「どうせ寝返りを打てば、こっちに来るんだろ?
風邪をひく方が馬鹿らしい」
そう言ってジーンが、勝手に枕を引き寄せるのだ。
――神様、私はなにかしましたか!?
己に降りかかる試練について、神に問うパレットだった。
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