3 / 54
第3話
しおりを挟む
彼女は愛用の武器、クリスタルロッドを抜き、姿勢を低くし構え始める。
普通は、この距離から攻撃しても、崖の上にいる大鹿に攻撃は当てられない。
が、彼女の持つこのロッドには、スキルという魔法がかけられている。
その効果は、ゼマの攻撃を見ればすぐに分かる。
「ふぅぅ、はいっ!」
息を素早く吐き出したゼマは、その場でロッドを前方に突き出した。すると水晶で出来たロッドが、さらに眩く発光し始める。
輝いたそれは、元の長さを逸脱して、前に向かって伸び始めていく。真っすぐ突き進んでいくと、標的のトライディアにすぐさま到達していく。
これが彼女の武器に付与されたスキル【伸縮自在】だ。効果はシンプルで、魔力を使用することで、その分だけ対象のものを伸び縮みさせることが出来る。
離れた距離からでも攻撃できる便利なスキルだが、必ずしもそれが相手に当たるとは限らない。
「キャロォォ!」
トライディアは、ロッドの動きを完全に読み切っており、野太い首を少しずらして避けてみせた。無駄がなく、最小限の動きでゼマの攻撃を回避したのだ。
「っく、やるじゃん。でも、まだ私の攻撃は終わってない!」
避けられるとは思っていなかった。そんな前提で、彼女は攻撃を仕掛けない。が、それで肩を落とすことはなく、すぐに次の行動へと移行する。
両手でロッドを強く握りしめ、腰を起点として右へと振り払う。
ロッドの先はトライディアの首横にあるので、これは直撃すると踏んだのだ。
が、この風格さえ感じるトライディアは、すでにその先を言っていた。
ゼマが体をひねるのを確認すると、すぐさま岩場を蹄で蹴っ飛ばして、上空へと飛び上がったのだ。
大鹿の体はかなり大きいので、それを計算してか、早めに動き出したのだ。
そのタイミングは完璧で、トライディアがジャンプをしたあとに、ゼマの薙ぎ払い攻撃が開始した。なので、クリスタルロッドは、トライディアの足下を通り過ぎる事になった。
「くっそ、意表ついたと思ったんだけどなぁ」
クリスタルロッドが伸びることを、トライディアはもちろん事前に知らなかったはずだ。それなのに完璧に回避してみせたのは、類いまれなる動体視力と冷静な判断力、そして何より卓越した肉体と跳躍力が成せる技だろう。
「キャロロォォ」
再び岩場に脚をつけたトライディアは、まるで焦った様子がなく、低めの声を鳴らしてきた。
これを見てゼマは、(これじゃあ、漁師が歯が立たないわけだ)と納得をしていた。彼女は自分をそれなりに実力のある冒険者だと自負している。故に、そんな自分の攻撃をいとも簡単に避け切ったこのモンスターの事を、高く評価していた。
「どうやら近づかないと、攻撃を当てるのは難しいようですね」
ララクもまた、冷静に状況を分析していた。遠距離攻撃では、相手に避ける隙を与えてしまう。接近しなければ、有効打にならないと予想したのだ。
「ゼマさん、ここはボクに任せてください」
ララクは自信に満ち溢れた表情で、仲間のゼマと目を合わせる。彼には、すでに勝利の算段がついているようだ。
「おっけー。全力でやってこい」
ゼマはクリスタルロッドを収めると、両手を腰に当てて、ララクを応援する。自分の出番がないと少し拗ねている面もあった。
「はい! それじゃあ、まずは【ウェポンクリエイト・ハード】【シールドクリエイト・ハード】」
ララクはスキルを発動する。前者は好きな武器を作り、後者は好きな盾を作り出す。といっても条件はあり、基本的にララクが見た物しか作れず、優れた性能を持つ物の場合は生成するための消費魔力が跳ね上がる。
どちらのスキルも、数年前にはララクが持ち得なかった力である。
ララクの体内に内蔵される魔力が消費され、まず左手に鉱物と獣の皮で作られた盾が出現する。鉱物の表面は滑らかで涼やかであり、触れるとその冷たさが手に心地よく広がる。
そして、盾の中央には雄大な獣の毛皮が取り付けられており、その毛皮は獰猛な獣の力強さを思わせる。その皮は深い茶色で、金色の縁取りが美しさを引き立てている。
盾の名はホーリーシールド。
そして、右手に出現したのは、本来は両手持ちの刀身が長い刀だった。精練された鋼鉄で作られ、その美しい刃文はまるで星座が宇宙の闇に浮かび上がるかのように、闇を切り裂いて光を差し込んでいるかのように見えた。
刀の名は、斬首丸。
武器を作り出し準備が整うと、ララクはその場で飛び上がった。トライディアはかなり上方にいるので、これぐらいでは近づくことは出来ない。
なので、ララク新たに、移動に役立つスキルを発動する。
「【空中浮遊】」
飛び上がったララクの体は、普通なら重力によって地上に戻される。が、スキルの効果によって、彼はある程度の重力を無視することが可能。つまり、自由に空を駆け巡ることが、一時的に可能になったのである。
普通は、この距離から攻撃しても、崖の上にいる大鹿に攻撃は当てられない。
が、彼女の持つこのロッドには、スキルという魔法がかけられている。
その効果は、ゼマの攻撃を見ればすぐに分かる。
「ふぅぅ、はいっ!」
息を素早く吐き出したゼマは、その場でロッドを前方に突き出した。すると水晶で出来たロッドが、さらに眩く発光し始める。
輝いたそれは、元の長さを逸脱して、前に向かって伸び始めていく。真っすぐ突き進んでいくと、標的のトライディアにすぐさま到達していく。
