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第4話
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ララクは浮遊が可能になったその体で、トライディアへと一直線に向かっていく。その手に握られた刀「斬首丸」を使い、トライディアに斬りかかる。
「キュロロロォォン」
トライディアは最初、強靭なその角で刀を受けようと、野太い首を少しだけ前に突き出した。しかしモンスターの本能が、それは危険な行為だとすぐに知らせた。化け物鹿はそれに素直に従い、真横にステップしてそれを避け切ってみせる。
「さすが、見事な足さばき」
ララクは回避されることは分かっていた。トライディアが足をついている場所は、ゴツゴツとした岩場。隣り合う岩石全てが形も大きさも違う、動きづらい場所だ。
しかし、トライディアは蹄で地面を見なくとも、正確にこの場を把握している。なので、足元が不安定だとしても、何の問題もないのだ。
「だったら、【アイシクルスラッシュ】!」
ララクは次の一手を早々に繰り出す。彼の持つ刀に、冷気が帯び始める。水色の半透明なオーラが纏わりつき、少しだけ刀身が凍りだしていた。
これは剣などの斬撃武器で発動することのできるアクションスキルの1つである。
ララク以外の冒険者だと、かつての仲間「氷刃のシェントルマ」が愛用するスキルである。
その凍てつく刃で狙うのは、鹿の首ではなく、魅惑のステップを披露する脚だった。ララクはこの脚さえ凍らせてしまえば、勝利へと一瞬で辿り着くと考えていた。【アイシクルスラッシュ】は、触れた物を一定時間、凍結させる能力がある。もし避けられても、かすりさえすれば、そこから毒が伝染するように、氷が広がっていく。
「ギャロォォォォ」
甲高くも勇ましい雄たけびをあげたトライディアは、刀に狙われた両の前足を勢いよく頭上の高さまで一気に上げる。
これにより【アイシクルスラッシュ】を放った刀は空振り、岩ころだらけの足場を斬りつける。すると、その周辺に冷気が広がっていき、その表面が凍り始める。
トライディアが両足を振り上げたのは、攻撃を逃れるためだけではない。上体を反り上げて前足をララクの頭よりも上まで移動させている。
空中に漂っているララクの前にトライディアの巨体が覆いかぶさるような形となり、天からの光をほとんどシャットアウトしていた。
黒い影に飲まれたララクに、その両の前足が押し寄せてくる。トライディアが全体重を乗せて、ララクを押しつぶそうとしてきたのだ。
体の小さなララクが、これをまともに受ければとてつもない衝撃とダメージを受けることになるだろう。
しかし、彼の目は、恐怖におびえてなどいなかった。すでにトライディアは、ララクの勝ち筋に乗ってしまったのだから。
「っふ!」
ララクは素早い動きで、左手に装備したホーリーシールドを自分の頭の上へと持ってくる。するとジャストタイミングで、トライディアの蹄が盾にのしかかってくる。
「くぅぅうううっ!」
ララクは苦悶の表情でトライディアの攻撃を受けた。盾で防御しているとはいえ、威力が凄まじく彼の体まで揺らしていく。
浮遊状態の体をなんとか維持しながら、トライディアののしかかり攻撃を盾で受けきっていく。
「キュロォォォオォオ」
トライディアは手応えを感じているようで、さらに前足に力を入れる。このまま押しつぶせる、と考えたのだ。
だが、ララクはすでに対策札を握っていた。
「【シールドバッシュ】!」
このスキルは、盾を装備している状態のみ使用することのできるスキルだ。
スキル名【シールドバッシュ】
効果……盾を強化し、相手を殴りつける。防御状態の場合、相手の攻撃力を一部吸収して攻撃する。
攻撃方法としてはいたってシンプルだ。盾を使って対象を弾き飛ばす。今回大事なのは、攻撃を吸収するという部分だ。
