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第10話 若すぎませんか??

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「行きますか」

「ああ」

 俺は変な汗をかきながら玄関扉のドアノブに手をかける。

 扉に鍵はかけられていなく、そのまま中に入ることができた。

「ただ……いま~」

 見知らぬ人の家にお邪魔するのに、ただいまというのは変な話である。
 誰かの体に入ってしまっているということが、異様なことだということを改めて感じた。

「おじゃましまーす!」

 続いて上がり込んだ海利が、俺よりも大きな声を出した。
 2人で喋っているときと声のトーンが違いすぎる。

「おかえりなさ~い」

 玄関の先から優しそうな声が聞こえてくる。
 母親だろうか。

 玄関には女性ものの靴がいくつも並べられている。
 綺麗に整頓されていたので、俺と海利もそれを真似して、靴を脱いでならべた。

 外見からでも伝わってきてはいたが、物凄く広々とした一軒家だ。
 きちんと掃除されており、埃一つない。

 全貌は分からないが、部屋数がかなりありそうだ。
 まぁ、5人で住むようだろうしこれぐらいは必要か。

 廊下は長く、玄関の近くに2階へ続く階段があった。
 俺が玄関に突っ立って、人の家をまじまじと見ていると、リビングと思われる場所から1人の女性がやってきた。

「あら、海利君。こんにちは」

 優しそうな声の持ち主は、見た目もほんわかとしていた。

 程よい肉付きをしており、例外なく美人で巨乳だ。
 胸がエプロンを突き出しており、こちらを誘惑しているのではないかと勘違いしてしまう。

 茶髪に近いロングヘアーで唇の右下にホクロがあり、色気が体中から溢れ出ていた。

「どうも、おばさん。少ししたら帰りますんで」

「そうなの? ゆっくりしていけばいいのに……。お茶ぐらい出すわよ?」

「いえ、ほんとおかまいなく」

 海利は友人の母親だというのに、率先して話してくれた。
 隣で俺が固まってしまっているからだろう。

 ある程度身構えていたはずなのに、虎頭心火の母親を見て俺は絶句した。

 若いのだ。若すぎるのだ。

 普通に考えれば、高校生の心火を生んでいて姉もいるということなので、40代ぐらいなのだろう。
 しかし目の前にいるのは、20代後半にしか見えない。

 体つきや声色から母親らしさはあるのだが、この人を姉と間違えてもおかしくない。
 やっぱり海利がいてくれてよかった。

「心くんどうしたの、ボーとして」

 あなたに見とれていたとはとても言えない。

「あー、なんかこいつ今日寝不足でずっとこの調子なんです。だから気にしないでください」

 すかさず海利がフォローをしてくれた。
 俺、こいつがいなかったらとっくに正体がバレていたのでは?

「も~うダメじゃない」

 ゆったりとした喋り方をした心火の母親は、心配そうに俺に顔を近づけた。
 そして、俺の目の下の部分を両手の人差し指で軽く触れた。

 じょ、女性に触れられてしまった。
 真里菜と交際していた以来だったので、一気に心臓の鼓動が速くなった。

「そう言われればクマがひどいような」

 彼女は俺の顔をまじまじと見る。瞼の下を抑えられて目を閉じることができず、数秒間彼女と目が合いっぱなしになった。

 っくそ、これで人妻とか卑怯だろ!

「ちゃんと今日は寝るのよ」

「は、はい」

 俺の返事を聞いた母親は、ニコッと笑ってリビングに戻っていった。

「はぁ、はぁ」

 俺はここで、自分が息を止めていたことに気がつく。
 全身が硬直してしまっていたのだろうか。

「だ、大丈夫か?」

「ああ、まだやれる」

 俺は息を整え、邪念を消し去った。
 彼女は虎頭心火の母親なのだ。
 俺には息子として接しただけ、それだけだ。

 しかし母親でこれだと、姉妹のハードルが上がってしまう。
 持つのか、俺。
 これからここで、彼女たちと一緒に住むんだぞ?

「お、友達くんじゃん」

 今度は階段から女性の声がしてきた。
 軽快な口調だ。

「ちょっと華蓮かれんさん、海利ですって。何回か会ってるでしょ」

「いい男の名前しか覚えないから」

「きっついな~。ていうか、今日休みっすか?」

「そ、大学生は平日も休めるのだ~」

 サバサバと答える彼女に、俺はあまり胸が高まらなかった。
 もちろん、彼女も美人だった。
 髪色が茶色のセミロングで、どことなく母親に似ていた。彼女よりも少し目が鋭い感じだな。

 緊張しない理由は、彼女の喋り方と恰好だろう。
 おそらく心火の姉である彼女は、赤色のジャージを着こんでおり髪がボサボサだった。

 色気が凄かった母親を見たせいか、その落差で高揚はあまりしなかった。
 息もできるし。

 それと、海利はいい男だ。

「あ、心火おかえり~」

「ただいま~」

 そんな感じで軽く挨拶をして、彼女はリビングへ向かった。
 男がいるのに尻をボリボリと掻いており、品性のかけらもない感じだった。
 母親とは、中身がまるで違うな。

 まぁ、こんな感じの方が親しみやすくて俺としてはありがたい。

「彼女は華蓮さん。確か大学4年っていってたな。あ、尊と同じぐらいじゃねぇか?」

 家族に聞かれないよう、こっそりと海利は話してくれた。
 俺は3年なので1つ上だが、この世界に来てから会った人で1番歳が近かった。

「そうだな。話しやすそうな人でよかったよ」

 学校では当然だがほとんど年下としか接しない。
 そのせいか。
 彼女の大学生っぽい感じがどこか懐かしくて、親近感が湧いたのかもしれない。

「じゃあ、2階行くぞ。人の家を俺が案内するのも変な話だが」

「苦労かけます」

 俺は色々と世話をしてくれている海利に謝りながら、あとに続いて階段を上った。

 分かっている事 〈追加〉

 その⑪
 若くて優しく、さらに色気が凄すぎる母親がいる。

 その⑫
 ズボラそうで飾り気のない、虎頭華蓮という大学生の姉がいる。
 ちなみに彼女は、俺と歳が近い。
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