お喋りオークの聖剣探索

彌七猫

文字の大きさ
上 下
29 / 36
第一章 オークのオルクス

29/VS ワイバーン5

しおりを挟む
 俺が思うに冒険者と兵士の違いは、守るものがあるかどうかだ。
 王や民、国を守るために命を賭ける兵士。
 ひたすらに未知の領域を開拓し、モンスターを討伐する冒険者。
 後者が失うものは自分の命だけ。どのみち最初からベットしているものだ、しくじれば無くなるのは道理。
 ならば命がけで強敵へ挑む事に、躊躇いが少ないのも当たり前なのだろう。
 あのドズの爺さんを動かしたのだ。冒険者というものはどいつもこいつもタガが外れている。

 ――だがきっかけは、やはりお前だった。

 重苦しい声が意識に直接話しかけてくる。

 ――お前があそこで動かなければ、彼らの恐怖は恐怖のまま、きちんと伝播していたのだ。だからこれは、お前が招いたことだ。

 ああわかるぜ、それがわかってたから俺も動いたんだ。
 人間ってヤバいよな。
 怖ぇなら逃げ出せばいいのに、それを精一杯抑え込んで、その反動で勢いつけて向かってくる。
 一人一人は全然弱いのに、たまにこっちが怖くなるくらい、気圧される時があるんだ。
 それは時に勇気と呼ばれるし、たまに蛮勇と呼ばれるし、大体は向こう見ずと馬鹿にされる。
 でもそれが人間の強さだ。不可能を不可能と諦めて挑戦しなければ、僅かに残された可能性を掴み取ることはできない。
 なら、その砂粒みたいな可能性を手にできるのは、人間ていう生き物の、なんていうか特権みたいなもんだろう。

 ――故に、この様か。

 そうだな。
 だからお前は、人間に負けるんだ。

 ――……いいや。いいや。やはりお前だ。何故ならお前がいなければ、その可能性すらも生まれなかった。お前によってもたらされたのだ。

 俺はモンスターだ。
 お前と同じ、人間に倒される側なんだよ。

 ――それでは話が違う。不可能を踏破するのが人というのなら。我を倒す者が人というのなら、お前はモンスターではなく、お前こそが……。

 おっと、それ以上は野暮だぜ。
 さて、賑わってきやがった。
 そろそろお開きにしようや、伝承の落とし子よ。



     ▽



 少しだけ気を失って、復帰したら目の前で不用心に尻尾が揺れてたもんだから、思わず掴んでしまった。
 動きが止まったワイバーンの背中に、どう登ったかコリーとジョーがいた。このまま背負い投げしてやろうかと思ったのに、あんなとこにいたんじゃできないな。

「身体のでかさが違うからなぁ。このままじゃ投げ飛ばされるか」

 さて次の行動をどうするか考えていると、ワイバーンの背中にいるコリーがなにやら叫んでいるのが見えた。

「……そのまま、掴んでろ?」

 コリーは触診しているらしい。たぶんジョーの魔性特攻を使って、ワイバーンの心臓を破壊しようとしているんだろう。
 そういえばジョーの魔性特攻、昇格試験のときはまだ覚えていなかったらしい。あの時そんなスキル使って心臓潰されてたら、さすがに俺も死んでたんじゃないか。
 背中に悪寒を感じながら、俺は徐々に抵抗が強くなっていくワイバーンの尻尾を抱え直した。
 しばらくそうして抑えていると、大口を開けて指示を飛ばしたコリーにジョーが応える。
 あ、血吐いた。ジョーの奴大丈夫か。
 気合いで持ち直したか、崩した体勢をもとに戻したジョーは、その場で数メートルほど跳躍し、投擲の構えに入る。
 ハルバードが光とともに槍へと姿を代え、赤い魔力を纏いながらワイバーンの背中へと投じられた。
 突如、響き渡る咆哮。
 その強烈さがそのまま、受けたダメージの深刻さを物語っている。
 さらにその直後、ワイバーンの真上に赤い魔法陣が浮かび上がった。中心から光条が発生し、外側へと拡大すると、ワイバーンの姿がすっぽりと覆わる。
 おそらく魔法を使う兵士たちが組んだ対軍魔法だ。
 コリーとジョーが慌ててワイバーンの背中から退避した。

「どうでもいいけど、俺いつまで捕まえてないといけないんですかね!」

 魔法は空と地面を焼きながら、ワイバーンに直撃する。

「おおぅぉおおおぅおおぅおおぅおおぉう!!!!」

 俺の目と鼻の先の空間が焼けていく。
 手を放したいけど、今放すと魔法から逃れようとするだろうし。ていうか絶賛抵抗続いてるし。心臓潰して対軍レベルの魔法喰らって、なんでそんな元気なのコイツ。

「オルクス!」

 すっごい遠くからドズの爺さんに呼ばれた。見れば相当傷だらけだし、もやは精根尽き果てた様子のイーディスも隣に控えている。何があった。

「ごめん今取り込み中だから後にしてもらっていいか!」
「ワイバーンの抵抗はまだ続いているな!」
「そうだよ! だから手が離せないんだよ! ちゃんと心臓破壊したのか!?」