スキルは魔力を消費して発動するので、一見するとただの物理攻撃だとしても、魔法がかかっていることがある。
今回ララクが放った【シールドバッシュ】がそうだ。トライディアの猛攻を耐えきり、その威力の一部を魔法によって吸い取る。
その過程を経たうえで放たれた盾による捌き攻撃。それは、相手の攻撃が優れていればいるほど効果を発揮する。
ララクが盾を勢いよく前へと突き出すと、一瞬まばゆい光がはじけ飛んだ。これは消費した魔力の残像のようなものだ。
すると、トライディアの体は絵に描いたように、後ろへと押し出されていく。
「キャ、キャラォォォ!?」
盾にはじかれたことにより、トライディアの前足は再び上空へと投げ出される。が、今回は自分の意思ではなく、強制的にそうさせられた。
体勢が定まらず、それを後ろ脚2本で支えなければいけない。だが、ここは足場の悪い岩場。何度も脚を動かしてバランスをとろうとするが、思うように蹄が地面に接地してくれない。
そうしているうちに、トライディアは何歩か前に進んでしまった。
上体を起こしているトライディアには下の様子がはっきりと分からなかったのである。
大鹿が踏み入ってしまった場所は、先ほどのララクの冷気攻撃【アイシクルスラッシュ】によって凍った岩々だったのだ。
「キュ、キュロロロオス!?」
驚きに溢れた声をあげるトライディア。さすがの大鹿でも、氷上では上手く立つことはできなかった。
凍った岩に足を滑らせ、すってんころりんと、トライディアの勇猛な大塊が傾き始める。
姿勢を制御しきれなくなった大鹿の体は、その荘厳な角を下に向けて、岩場から崩れ落ちていく。
頭がかなり重たいので、自然な動きで鹿の大頭が下降していく。
するとそこにいるのは、刀をすでに構えているララクだった。
その瞬間、大鹿は獲物になり、ララクは狩人となった。両者の視線が火花を散らすように合った。しかし言葉を交わすことなどなかった。
ララクの持つ刀「斬首丸」によって、勇ましい胴体から3本角を生やした頭部が切り離されたからだった。
「【ライトニングスラッシュ】」
冷気ではなく雷を帯びた刃で、トライディアの首元を切断した。
「キュロロロォォン」
トライディアは最初、強靭なその角で刀を受けようと、野太い首を少しだけ前に突き出した。しかしモンスターの本能が、それは危険な行為だとすぐに知らせた。化け物鹿はそれに素直に従い、真横にステップしてそれを避け切ってみせる。
「さすが、見事な足さばき」
ララクは回避されることは分かっていた。トライディアが足をついている場所は、ゴツゴツとした岩場。隣り合う岩石全てが形も大きさも違う、動きづらい場所だ。
しかし、トライディアは蹄で地面を見なくとも、正確にこの場を把握している。なので、足元が不安定だとしても、何の問題もないのだ。
「だったら、【アイシクルスラッシュ】!」
ララクは次の一手を早々に繰り出す。彼の持つ刀に、冷気が帯び始める。水色の半透明なオーラが纏わりつき、少しだけ刀身が凍りだしていた。
これは剣などの斬撃武器で発動することのできるアクションスキルの1つである。
ララク以外の冒険者だと、かつての仲間「氷刃のシェントルマ」が愛用するスキルである。
その凍てつく刃で狙うのは、鹿の首ではなく、魅惑のステップを披露する脚だった。ララクはこの脚さえ凍らせてしまえば、勝利へと一瞬で辿り着くと考えていた。【アイシクルスラッシュ】は、触れた物を一定時間、凍結させる能力がある。もし避けられても、かすりさえすれば、そこから毒が伝染するように、氷が広がっていく。
「ギャロォォォォ」
甲高くも勇ましい雄たけびをあげたトライディアは、刀に狙われた両の前足を勢いよく頭上の高さまで一気に上げる。
これにより【アイシクルスラッシュ】を放った刀は空振り、岩ころだらけの足場を斬りつける。すると、その周辺に冷気が広がっていき、その表面が凍り始める。
トライディアが両足を振り上げたのは、攻撃を逃れるためだけではない。上体を反り上げて前足をララクの頭よりも上まで移動させている。
