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第37話

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「ふぅ、やるぞ。気張れ、ボク」

 ララクは深く息を吐いた。そして、姿勢を低くすると、大樹林から飛び降りる。その際、少し前に飛んで、滑空するような態勢で落ちていく。

「おいシットニン、頼むぞ」

「へいへ~い」

 適当に返事をしたシットニンは、再び小型の闇を発射する【拘束する闇】を連続発動する。
 ララクが飛び立った先に背の高い木はなく、足場にするところはない。

 闇使いシットニンは、(なにか策はあるんだろう)と予想しながら、とりあえず攻撃魔法を発動した。

 それを見たララクは、ここである確信をする。

(やっぱり、広範囲攻撃をしてこない。
 つまり、あいつのスキルは、視認している相手にしか使えない)

 ララクは闇スキルをいくつか所持している。その中で一番メジャーなのが、広範囲に闇を展開する【自由を奪う闇】だ。触れただけで全体的な機動力が下がってしまうかなり厄介なスキル。
 この開けた場所で最適とも言えるスキルだが、シットニンはそれを発動しなかった。

 その理由は、ハライノスの【ディスキル】にあると考えたのだ。
 【ディスキル】は、対象を明確に視認しつつ、ある程度封印するスキルの事を知らなければならない。

 空中から飛び降りたララクの元に、【拘束する闇】が次々と迫り来る。

「っふ、っと……」

 ララクはその闇を、ふわりと体を半回転しながら見事に避けていく。体が空に放り出されているとは思えない動きだった。

 そこで、ハライノスは違和感の正体に気が付く。

「あいつ!【ディスキル】!」

 魔人ハライノスは即座に封印スキルをララクへと使用した。ララクが使用したスキルを正確には分からなかったが、それでも【ディスキル】発動条件は満たしていた。

「きたな」

 ララクは計算通りだ、と眉を細める。
 彼の体はさっきよりも勢いよく地面に向かって落下していく。

 ララクに抱えられていたスキルは【空中浮遊】。これにより、空中にいながら闇を的確に避けることが可能だったのだ。

「これで避けられないだろっ!」

 大きくニヤつくハライノス。彼はこれで、シットニンの放った闇がララクに炸裂すると踏んだのだ。自分が発動した攻撃ではないが、まるで自らのスキルのような発言をしていた。

「【伸縮自在】っ!」

 ララクは自分の体が重力に引っ張られる感覚を取り戻すと、すぐに次の手を打つ。それは、ゼマのクリスタルロッドに付与もされているスキルだった。武器だけではなく、生物も対象にとって使用することが出来る。

 体を自由に変化させることが出来るようになったララクは、右腕を前方に伸ばす。そしてその手で、ハライノスたちにかなり近い樹木を掴んだ。
 そして【伸縮自在】を解除すると、その掴んだ木の方へとするすると移動していく。
「あらま。【拘束する闇】」

 闇使いシットニンは、追加で闇スキルを発動した。狙うはもちろん、木を掴んでいるララクの右手だ。これが当たれば、一定時間、その手を動かすことは困難になる。

「っふ、っと」

 闇使いが瞬時に動くことを、ララクは予想していた。やる気がなさそうで、しっかりと仕事はこなす。そんなシットニンの冒険者としての腕を見込んでいたのだ。

 ララクは右腕を後ろへと強く引っ張り、せっかく掴んだ樹木から手を放してしまう。その間にララクの腕の長さは元に戻る。それだけではなく、なんの支えもなくなったので、再び空中へ放り出されている状態となった。

 だが、ここからが正念場だった。

「【シールドクリエイト】」

 ララクはこのタイミングで盾を作り出した。この瞬間にも、シットニンの闇がいくつか狙いに来ている。が、ここで防御しても、攻撃がヒットする前に彼の体は落下する。標高はかなり高いので、うまく着地しなければ大ダメージを受ける危険性がある。

 なので、彼がこの盾を作り出した理由は、守りのためじゃなかった。
 その証拠に、生成した盾は、ただ盾の形をした木造の粗悪品だった。
 そしてその盾を出現させた位置は、手元ではなく、自分の足元だった。

「【ハイジャンプ】!」

 そしてさらに、新たなスキルを発動する。か細い少年の脚に魔力が集まり、跳躍力を底上げしていく。
 その脚を使い、【シールドクリエイト】で作り出した木の盾を強く蹴りとばす。彼がこれを作り出した目的は、足場にするためだったのだ。

 ララクはハライノスに向かって、垂直に跳んでいく。【ジャンプアップ】+【ハイジャンプ】の2つの跳躍力関連のスキルによって、一時的に元の力以上の出力を出していた。

 風を味方につけながら、真っ向からハライノスに向かって飛来する。
 ここで追い打ちをかけるように、追加で攻撃スキルを発動していく。

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