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第47話

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「うっわ~。まじで女の子になってるじゃん」

 ゼマは投げ飛ばしたクリスタルロッドを回収済みで背中に納めている。パーティーリーダーの性別が変わってしまったことに、大いに驚きながらもどこか嬉しそうにしていた。

「……ゼマ」

 少女は短く呟いた。人見知りをしているのかは分からないが、少女はゼマと目を合わせようとはしなかった。少女の方はゼマを知っているのだが、ゼマは特に彼女についてララクから聞いたことはなかった。

 故に興味津々で少女と会話を始めようとする。

「ララクってこと? ん~、でも雰囲気全然違うし。
 けど、私の事は、知ってんだね」

 ゼマは【デュアルシフト】のことを何も知らない。これの持ち主であるクインクウィ&デュペルコンビが変身するところをまだ目にしていなかったからだ。

「その辺はあとでララクに聞いて。
 1つ言えるのは、あいつと私はあくまで別人ってこと」

 つんけんとした態度で少女は答える。早くこの場を切り上げようとしている。
 しかしそんなことはお構いなしで、ゼマは物理的にも精神的にも距離を詰めていく。

「へ~、別人ね~。
 いや~、でも可愛いな~。元々、ララクは可愛い系だったけどさ~」

 ゼマは初対面だというのに、少女の頬を優しく掴んだ。ララクとはまた違ったしっとりとした感触がたまらなかった。

「やめて。そういうの嫌だ」

 少女はムスッとした顔で、ゼマの手を払いのける。

「あ~ごめんごめん。見た目はどっか似てるけど、性格は全然違うね」

 ついいつもの癖でスキンシップを取ってしまったことを軽く反省する。
 ゼマはもう一度少女をまじまじと見つめる。

 背格好も似ているが、目つきが全然違った。ララクはまろやかな瞳をしているが、少女はかなり鋭い。

 喋り方も全然違った。ララクは同じ仲間だというのにゼマに敬語を使い続けている。ゼマは常に敬われている気がして嫌ではなかった。
 けれど、少女のようにタメ口で接してこられるのも、姉妹みたいで悪くないな、と感じている。

「私もう帰るから」

 少女はゼマが慣れないようで、再び【デュアルシフト】を発動しようとした。
 が、まだ喋り足りないゼマに、すかさず止められる。

「あ~、じゃあ一個だけ質問させてっ! 
 あんたさぁ、名前何て言うの?」

 ゼマは、少女がララクと別人だという事は何となく飲み込んだ。そうすると、様々な疑問が思い浮かんできてしまった。
 

「名前はないよ。いらないでしょ」

 普通は親に名付けて貰うのだが、彼女は【追放エナジー】を獲得した時点で生まれた特殊な存在。ララクは彼女の事を知っていたが、特に名前をつけていなかった。おそらく、彼女自身が特に拘ってはいないからだろう。

「いや、いるって。
 じゃあさ、名前今つけちゃいなよ」

「私が? 自分に?」

「そうそう。なーんでもいいんだよ。意味がなくたって、語感で決めちゃってもいいし」

 この国で名前を付ける場合、多くは呼びやすさや親しみやすさで選ぶ。なので、名前に複雑な由来があるわけではなかったりする。


「……どうでもいいけど。それじゃあ……クララ、でいいかな」

「……? っは、あんたそれ本気?」

 名前の案を聞いたゼマは、一瞬停止した後、笑いだした。
 なんて安直な名前なんだろうと、おかしくてしょうがなかった。

「うん、これでいい」

 少女クララは特にふざけているつもりはなかった。他に名前の候補が思い浮かばなかったのだろう。それぐらい執着していない。

「へ~、結構可愛いとこあるじゃん」

 なんのひねりもないその名前が、子供がつけたようなものに感じて、ゼマは少女に茶目っ気を感じていた。

「そんなことない」

 ムスッとした表情を崩さないクララ。そんな彼女は、これ以上ゼマと距離を詰めないように、ある決意を言葉にした。

「どうせ、もう呼ばないと思うけど。
 私、もうこっちに出てくるつもりはないし」


「?! どうして? まだフラッと出てくればいいじゃん」

 急にいたことを知った新たな仲間の存在に、ゼマは自分でも驚くほど高ぶっていた。そんなクララが、外の世界に感心がないことが理解できなかった。

「私とララクはレベルが同じだから、ある程度私も戦える。けど、通常だったら私を呼び出す必要ないもん。
 居合いだって、ララクも持ってるはず。
 そもそも、私を呼び出さなくちゃいけない状況にまでなるのが、大問題だから」

 クララはゼマに説明しているようで、内に潜むララクに提言しているかのようだった。彼女の言った通り、ララクは【居合い・神速斬撃】とその系譜のスキルも所持している。ララクが使用した方が、速度や威力が格段に高い。

「確かに、今日みたいなことはそうそうないと思うけど」

 ゼマは少女の発言に妙に納得してしまった。【ディスキル】というスキルは、これまでの冒険者人生で聞いたことも見たこともなかった。スキル図鑑にも載っているか怪しいほどの希少スキルだ。別の【ディスキル】使いに会うことは、ほぼないと言っていいだろう。あるとすれば、また魔人ハライノスが懲りずにやってくるかだ。

「そうでしょ。
 私を使うぐらいだったら、他のスキルを使いこなした方が今後のためだと思う。
 だから、ララクにメリットがない」

 特に自分を卑下しているわけではなかった。論理的に考えて、自分がララクに勝っている部分などほぼないと。
 ララクにはまだ使用したことのないスキルがいくつもある。そちらを優先して実践に導入することを推奨しているようだ。

 このような意見はゼマも理解できた。
 しかし、最後の言葉だけは、否定せざるを得なかった。

「そんなことない。
 少なくとも、私にはあるよ」

 ゼマはクララの身長に合わせて少し腰をかがませて顔を近づける。彼女の瞳を覗き込み、真剣な表情で彼女に気持ちを伝えた。

「っえ、ゼマにこそないでしょ」

「私はもっとクララと話したい。
 そして知りたい。だって私たち、仲間でしょ?」

「……なか、ま」

 万物同士は、紋章を使い契約をすることでパーティーを組める。ゼマはララクとしか契約はしなかったが、自動的にクララとも契約を結んでいる状態になっている。
 冒険者パーティー・ハンドレッドは、正確には2人ではなく3人だったのだ。

「旅路は長いからさ。たまには私と話そうよ。ララクと2人きりじゃさ、飽きちゃう」

 ララクにも聞かれている事は分かった上で冗談交じりにそう言った。

「……そう。なら、好きにすれば」

 クララは、喜怒哀楽どれでもないような感情で答えた。彼女は生まれて間もない。彼女はララクが【追放エナジー】を得てから誕生したので、まだ一年にも満たない。
 故に生に対して淡白な部分があった。
 だから、相手が望むのであれば、それに対応するだけ。といった事務的な答えなのかもしれない。

「おっし、よろしくね。クララ」

 ゼマは何かスキンシップを図りたかったが避けられそうだったので断念する。その変わり、とびっきりの笑顔で、少女にウィンクをする。

「……私、ゼマの事、苦手かも」

「いいんだよ。これからなんだから、私たちは」

 ゼマはクララが自分に苦手意識を持っていることは何となくわかっていた。だからこそ、彼女と仲良くなってみたい。と火がついてしまったようだ。
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