 徐々に光が引いていく。
 それなりに弱った形跡はあるが、致命傷を二度も与えて死なないのはどういうわけだ。コリーとジョーは理不尽すぎるワイバーンの耐久力を前に、もはや次の手が思いつかず悔しそうに歯を食いしばっている。
 すると爺さんが続けた。

「一度目の竜討伐で、儂もここまでは至ったのだ。ここで油断したからこそ、儂らのパーティは討伐を失敗した。
 疑似心臓だ、オルクス! 竜種は心臓が何らかの理由で停止した際、最後の魔力で構成した疑似心臓を作動させるのだ」
「なんだって!? ってことはこいつ、もう一個心臓があるって事か!」

 負けを認めたくせに往生際悪過ぎんだろ。
 竜種のプライドってやつか。それとも意識とは別に、竜王の誕生によって本当に魔力が暴走してるってことなのか。
 なんにせよ、全員切り札は出し尽くしてる。
 コリーとジョーによる心臓破壊。長時間をかけた対軍魔法の直撃。特に後者はそう何度も撃てるものではないだろう。
 もう一度コリーに触診させて、疑似心臓の場所を特定するしかない。だが一度心臓を破壊されたんだ、ワイバーンがそれを許してくれるとは思えない。
 まずいな、こりゃ万事休すか……。
 そう思っていると。

「オルクス殿!」
「っ、イーディス」

 満身創痍だったイーディスが、青い顔をしながら声を張り上げる。覇気のある声だった。

「私とジョーがコリーを護ります。コリーは触診を成功させます。だからオルクス殿、少しでも長くワイバーンを止めてください!」
「ああやるとも、やってやるとも! 何度だって私が心臓を見つけてやる!」
「よく言った俺の美しい女コリー! ならば護るとも、たとえこの身体が肉の一片になろうとも!」

 若いAランク冒険者の三人が決意した。
 俺の視線は自然とドズの爺さんへと向かう。それを受けて、爺さんも仕方ない、といった表情で頷く。
 ああ、若い連中にああまで言われて、俺らがへこたれちゃあいけないよな、爺さん。

「オルクス、ワイバーンを転ばせろ! あとは儂がやる!」
「転ばせるなんてちゃちな事言うな!
 ――そぉぉおおおおおおりゃあああ!!!!」

 俺はワイバーンの尻尾を肩に担いで引っ張る。ワイバーンの身体が浮かび上がり、そのまま俺を中心に弧を描く。
 うおおおお! という周りの絶叫を受けながら、俺は力の限りワイバーンを投げた、、、
 凄まじい轟音と地響きと起こして、ワイバーンは大地に倒れる。その瞬間、ドズの爺さんはその身体に触れてスキルを発動する。

重圧じゅうあつ!」

 ズズン、とワイバーンが地面にめり込んだ。どういうスキルかわからないが、どうやら何らかの力がワイバーンの身体を地中へと押し込んでいるらしい。

「いまだコリー、急げ!!!」
「触診、骨格診断!」

 拮抗はほんの数秒だろう。その間にコリーが触診を終わらせなければ詰む。

「ぐぅ、ふっ」

 爺様の口元から血が滲む。一人でワイバーンを拘束するなんて、あの老体には酷だろう。最悪魔力の消耗に耐えきれずショック死するかもしれない。

「構うものかっ、きら星の如きこの夢を、潰えさせてなるものか」

 ……格好いいぜ、爺さん。
 だがやはり、十秒も抑えてはおけなかった。
 ワイバーンはスキルの拘束を力尽くで破る。反動により魔力暴走を起こして、爺さんの身体のあちこちが弾ける。

「ドズー!」
「コリー!」

 ワイバーンが体勢を直した衝撃で、触診していたコリーと、身動きの取れない爺さんが紙くずのように吹き飛ばされた。
 俺がドズを、イーディスとジョーがコリーを受け止めた。ドズは血反吐を吐きながらコリーに訊ねる。

「心臓は、位置はわかった、のか?」

 コリーが自身とドズに治癒魔法を掛けながら力強く頷く。

「よし。オルクス、いまのではっきりしたが、あのワイバーンにもう魔力は残っておらん。心臓の生成で使い切ったようだ。つまり、超速再生はない」
「! コリー、心臓はどこにある!?」
「両肩を結んだ直線上、その腕一本分だけ下に」
「イーディス、ジョー、一発当てて牽制してくれ!」
「承知!」
「おう!」

 俺は二人と一緒にかけ出し、二人が両脇から、俺は正面に対峙して構える。空気を読んだ冒険者たちが再び弾幕を張った。
 俺は腰を落とし、棍棒を肩に担ぐ。相撲取りのように四股を踏み、コリーが見つけた疑似心臓に狙いを定める。
 二人が攻撃を仕掛け、怯んだ隙に地面を蹴る。

「あばよ、伝承の落とし子。これで本当に最後だ。
 音越豚頭おとごえ!!!!!」

 それは、ただの突進。
 しかしてその影を追える者は無く。
 障害を踏み散らして突き進む。
 さながら一発の弾丸の如く。





     …





 命が炸裂した断末魔は、大陸の果てにまで届く。
 竜殺しの血塗れ豚頭クリムゾン・オーク
 その奇妙で新しい伝説と共に。
 
_________________________

ワイバーン戦、ついに決着。

次回『帰還、そして日常へ』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...