空中に漂っているララクの前にトライディアの巨体が覆いかぶさるような形となり、天からの光をほとんどシャットアウトしていた。
黒い影に飲まれたララクに、その両の前足が押し寄せてくる。トライディアが全体重を乗せて、ララクを押しつぶそうとしてきたのだ。
体の小さなララクが、これをまともに受ければとてつもない衝撃とダメージを受けることになるだろう。
しかし、彼の目は、恐怖におびえてなどいなかった。すでにトライディアは、ララクの勝ち筋に乗ってしまったのだから。
「っふ!」
ララクは素早い動きで、左手に装備したホーリーシールドを自分の頭の上へと持ってくる。するとジャストタイミングで、トライディアの蹄が盾にのしかかってくる。
「くぅぅうううっ!」
ララクは苦悶の表情でトライディアの攻撃を受けた。盾で防御しているとはいえ、威力が凄まじく彼の体まで揺らしていく。
浮遊状態の体をなんとか維持しながら、トライディアののしかかり攻撃を盾で受けきっていく。
「キュロォォォオォオ」
トライディアは手応えを感じているようで、さらに前足に力を入れる。このまま押しつぶせる、と考えたのだ。
だが、ララクはすでに対策札を握っていた。
「【シールドバッシュ】!」
このスキルは、盾を装備している状態のみ使用することのできるスキルだ。
スキル名【シールドバッシュ】
効果……盾を強化し、相手を殴りつける。防御状態の場合、相手の攻撃力を一部吸収して攻撃する。
攻撃方法としてはいたってシンプルだ。盾を使って対象を弾き飛ばす。今回大事なのは、攻撃を吸収するという部分だ。
スキルは魔力を消費して発動するので、一見するとただの物理攻撃だとしても、魔法がかかっていることがある。
今回ララクが放った【シールドバッシュ】がそうだ。トライディアの猛攻を耐えきり、その威力の一部を魔法によって吸い取る。
その過程を経たうえで放たれた盾による捌き攻撃。それは、相手の攻撃が優れていればいるほど効果を発揮する。
ララクが盾を勢いよく前へと突き出すと、一瞬まばゆい光がはじけ飛んだ。これは消費した魔力の残像のようなものだ。
すると、トライディアの体は絵に描いたように、後ろへと押し出されていく。
「キャ、キャラォォォ!?」
盾にはじかれたことにより、トライディアの前足は再び上空へと投げ出される。が、今回は自分の意思ではなく、強制的にそうさせられた。
体勢が定まらず、それを後ろ脚2本で支えなければいけない。だが、ここは足場の悪い岩場。何度も脚を動かしてバランスをとろうとするが、思うように蹄が地面に接地してくれない。
そうしているうちに、トライディアは何歩か前に進んでしまった。
上体を起こしているトライディアには下の様子がはっきりと分からなかったのである。
大鹿が踏み入ってしまった場所は、先ほどのララクの冷気攻撃【アイシクルスラッシュ】によって凍った岩々だったのだ。
「キュ、キュロロロオス!?」
驚きに溢れた声をあげるトライディア。さすがの大鹿でも、氷上では上手く立つことはできなかった。
凍った岩に足を滑らせ、すってんころりんと、トライディアの勇猛な大塊が傾き始める。
姿勢を制御しきれなくなった大鹿の体は、その荘厳な角を下に向けて、岩場から崩れ落ちていく。
頭がかなり重たいので、自然な動きで鹿の大頭が下降していく。
するとそこにいるのは、刀をすでに構えているララクだった。
その瞬間、大鹿は獲物になり、ララクは狩人となった。両者の視線が火花を散らすように合った。しかし言葉を交わすことなどなかった。
ララクの持つ刀「斬首丸」によって、勇ましい胴体から3本角を生やした頭部が切り離されたからだった。
「【ライトニングスラッシュ】」
冷気ではなく雷を帯びた刃で、トライディアの首元を切断した。
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