上 下
4 / 7

第4話 騎士の本領

しおりを挟む
「では、少し本気で行かせてもらうとしよう」

 エレガンはサファイズの柄同士を近づける。
 利き腕である右腕に握っていたサファイズの柄の先端には、穴が開いていた。
 その穴に、もう一方の柄を差し込んでいく。

 そしてネジを回すように少しだけ回転させると、そのまま合体して離れなくなった。

「あら、その剣にそんな使い方があったのね」

「これが、サファイズの真の姿だ」

 柄を中心に二方向に刀身が伸びている状態だった。
 双剣ということで、1つ1つは振りやすいように比較的小さめに作られるのが一般的だ。それはサファイズも一緒なのだが、このように合体して1つの長い剣としても使用することができるのだ。

「でもそれじゃあ、せっかくの双剣が台無しじゃない」

 デギナの言う通り、双剣の持ち味である手数の多さは消えることになる。
 だから、このような仕様の武器は基本的に誰も使わない。そのため、作られることもほとんどない。
 しかし、何故それがピース王国にあるのか。

 それは、長年仕えているライトアーム家の専用武器だからである。

「ふぅ……。武器造成 サファイズ!」

 そう言葉を発すると、サファイズがさらに輝き始める。
 1つになったサファイズから、魔力の光があふれ出し、空中に漂っていく。
 そしてそれは、ダボルの時に球体へとかたどられていくように、合体したサファイズと同じ形に集合していく。

 魔力の結集体が、光ではなく質量を持った物体に変化していく。
 その見た目は、エレガンが今まさに持っているサファイズと全く同じ形をしていた。

「これで問題はない」

 彼女は空中のサファイズの柄を左手で掴むと、さきほどの時のように両腕に剣を携えて構え直す。

 人間が使用できる魔法の1つ。造成魔法。コピーと呼ばれることもある。
 そして、指定した武器をそのままの形で増やすことができるのが、ライトアーム家の多くが使用できる武器造成魔法なのだ。

「行くぞ!」

 準備の整ったエレガンは、長き双刀を握りしめて魔人へと走っていく。
 近づいた瞬間に、目にもとまらぬ高速斬撃を相手に叩きこむ。

「っち」

 デギナの顔から初めて笑みが無くなった。
 何故なら、頬や腕にサファイズの切っ先が掠り始めたのだ。

 合体したことで剣のリーチが伸びたわけではない。剣の先に剣をくっつけたわけではないからだ。
 しかし、振り下ろす際に相手に当たる面積が単純に倍になるのだ。
 それが、右、左と連続して襲ってくる。
 魔人であり、魔王の部下であるデギナでなければとっくに八つ裂きにされているはずだ。

 相手にヒットする確率が増えたと同時にそれは、自分自身に当たってしまうという危険性も増える、ということだった。
 普通の剣ならば、剣先は上か敵の方向を向くはずだ。
 しかし、柄の後ろにも刀身が伸びているので、振り下ろせば後方にも攻撃が伸びてしまうのだ。
 それを戦闘中に何度も切りつけながらも、一切自分にかすりすらしないのは、エレガンの技量があってこそなせる業だ。

 ハイリスクハイリターン、というほど直接的なデメリットはないが、素人が使えば自分が怪我をするのは間違いないだろう。

 4刀の猛追に耐えきれなくなったデギナは、たまらずさらに後退する。しかし、そこは既に衣装室の扉の傍だった。
 つまり、逃げる場所はもうない。

「そのまま逃げてくれても構わないが、貴様は魔王軍の一員だ。今ここで、決着をつけてもいい」

 武器造成を使って追い詰めたことで、ティアラたちとデギナの距離はかなり開いていた。エレガンはこの戦いに勝とうとも負けようともしていなかった。
 守るべきものを守る。
 それが、彼女の使命なのだから。

「優勢になったつもり? 私はまだ、本気を出してないって言うのに!」

 不敵な笑みを常に浮かべていた彼女だが、今度は興奮した様子で牙を向けながら口角を上げている。

 デギナはまたしてもダボルを作り始めた。しかし、このダボルはすでに何度もエレガンによって対処されている。

 だから今度は、相手が対応できないほどの量で挑むことにしたのだ。

「ダボル・トゥエンティ―」

 20ものダークボールが、彼女の上空に生成され始めた。いや、おそらく数としてはもっと多かった。数字はある程度の基準。
 デギナは感覚で魔法を使っているタイプのようだ。

 魔法は頭でイメージして、それを元に魔力を使って、実際に何かが起こる。
 だから、言葉にすることで想像しやすくなる。
 が、たまに彼女のように言っている事とやっていることが合わない場合もある。それだけ、魔法というのは不安定要素のある物なのだ。
 それを具体的に正確に行うには、戦いながらでも止まることのない思考力が必要だ。

「ハチの巣になるといい!」

 デギナは片腕を上げてそれを振り下ろすと、一斉に完成したダボルたちは多方向からエレガンに向かっていく。

「私に数で挑むとは、愚策だな」

 エレガンは左柄に体をねじり始めた。造成したサファイズを持ちながら、左腕を後ろへと伸ばす。

 そしてそれを、勢いよく前方に投げた。

 彼女が投げたそれは、槍のように真っすぐ飛ぶのではなく、横向きで回転しながら飛んでいった。どうやら、投げる際にひねりを加えていたようだ。

「私の魔法は、物体の運動をそのまま再現する。
 武器造成 サファイズ・イグザクトリィ!」

 彼女が再び魔法を唱えた。
 すると、ブーメランのように回転しているサファイズが、さらに1個、2個、そしてきっかりダボルと同じ数まで増えたのだ。
 彼女が言ったように、回転した状態でだった。

 そしてそれは、見事なまでにダボルと相殺しあって、爆発を起こした。

「少し、脆くはなってしまうがな」

 本当のサファイズなら、ダボル程度では消えることはない。右腕に持っているサファイズの本体は、ダボルを切り裂いたにもかかわらず傷1つ付いていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能力剣聖~未知のウイルス感染後後遺症で異能に目覚めた現代社会、未感染だけど剣術一筋で生き抜いていきます~

甲賀流
ファンタジー
2030年、突如として日本に降りかかったアルファウイルス。 95%を上回る圧倒的な致死率で日本の人口を減らしていくが不幸中の幸い、ヒトからヒトへの感染は確認されていないらしい。 そんな謎のウイルス、これ以上の蔓延がないことで皆が安心して日常へと戻ろうとしている時、テレビでは緊急放送が流れた。 宙に浮く青年、手に宿す炎。 そして彼が語り出す。 「今テレビの前にいる僕はアルファウイルスにより認められた異能に目覚めた者、【異能者】です」 生まれた時から実家の箕原道場で武道を学んできた主人公、『箕原耀』。 異能者が世界を手に入れようする中、非異能者の耀はどうやって戦っていくのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...