お喋りオークの聖剣探索

彌七猫

文字の大きさ
上 下
16 / 36
第一章 オークのオルクス

16/イーディス・デュパン

しおりを挟む
 抜き身の刀身。

 それがイーディス・デュパンに対する印象だった。冗談で手を出そうものなら、一息で腕を両断されそうな、そんなイメージ。
 腰に差してある武器が明らかに日本刀であることも、その想像を助長させているかもしれない。

「よろしくお願いします、オルクス殿」

 身体を僅かに前掲させる礼、これも日本式。異文化、というか異世界に慣れて久しいが、こうして改めて見るとたしかにクールだ。
 とはいえそんな所作や日本刀なんて、いったいどこで手に入れたのだろうかと疑問に思う。
 どこかの国ではそういう文化が発達しているのだろうか。

「これが珍しいですか?」

 鎧の奥に隠れているはずの視線に気づかれた。

「ああ、見た事がない武器だ。ずいぶんと細身だな」
「これは刀です。特殊な製法で、鉄を折り重ねて一本の剣にしています。私の生まれた国では、むしろこちらのほうが主流でした」
「そうなのか、勉強になるな。ちなみに出身はどこなんだ。大陸の西か?」
「私は大陸生まれではありません。こちらでは向こう国と呼ばれる、海の外側の国です」
「ほう、海の外側、か」

 なにそれ行きたい!
 海がある事は冒険者たちから聞いて知っていたが、その向こうにも国があるとは驚きだ。
 誰も海の向こうのことは知らなかった。まさか海の向こうから来た人に会えるとは感激だ。
 とはいえ、感情だけで話すわけにはいかない。俺は大人だし、子どものようにはしゃぎ倒して質問攻めにするなんて恥ずかしい真似はできない。

「生活様式はこの国とは違うのか? 人種は、住んでいる人たちは変わらないのか? 武器を持っているということは、冒険者やモンスターは出てくるのか?」
「お、オルクス殿」
「どうやって大陸へやってきんだ。海か、まさか空か? 時間は、移動時間はどれくらいかかるもんなんだ。どうすれば俺も海を越えられる?」

 って、マズい止まらーん!
 おいどうなってるんだ、誰か俺の口を止めろ!

「ふふっ」

 と、ふいに脇腹を突かれたように、イーディスが笑い声を零した。

「噂に聞いていた飛び級冒険者がどんな人物かと少し不安でしたが、見た目よりもずっと子どもっぽくて安心しました」

 そしてイーディスは今度、少しわざとらしく礼をした。

「いや失礼。上級者に対し、無礼な発言でした」

 ……意外だ。冗談は通じないと思っていたが、この態度。なかなかウィットに富んでいるんじゃなかろうか。
 そしてそこへ、俺たちを呼び出した張本人が現れる。

「やあ二人とも、仲が良さそうでなにより」

 俺たちはこいつ、イングレントにギルドへと呼び出された。
 Aランク昇格条件を満たしたBランク冒険者と、Aランクの俺でパーティを組み、A級討伐クエストに挑戦するためだ。
 条件をクリアしたBランクは、ここにいるイーディスと、あともう一人。

「こ、こんにちは」

 イングレントの影から恐る恐る顔を出したのは、このあいだイーディスと一緒に撤退した魔法使いの少年だった。
 名前はたしか……。

「彼はウィンプ・ルルゥ。イーディスと同じ、先日Aランクへの昇級条件をクリアした冒険者だ。今日は彼を入れた君たち三人でパーティを組み、クエストにあたってもらう」

 はい、とイーディスが返す。

「今回、オルクスは監督役として同行することになる。つまりメインはあくまでもイーディとウィンプ、君たちということだ。頼ってばかりで不甲斐ない行いをすれば、むろんそれは審査に直接影響する。たっくさん気張ること。以上だ」
「委細承知しました」
「わ、わかりましたぁ」
「じゃあ行くか」

 クエストは事前にイングレントによって決定されている。
 内容もすでに知っている。もちろんパーティの仲で俺だけが。
 可哀想だが、少し辛い目に合ってもらうことになる。言ってしまえばドッキリみたいなことだが、ちゃんと命が掛かっているのだから失敗は許されない。
 二人とは違う理由で、俺の心臓はバックバクだ。

「お、オルクスさん、いいでしょうか、その、質問しても」

 ギルドを出てすぐに、ウィンプが声を掛けてきた。

「どうした?」
「き、今日、その、討伐に行くも、モンスターは一体……?」
「おおそうか、言うのを忘れていたな。すまん」

 今のは自然に言えていただろうか。少し自信がない。仕方ないだろ、嘘は苦手だし、演技なんてした事ないし。

「これからお前らに討伐してもらうモンスター、それは」
「それは?」
「オーク」

 一瞬の静寂。
 そして次の瞬間、二人の不満タラタラな悲鳴が木霊した。
 オークの何が嫌なんだ、言ってみなさいほら。聞いて上げるから。

______________________________

ちなみにオークの討伐ランクはC。
怪力だが愚鈍、愚直。およそ戦闘に耐えられる頭ではない。
そんな中、血塗れ豚頭クリムゾン・オークのみランクAに認定されている。

次回『頑張れBランク』
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...