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第102.5話 

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「いいパーティーだな。……おっと、そうだ。お前たちに、ちと相談事があるんだ」

 店主の態度が、少しだけ重くなる。といっても、そこまで険しい暗い表情ではない。これからするのが仕事的な話なので、真剣な空気を出しただけのようだ。

「なんでしょうか?」

「実はな、これでもかなり魔晶石を使用したんだが、それでもまだ余ってるんだ。良かったら、買い取らせてもらえねぇか?
 おそらく、それの強化代を上回るはずだから、その差額をそっちに支払うってのはどうだ。お前たちにも悪い話じゃないだろ?」

 こういった交渉は、武器屋ではよくある話だ。武器素材の流通には顔が効くので、それらを高値で売りさばくことは得意だ。
 なので、余った素材を買い取ることはよくある話だ。
 冒険者も自分で下手に売るよりは、武器屋などに任せてしまった方が楽だし結果的に儲かることもある。

「逆にいいんですか、ってぐらいのお話ですね。他に使用する予定はありませんし。ゼマさんが良ければ」

「ん? そういうのはあんたに任せるよ」

 そういった交渉はゼマも得意そうだが、リーダーでもあるララクに任せた方がスムーズにいくだろうと考えているようだ。

「よし、じゃあ話はまとまったみたいだな」

 こうして魔晶石はそのまま、このお店に売却することに決定した。

 武器代が浮いて、さらに追加でお金を調達できたので、一石二鳥となった。クエストではないが、こういった方法で稼ぐ方法もある。
 中には、ギルドに行かずに自分で調達して売りさばく冒険者も希少ではあるが存在する。

「っあ、では良ければこれらもお願いできますか?」

 ララクはそう言って、【ポケットゲート】を発動する。そしてそこから、さらに魔晶石を取り出した。いくつかの塊となっており、また違う武器に使えそうな量だった。
 他にもブルーム鉱石やレッディ鉱石など、一般的な鉱物混じっていた。

 わざと出したというよりは、流れでカウンターに出してしまったようだ。

「こ、これ全部か?」

 思わず言葉を詰まらせる店主。まだこれほど残りがあるとはおもっていなかったようだ。

(どれも品質は良いし、願ってもない話だ。だが、これを全部となるとかなりの額になる。
 だが、これを使ってクリスタル系の武器を作れば、また集客が見込まれるはずだ)

 店主は顎髭を触りながら、じっくりと考え込む。
 慈善事業ではないので、しっかりと採算を見込んで考える必要があった。鍛冶職人兼店の主なので、そういった部分もしっかりとしているようだ。

「分かった、全部買い取ってやるよ。良い物を作れば売れる。そう信じて作ってみるしかねぇな」

 鍛冶屋として、様々な武器を作れることは、純粋な喜びなはずだ。それで儲けれる可能性があるのだとしたら、乗らない手はなかった。

「あまり商人などに顔が広くないので、助かります」

 ここで売らなければ、これらはずっと【ポケットゲート】で眠ったままになる可能性もあった。
【ポケットゲート】には許容量があるので、ここで消費できるのは彼にとってありがたかった。

「ちょっと待ってろ。鑑定する」

 即座に虫眼鏡を取り出して、鑑定していく。
 店主は、ララクがまだ若いからといって、足元を見るつもりはないようだ。正確に調べて、それ相応の値段を支払う気だ。

 しばらくして鑑定が終わると、店主は裏からお金をかき集めてくる。

「ほらよ。これぐらいが妥当だな」

 布袋にどっさりと入った硬貨を、ララクは受け取った。
 魔晶石は希少な代物だ。
 あの魔鉱山に大量にあるとはいえ、あそこまでたどり着くのが大変だ。気をつけていれば対応できるとはいえ、アイアンデーモンのようなモンスターも生息している。

 なので、金額が良いのは当然といえる。

「すごい。ありがとうございます! 旅の資金にします」

 これからここ、パーリア国を離れて隣国へと足を延ばす予定だ。なので、ギルドから離れる期間が長くなる。
 そうなると、稼ぎが少なる。
 なので、こうしてお金を調達できたのは幸運だ。

「太っ腹じゃん。じいさん、ありがたくこれを使わせてもらうよ」

 結果的にタダで入手する形となったクリスタルロッドについて、改めて礼を言う。彼女の中には「これで酒を我慢しなくてもいいな」という感情もあったが、口には出さなかった。

「達者でな」

 こうして、ゼマの装備強化は無事に完了したのであった。
 期間としては一週間ほどだったろうか。

 結果的には彼らにとって有益な時間ではあったが、それと同時に辛い時間を経験している。

 これから国を出て冒険を続ければ、心臓をえぐれるような事件などに遭遇することも大いにありうる。

 それでも、ララクは旅の決意を固めていた。

 危険と同時に、自分の知らない世界に触れることが出来る。
 それが彼の憧れた、冒険者としての日々だった。

 ララクとゼマは、武器と金銭の調達を終えると、鍛冶屋を後にする。

「それじゃあ、首都を満喫して準備も整ったことですし、そろそろ旅を始めましょうか」

 彼はまだみぬ冒険の舞台に胸を躍らせていた。彼はこの街を出て首都に行った事すら、最近まではなかった。

 初めて訪れた首都では、かつての仲間と出会い、衝突しながらそれぞれの道へと進んでいった。

 今度の目的地は隣国だ。
 どんな旅になるのか、彼には想像もつかなかった。

「いいね、わくわくしてきた」

 彼女も国内での旅経験しかないので、未知の世界に足を踏み入れることになる。それだけでも、彼と組んだ価値はあると、今は感じていた。

「それじゃあ、出発です」

 リーダーの合図とともに、ハンドレッドの次の目的が隣国に決定した。

 首都から行ける隣国の名は、ファンシーマ。

 彼らの新たな冒険が、始まろうとしていた。
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