これが彼女の武器に付与されたスキル【伸縮自在】だ。効果はシンプルで、魔力を使用することで、その分だけ対象のものを伸び縮みさせることが出来る。
離れた距離からでも攻撃できる便利なスキルだが、必ずしもそれが相手に当たるとは限らない。
「キャロォォ!」
トライディアは、ロッドの動きを完全に読み切っており、野太い首を少しずらして避けてみせた。無駄がなく、最小限の動きでゼマの攻撃を回避したのだ。
「っく、やるじゃん。でも、まだ私の攻撃は終わってない!」
避けられるとは思っていなかった。そんな前提で、彼女は攻撃を仕掛けない。が、それで肩を落とすことはなく、すぐに次の行動へと移行する。
両手でロッドを強く握りしめ、腰を起点として右へと振り払う。
ロッドの先はトライディアの首横にあるので、これは直撃すると踏んだのだ。
が、この風格さえ感じるトライディアは、すでにその先を言っていた。
ゼマが体をひねるのを確認すると、すぐさま岩場を蹄で蹴っ飛ばして、上空へと飛び上がったのだ。
大鹿の体はかなり大きいので、それを計算してか、早めに動き出したのだ。
そのタイミングは完璧で、トライディアがジャンプをしたあとに、ゼマの薙ぎ払い攻撃が開始した。なので、クリスタルロッドは、トライディアの足下を通り過ぎる事になった。
「くっそ、意表ついたと思ったんだけどなぁ」
クリスタルロッドが伸びることを、トライディアはもちろん事前に知らなかったはずだ。それなのに完璧に回避してみせたのは、類いまれなる動体視力と冷静な判断力、そして何より卓越した肉体と跳躍力が成せる技だろう。
「キャロロォォ」
再び岩場に脚をつけたトライディアは、まるで焦った様子がなく、低めの声を鳴らしてきた。
これを見てゼマは、(これじゃあ、漁師が歯が立たないわけだ)と納得をしていた。彼女は自分をそれなりに実力のある冒険者だと自負している。故に、そんな自分の攻撃をいとも簡単に避け切ったこのモンスターの事を、高く評価していた。
「どうやら近づかないと、攻撃を当てるのは難しいようですね」
ララクもまた、冷静に状況を分析していた。遠距離攻撃では、相手に避ける隙を与えてしまう。接近しなければ、有効打にならないと予想したのだ。
「ゼマさん、ここはボクに任せてください」
ララクは自信に満ち溢れた表情で、仲間のゼマと目を合わせる。彼には、すでに勝利の算段がついているようだ。
「おっけー。全力でやってこい」
ゼマはクリスタルロッドを収めると、両手を腰に当てて、ララクを応援する。自分の出番がないと少し拗ねている面もあった。
「はい! それじゃあ、まずは【ウェポンクリエイト・ハード】【シールドクリエイト・ハード】」
ララクはスキルを発動する。前者は好きな武器を作り、後者は好きな盾を作り出す。といっても条件はあり、基本的にララクが見た物しか作れず、優れた性能を持つ物の場合は生成するための消費魔力が跳ね上がる。
どちらのスキルも、数年前にはララクが持ち得なかった力である。
ララクの体内に内蔵される魔力が消費され、まず左手に鉱物と獣の皮で作られた盾が出現する。鉱物の表面は滑らかで涼やかであり、触れるとその冷たさが手に心地よく広がる。
そして、盾の中央には雄大な獣の毛皮が取り付けられており、その毛皮は獰猛な獣の力強さを思わせる。その皮は深い茶色で、金色の縁取りが美しさを引き立てている。
盾の名はホーリーシールド。
そして、右手に出現したのは、本来は両手持ちの刀身が長い刀だった。精練された鋼鉄で作られ、その美しい刃文はまるで星座が宇宙の闇に浮かび上がるかのように、闇を切り裂いて光を差し込んでいるかのように見えた。
刀の名は、斬首丸。
武器を作り出し準備が整うと、ララクはその場で飛び上がった。トライディアはかなり上方にいるので、これぐらいでは近づくことは出来ない。
なので、ララク新たに、移動に役立つスキルを発動する。
「【空中浮遊】」
飛び上がったララクの体は、普通なら重力によって地上に戻される。が、スキルの効果によって、彼はある程度の重力を無視することが可能。つまり、自由に空を駆け巡ることが、一時的に可能になったのである。
110
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜
かむら
ファンタジー
剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。
その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。
思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。
☆ゆるゆると話が進んでいきます。
主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。
※感想などの応援はいつでもウェルカムです!
いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります!
逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。
誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります!
#80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる