上 下
6 / 7

第6話

しおりを挟む
 ここは、海に近く海産物が美味しいことで国内の人間には有名な村である。
 かなり首都から離れていて、田舎の村なのだが、ここには適度に観光客などの来客がある。
 その理由は、ここが国境近くだからである。

 近くにある大橋を渡ることで、海の上に作られた隣国へと行くことが出来る。それで、旅の休憩などに利用されることが多く、宿屋などが特に発展している。
 旅の休憩などに利用されることが多く、宿屋などが特に発展している。

 しかし、それに合わせてモンスターに関する悩みも増える。例えば、橋近くにモンスターが住み着いてしまった、など。
 なので、それらを解決するギルドも、地方ながら立派な建物だった。

 ララクとゼマは、村に帰ってくるとさっそくギルドに入って、クエストの成功報告をしていた。トライディアの死体は、解体班にすでに受け渡し済みである。

 ギルドはレトロな木造の内装で、軽く食事もできるので、テーブルがいくつか置いてある。酒場のようになっており、冒険者以外にも訪れるので、旅の者と異文化交流が出来る場所にもなっている。

 現在は昼過ぎということもあって、他に人はいなかった。

 ララクとゼマは、受付兼ギルドマスターの中年の女性と話し込んでいた。

「それじゃあ、解体した肉で料理を振舞うよ。それで、せっかくだから他の村人たちにも食べさせてあげたいんだけどいいかい?」

 話はさっそく、トライディアの肉をどうするか、という内容に入っていた。ゼマが開口一番、その話題を切りこんだからである。

「ぜーんぜんいいよ。ぱーとみんなで飲もうよ」

 ゼマは両手を広げた。彼女は食べることも好きだが、どちらかというと酒を飲むのが好きなのである。トライディアの肉は酒が進みそうだと、倒した段階から考えていたのである。

「ありがとう。それじゃあ、ここで村人集めて鹿肉パーティーだね。ちょっと準備に時間がかかりそうだから、ゆっくりしていって。
 これ報酬金」

 大量の金銭が入った布袋を、ギルドマスターの女性はカウンターに置いた。これで心行くまで、休んでいって、ということだろう。

「こんなに……。ありがとうございます」

 相場より高い気がしたが、ララクはご厚意だと素直に受け取った。その分、この村に落としてあげればいいと思ったのだ。
 それに、旅の中継地ということで、羽振りがいいのだろう、とも感じていた。

「いいのいいの。あそこはさ、外国の人もよく行く場所でさ、この村の売りの1つなのよ。ほんと、こんな一瞬で解決してくれるなんて、思ってもみなかった」

 今回のトライディアに要した時間は、実は2時間にも満たない。村の近くが指定地だったということ、モンスター側から姿を現しバトルが長引かなかったこと、そして帰り道が一瞬だったこと、などが時短に繋がったのである。
 トライディアにはここ一週間ほど悩まされていたようで、ギルドマスターは大いに感謝しているのだ。
 依頼人の釣りが大好きドンジも、感激することだろう。

「そうだったんですね。早急に解決できて良かったです。
 それじゃあ、ボクたちは宿屋で休んでいます。
 鹿肉パーティー、楽しみです」

 ララクは丁寧に喋った後、ニコッと笑いかけた。
 それがギルドマスターのハートをわしづかみにした。
 男性として、ではなく子供、いやペットを愛でる感覚に近いだろうか。見た目と戦闘力のギャップ、そしてそこにさらに礼儀正しさが追加されるので、ギルドマスターには魅力的に感じたのだろう。

 冒険者パーティー ハンドレッドの2人は、報告を終えたのでギルドを後にしようとした。
 そんな時、ギルドの出入り口の扉の奥から、話し声が聞こえてきた。

 ララクはまず来客を入れてから帰ろうと、少し離れた場所で立ち止まる。

 そして扉が開かれると、そこから5人構成の冒険者パーティーがやってきた。

 その5人を見て、ゼマはなんのリアクションもしなかった。仕事にやってきたか、移動中の冒険者だろうと軽く予想してそれで終わった。

 しかし、ララクは違った。
 そのメンバーを見て、背筋をパンと張らせて、マルッとした目をさらに見開いた。

「皆さん、お久しぶりです」

 ララクは驚きながらも、すぐに挨拶の言葉を述べた。

 彼の目の前にいたのは、かつて自分が所属して戦力外通告という追放を受けたパーティー、「風心雷心」だったのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...