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第3話

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 彼女は愛用の武器、クリスタルロッドを抜き、姿勢を低くし構え始める。
 普通は、この距離から攻撃しても、崖の上にいる大鹿に攻撃は当てられない。
 が、彼女の持つこのロッドには、スキルという魔法がかけられている。

 その効果は、ゼマの攻撃を見ればすぐに分かる。

「ふぅぅ、はいっ!」

 息を素早く吐き出したゼマは、その場でロッドを前方に突き出した。すると水晶で出来たロッドが、さらに眩く発光し始める。

 輝いたそれは、元の長さを逸脱して、前に向かって伸び始めていく。真っすぐ突き進んでいくと、標的のトライディアにすぐさま到達していく。

 これが彼女の武器に付与されたスキル【伸縮自在】だ。効果はシンプルで、魔力を使用することで、その分だけ対象のものを伸び縮みさせることが出来る。

 離れた距離からでも攻撃できる便利なスキルだが、必ずしもそれが相手に当たるとは限らない。

「キャロォォ!」

 トライディアは、ロッドの動きを完全に読み切っており、野太い首を少しずらして避けてみせた。無駄がなく、最小限の動きでゼマの攻撃を回避したのだ。

「っく、やるじゃん。でも、まだ私の攻撃は終わってない!」

 避けられるとは思っていなかった。そんな前提で、彼女は攻撃を仕掛けない。が、それで肩を落とすことはなく、すぐに次の行動へと移行する。
 両手でロッドを強く握りしめ、腰を起点として右へと振り払う。
 ロッドの先はトライディアの首横にあるので、これは直撃すると踏んだのだ。

 が、この風格さえ感じるトライディアは、すでにその先を言っていた。

 ゼマが体をひねるのを確認すると、すぐさま岩場を蹄で蹴っ飛ばして、上空へと飛び上がったのだ。
 大鹿の体はかなり大きいので、それを計算してか、早めに動き出したのだ。
 そのタイミングは完璧で、トライディアがジャンプをしたあとに、ゼマの薙ぎ払い攻撃が開始した。なので、クリスタルロッドは、トライディアの足下を通り過ぎる事になった。

「くっそ、意表ついたと思ったんだけどなぁ」

 クリスタルロッドが伸びることを、トライディアはもちろん事前に知らなかったはずだ。それなのに完璧に回避してみせたのは、類いまれなる動体視力と冷静な判断力、そして何より卓越した肉体と跳躍力が成せる技だろう。

「キャロロォォ」

 再び岩場に脚をつけたトライディアは、まるで焦った様子がなく、低めの声を鳴らしてきた。
 これを見てゼマは、(これじゃあ、漁師が歯が立たないわけだ)と納得をしていた。彼女は自分をそれなりに実力のある冒険者だと自負している。故に、そんな自分の攻撃をいとも簡単に避け切ったこのモンスターの事を、高く評価していた。

「どうやら近づかないと、攻撃を当てるのは難しいようですね」

 ララクもまた、冷静に状況を分析していた。遠距離攻撃では、相手に避ける隙を与えてしまう。接近しなければ、有効打にならないと予想したのだ。

「ゼマさん、ここはボクに任せてください」

 ララクは自信に満ち溢れた表情で、仲間のゼマと目を合わせる。彼には、すでに勝利の算段がついているようだ。

「おっけー。全力でやってこい」

 ゼマはクリスタルロッドを収めると、両手を腰に当てて、ララクを応援する。自分の出番がないと少し拗ねている面もあった。

「はい! それじゃあ、まずは【ウェポンクリエイト・ハード】【シールドクリエイト・ハード】」

 ララクはスキルを発動する。前者は好きな武器を作り、後者は好きな盾を作り出す。といっても条件はあり、基本的にララクが見た物しか作れず、優れた性能を持つ物の場合は生成するための消費魔力が跳ね上がる。

 どちらのスキルも、数年前にはララクが持ち得なかった力である。

 ララクの体内に内蔵される魔力が消費され、まず左手に鉱物と獣の皮で作られた盾が出現する。鉱物の表面は滑らかで涼やかであり、触れるとその冷たさが手に心地よく広がる。
 そして、盾の中央には雄大な獣の毛皮が取り付けられており、その毛皮は獰猛な獣の力強さを思わせる。その皮は深い茶色で、金色の縁取りが美しさを引き立てている。
 盾の名はホーリーシールド。

 そして、右手に出現したのは、本来は両手持ちの刀身が長い刀だった。精練された鋼鉄で作られ、その美しい刃文はまるで星座が宇宙の闇に浮かび上がるかのように、闇を切り裂いて光を差し込んでいるかのように見えた。
 刀の名は、斬首丸。

 武器を作り出し準備が整うと、ララクはその場で飛び上がった。トライディアはかなり上方にいるので、これぐらいでは近づくことは出来ない。
 なので、ララク新たに、移動に役立つスキルを発動する。

「【空中浮遊】」

 飛び上がったララクの体は、普通なら重力によって地上に戻される。が、スキルの効果によって、彼はある程度の重力を無視することが可能。つまり、自由に空を駆け巡ることが、一時的に可能になったのである。
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