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それは恋であり、愛であり(完)

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 タリスは生活態度を一変させた。
 すっかり品行方正の体現者である。

「実は、聖女様に気にかけていただけたことが嬉しくて……。あの方に気に入っていただけるよう、頑張ろうと思ったんです」

 こんなことを、他ならぬタリス自身が、頬を赤らめながら宣うものだから、私の株も上がりに上がっている。今や優秀な神官を引き留めた、面倒見の良い聖女様として評判高く、アルケニアスであった頃を揶揄する悪評は、私の耳に届かなくなっていた。

 それもこれもタリスのおかげである。
 心底複雑だけど!

「シフォン様、おはようございます。今日もお考えは変わっていませんか?」

 タリスは会うたびにそう囁く。
 ほんの数ヶ月で少年から青年となった彼は、空色の長い髪を編むようになった。私を視界に入れるたびに弓形に緩む銀の瞳は、彼の感情を何よりも率直に伝えてくる。

「なんのことでしょう」
「もう、仕方のない方ですね」

 タリスの指先が私の眦に触れる。
 真剣な面持ちで私を眺めると、穏やかな笑みを浮かべながら体を離す。どこか儀式的なこの行いも、習慣化されてきた。

「聖女様、好きです。俺が教皇になったら、結婚してください」
「嫌です。……なんだか、当初よりも要求が図々しくなっている気がするのですが」
「気のせいですよ~」

 タリスが私に手を取り、片膝をついて口付ける。

「でもね、シフォン様。聖女と教皇が公私共に信頼し合う未来が来たら──そうしたら、教徒達も安心すると思いません?」
「恋情ではなく、純な信頼をご所望でしたら、幾らでも差し上げます。そもそも、君は未だ神官でしょう。弁えてください」
「相変わらずだなぁ。まぁそこが好きなんだけど」
「いい加減諦めてください……」
「あはは! 無理です、すみません!」

 彼の手を引っ張って立たせた。
 微塵も申し訳なさを感じさせない、跳ねるような笑い声。以前の彼では考えられない、心からの笑顔だ。

(そんな風に笑えるようになったのね)

 つられて口角を上げる。
 タリスは私の手を片方だけ取ったまま、ゆっくり歩き出した。並んで歩くと、彼の頭は私よりもずっと高い位置にある。彼は背筋を伸ばして、天を見上げた。

「聖女様。救われましたか?」
「どうでしょう。でも、最近は、生きていることが楽しいです」

 そう呟くと、タリスは満足げに微笑んだ。
 始まりが打算であれども、私たちに通う情は、確かに暖かさが増していた。

 タリスが教皇になる日は近い。
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