死んだ君が目の前に現れた

ぼの

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11 さくらのいた地元

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僕は目を覚ますと、窓の隙間から朝日が指していた。

「もうすぐだな......」

変わってしまった昔見た景色を眺めていると、あの時の記憶が一緒にフラッシュバックする。

僕は見慣れた駅に足を踏み入れる。

どこか懐かしい雰囲気に心を弾ませながら、僕は昔歩いた道を歩いて家に向かっていた。

少し古くなった二階建ての古民家、まだ朝は早い、鍵はかかっていない。

「ただいま。」

いつも家族全員で時を過ごしたリビングの戸を開くと、そこには少し小さくなった背中が二つ。

「おかえりなさい」

会わない間に少し変わった両親の姿を僕は目の当たりにする。白髪が少し増えて腰も少し曲がっただろうか。

そして父はいつものように、背中をこちらに向けて新聞を読んでいる。

それでもこの居心地の良い感じは全てあの時のままだ。

「久しぶりね優希、今お茶を入れるわね」

そう言って母は台所の方へ行ってしまった。

突然訪れた父とふたりの空間。

昔から父は気難しい性格で、笑った顔をあまり見たことがない。
僕が学校に行く時いつもリビングの丸テーブルで新聞を読んでいた。

しばらく父との間に沈黙が流れる。

そこに母がお茶をもって僕らの前に置いてくれた。

再びこの空間に気まずさを覚えた時、父が口を開く。

「優希。あの時は本当にすまなかった...!」

父は突然こちらに顔を向け、深々とその頭を下げた。

僕はその父の行動に一瞬理解が追いつかなかった。

それに続いて、横に座った母も重そうな口を開く。

「私たち二人でさくらちゃんの事について調べていたんだけど、それを優希に伝えるのが遅くなってしまったわね...」

ここで僕はようやく理解した。
二人からしてみれば、僕はさくらの自殺の理由を知らないと思っているのだ。

さすがにその死んだはずのさくらが目の前に現れたなんて、二人とも信じてはくれないだろう。

父と母は僕が地元を飛びだしたあとも、ずっとさくらの事件を調べてくれていたらしい。

メールでもそれをまとめて僕に教えてくれようとしていた。

両親はそれからその時の詳しい状況を説明してくれて、さくらの証言と少し違うところもあった。

しばらく両親と話した後、僕はさくらとの約束を果たすため出かける準備をした。

「いってらっしゃい。さくらちゃんに会いに行くのね」

母は僕にそれだけいって玄関まで見送ってくれた。

あの時二人で歩いた道を、久しぶりに一人で歩く。

小学校、中学校、高校。
戻ってみればその景色はあのころと何も変わっていなかった。

ただ僕の知っている先生はほかの学校に移動してしまったらしく、会うことは出来なかった。

あの日屋上で二人で食べたお弁当のことを思い出して、少しお腹がすいてしまった。

いまさくらは何をしているんだろう。そんなことを考えているうちに、僕はあの場所にたどり着いた。

時期的に満開に咲いたさくらを見ることは出来なかった。それでもそれは僕らを出迎えるように聳えていた。

僕はそのとても居心地のいい空間に心が休まった気がして、その下に寝転んだ。

「おかえり、優希。」と、さくらが言っているような気がした。

「ただいま、さくら。」

僕はどこかさくらの温もりを感じながら目をつぶる。

「帰ってきたんだ」と心の底からそう感じた。

きっと、ここにさくらもいるとも。

その時、ポケットにしまっていたスマホがなる。母からのメール。

僕はそのメールを読んだ後、出かける前にさくらと話した会話を思い出した。


もし僕が祈れば、きっと......


「わかった。これから行ってみる」

僕はそう母に返信をしてから、立ち上がり歩き出した。

あの日行かなかった場所。

いや、行くことのないはずだった場所へ。

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