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第36話

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 ゼマとララクが分かれてから、数分後の事。

 ララクは視界に、2人の冒険者を入れている。
 魔人ハライノスと、その仲間の闇使いシットニン。

 ララクは徐々にだが体の動かし方に慣れていき、枝移りの速度も上がっていた。いつでも近づけるのだが、そう簡単な話ではなかった。

 まず、ハライノスに攻撃を仕掛けようとした瞬間、また【ディスキル】を発動されるだろう。そうなると、スキル攻撃が中断され、無防備になる。

 それでも、ララクはやりようはあると考えていた。
 ララクの持つアクションスキルは膨大だ。それら全てを封印することは、魔人ハライノスの魔力では不可能だと考えていた。

 機会を伺い作戦を実行しようと、虎視眈々と狙っているのだが、問題はもう1人の敵、シットニンのほうだった。

「【絡みつく闇】多連」

 闇使いシットニンは、闇系統のスキルを発動していく。
 こちらは、彼が使用していた【自由を奪う闇】の類似スキルだ。【自由を奪う闇】が全体的な俊敏性を奪うのに対し、【絡みつく闇】は部位に纏わりつき、ほとんど動けなくさせてしまう。
 その分、闇の規模は小さく、当てるのは難しい。

 が、いくつも出してしまえばその問題も解決できる。

 10個以上の小型の闇が、ララクに襲い掛かる。
 闇使いシットニンは、多方から闇を送りつけており、回避するにはしっかりと全ての闇の配置を意識しなければならない。

「っく、っう!」

 ララクは、足場の狭い枝の上でいくつか避けて、その後別の樹木に飛び移る。身体能力が著しく低下しているので、木から木へと移動するだけでも、それなりに体力を消耗する。

(闇系統か。最悪の組み合わせだ)

 この場において、一番喰らいたくない弱体化効果のある闇スキル。現在、大幅に戦力ダウンしているため、これ以上動きが鈍くなることは許されない。

 ララクは【ディスキル】を使うハライノスだけではなく、闇使いのシットニンに対する警戒度も高めていた。

(どうする……。魔法で対抗する手もあるけど、今それは……)

 闇スキルはララクも所持している。同じスキルで相殺するのもありだし、炎などで圧倒するのもありだ。
 しかし、それをした瞬間、ハライノスに【ディスキル】させて無駄に魔力を消費するだけだ。

「なぁ、分かっただろ。お前は俺たちに近づくことさえできない。
 仲間になっちゃえよ、意外と楽しいと思うぜ」

「言っただろ、誘いにはのらない。
 今すぐ、力を取り戻してみせる」

 ララクはハライノスの言葉には耳を貸さず、木の上で屈伸をしはじめる。
 どうやら攻撃を仕掛けるつもりのようだ。

「【スピードアップ】!」

 ララクはスキル発動と同時に飛び上がった。移動する先は、斜め前にある木の上だ。正面からでは闇があって近づけないため、少し大回りするつもりのようだ。
 スキルによって速度が強化されているので、いつも以上とは言えないがキレを取り戻してきている。

「へ~、強化スキルか。おもろいじゃん。【ディスキル】!」

 魔人ハライノスがスキルを消滅させるため、ララクに魔法をかける。
 ララクはさらに前へ進んでいたが、そのタイミングで【スピードアップ】の効果が消失した。

「ふぅ、だいぶ近づいたな」

 これはララクの思惑通りだ。ハライノスもそれを分かってスキルを発動した節があった。
 身体能力を強化するスキルは、他のスキルよりも魔力消費が少ない。無から生み出す魔法よりも、肉体を主軸にしているため、燃費が良いのだ。

【ディスキル】はほぼノータイムで発動するが、効果が発動するまで多少のラグはある。
 その間に出来るだけ飛距離を稼ごうとしていたのだ。

 そしてララクは【スピードアップ】が消えた瞬間、すぐに別のスキルを発動する。移動能力を強化するスキルはまだあるのだ。

「【ジャンプアップ】!」

 今度は跳躍力を高めるスキルを発動した。

 彼はその場でしっかりと踏みしめると、大きく息を吸い込む。瞬間、彼は力強く枝を蹴り、宙に舞い上がる。風が彼の髪を後ろになびかせ、大ジャンプの瞬間、彼の身体は風を纏って躍動していた。

 ララクの視線の先には、ひと際背の高い大樹林だった。
 彼がトップスピードで跳び上がっている時に、それを見ていたハライノスはニタニタと笑っていた。

「これはいいか、やんなくて」

 ハライノスは【ディスキル】を発動しなかった。それは、ララクの目的が大樹林に移動して高度をあげることだと考えたからだ。
 それならば、今跳躍力を下げたとしても、意味がないからだ。すでにララクは重力に逆らって、樹林へと移動を成功させていた。

「それなりに頭は回るんだ。あんな馬鹿な誘いするわりには」

 ララクは、ハライノスからかなり離れた位置に来ていた。そのため、ララクの罵倒は特に聞こえていなかった。
 が、なんとなく煽られていることはハライノスには伝わった。

「結局距離離れてんぞ~」

 ハライノスは両手で口周りを囲んで、上にいるララクに聞こえるように大声を出す。マップなどで見た位置取りでは、ハライノスたちとララクはかなり近い場所にいる。
 が、距離で言うとそこまで進展はしていなかった。その分、高度の差はかなり出ている。

 あとはララクのいる場所はかなり見晴らしがよかった。大樹林の周りは少し開けており、そこからだとハライノスとシットニンの姿がよく見える。

「彼、なにか仕掛けてくるんじゃない?」

 闇使いシットニンは、一応パーティーメンバーであるハライノスに助言をする。彼からすると、この戦いはララクに勝って欲しいと考えてもおかしくない。
 けれど、現在は闇スキルをいくつか封印されている。なので、ハライノスの味方をしている。

「わかってるよ、そんぐらい。
 逃げてもいいけど、ちょっと見ものだな。この状況、あいつがどう動くか」

 自分の勧誘を蹴ったのは癪だが、ハライノスはララクに興味津々だった。大樹林までの移動の際、彼はスキルを一度限りの消耗品として捉えて使用していた。
 これは、すでに【ディスキル】に適応した動きだ。多数のスキルを持つ彼にしかできない戦法でもある。
 ハライノスは知りたかった。
 動きを制限された者が、どう戦うのか。
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