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第100話 メリット
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3人組の冒険者と思われるその者たちは、やってきたララクに気がつく。
立ちあがった彼らは、顔を見るなり駆け寄ってくる。
「?」
ゼマはすぐに思い出すことが出来なかった。
しかし、人の顔を覚えることが得意なララクは、すぐに誰なのか分かった。
その冒険者たちは、魔鉱山にてララクが助けたパーティーだったのだ。
あの場には6名いたが、この場には3人だ。おそらく、3人パーティーが2組、アイアンデーモンに襲撃されていたのだ。
「あ、あの時はどうもありがとうございました!」
リーダーと思われる若い青年が、必死に頭を下げた。大げさのようにも思えたが、彼らからしたら、ララクたちは命の恩人だ。
あのまま寄生され続けていれば、生命力が奪われて、解放されたとしても塵となっていたことだろう。
「あー、あの場にいた奴らか。でも、元気そうじゃん」
ゼマはカリーエとの症状の差に少し疑問を持つ。彼女はまだ入院中だが、冒険者達はピンとしていた。
「えぇ、少し寝たら治りまして。これも、すぐに助け出してくれたおかげです」
後ろにいる2人の冒険者も深く頷いていた。
「そうでしたか。元気になってよかったです」
ララクは自分が助けた人たちが、明るい顔をしているのが異様に嬉しかった。あの時、ララクは頼まれてもいないのに、彼らを助けた。
そのせいで一気に魔力が枯渇し始めた。
それを少し後悔している部分もあった。
「それじゃあ、俺たちはこれで。前回クエスト失敗しちゃったので、また新しくクエストをやっていきます」
「お気をつけて」
「はい! 失礼します」
そう言って、そのパーティーたちは病院を後にした。魔鉱山では何かのクエスト中だったようで、今回あの事件に巻き込まれて失敗に終わってしまったようだ。
「めげないね」
「ですね」
命の危機に瀕したというのに、彼らの目は死んでいなかった。逆に、次こそは成功させるぞ、と生きまいといるようにも思えた。
これも、早期救出したが故の結果だろう。
「あの子も、そうだといいね」
ゼマは2階を見るように振り返る。聞き方によっては強い口調ではあったが、何もカリーエを攻めていたわけではない。
「はい、大丈夫だって思いたいです。カリーエさんって、もともとは明るい方ですから」
病院を去った冒険者たちのように、カリーエが復帰できる日を彼は望んでいた。時間はかかるかもしれないが、彼女の胸にはきっと師匠との思い出が残っている。
そう信じて。
「そっか。よーし、じゃあ行きますか」
事を終えたララクたちは、病院を出る。
外に出ると、首都の賑やかな街並みが続いている。天気も良く、心地よい風が流れていた。
道行く人を見ると、家族連れ、冒険者パーティー、様々な人たちが談笑しながら通り過ぎていく。
それを見て、ララクは改めて確信した。
彼は考えていたことがあった。
自分の行動理念について。
「あの、今回は色々とありましたけど、おかげで1つ分かったことがありました」
「ん? どうした?」
「ゼマさん、ボクがクエストに関係なく人を助けようと時言いましたよね。『メリットがない』って」
ララクはずっとその言葉がどこかで引っ掛かっていた。損得で考えることはララクにもある。それで疾風怒濤の勧誘を蹴ったこともある。(それでデフェロットと険悪になったが)
そのように考えている部分もありつつ、困っている人がいると体が動いてしまう、という性質も自分の中にあるように気がしていた。
「そうね。少なくとも金にはならないよね」
がめついわけではないが、ゼマは金銭にはそれなりに厳しい。おそらくは、金がないと酒が飲めない、という単純明快な理由だろうが。
「でも、思ったんです。誰かの笑顔を見れることは、ボクにとっては、メリットなのかもしれません」
ララクは、先ほど冒険者たちに感謝されて、体の熱がふつふつと上がってくるような高揚感を覚えていた。
そもそも冒険者とは、クエストをこなす仕事である。金銭を貰うとはいえ、根っこの部分は人助けだ。
そんな冒険者たちに憧れを抱いていたララクには、当然の感情なのかもしれない。
それに、今まで気がついていなかっただけで。
「ははっ、純粋ね。あんたがリーダーだし、私も付き合ってあげるよ。でも、ちゃんとクエストはやるんだよ?
金は大事だからね」
ボランティアだけでは生きていけないのが、現実問題である。今回のように明確な報酬を貰わないままの頼みを聞き続ければ、いつか金が底をつく。
「もちろんです」
冒険者パーティーとして、明確に方針を決めるのは大事なことだ。方向性が違う場合は、疾風怒濤のガッディアのように、抜けるということも、お互いの為の時がある。
なので、同じ理念を持った仲間がいるのは、貴重なことだ。
ゼマは(なんだかんだ退屈しなそう)ぐらいの軽い気持ちかもしれないが。
「それじゃあ、せっかくなので武器が出来るまで首都を観光しましょうか」
「っお、いいね。私もゆっくり回ったことがないし。デートしよっか」
「デートですか? いいですね」
そこに恋愛感情がないことは彼にも分かってきたのか、言葉のあやとして素直に受け取った。
辛い結末となった今回の素材探し。
だからこそ、ララクにとって貴重な経験となったはずだ。危険と隣り合わせの仕事をやるうえで、きっと今日のことが糧となる日がくるだろう。
色々と差のある2人は、前を向いて首都を観光しに行くのであった。
立ちあがった彼らは、顔を見るなり駆け寄ってくる。
「?」
ゼマはすぐに思い出すことが出来なかった。
しかし、人の顔を覚えることが得意なララクは、すぐに誰なのか分かった。
その冒険者たちは、魔鉱山にてララクが助けたパーティーだったのだ。
あの場には6名いたが、この場には3人だ。おそらく、3人パーティーが2組、アイアンデーモンに襲撃されていたのだ。
「あ、あの時はどうもありがとうございました!」
リーダーと思われる若い青年が、必死に頭を下げた。大げさのようにも思えたが、彼らからしたら、ララクたちは命の恩人だ。
あのまま寄生され続けていれば、生命力が奪われて、解放されたとしても塵となっていたことだろう。
「あー、あの場にいた奴らか。でも、元気そうじゃん」
ゼマはカリーエとの症状の差に少し疑問を持つ。彼女はまだ入院中だが、冒険者達はピンとしていた。
「えぇ、少し寝たら治りまして。これも、すぐに助け出してくれたおかげです」
後ろにいる2人の冒険者も深く頷いていた。
「そうでしたか。元気になってよかったです」
ララクは自分が助けた人たちが、明るい顔をしているのが異様に嬉しかった。あの時、ララクは頼まれてもいないのに、彼らを助けた。
そのせいで一気に魔力が枯渇し始めた。
それを少し後悔している部分もあった。
「それじゃあ、俺たちはこれで。前回クエスト失敗しちゃったので、また新しくクエストをやっていきます」
「お気をつけて」
「はい! 失礼します」
そう言って、そのパーティーたちは病院を後にした。魔鉱山では何かのクエスト中だったようで、今回あの事件に巻き込まれて失敗に終わってしまったようだ。
「めげないね」
「ですね」
命の危機に瀕したというのに、彼らの目は死んでいなかった。逆に、次こそは成功させるぞ、と生きまいといるようにも思えた。
これも、早期救出したが故の結果だろう。
「あの子も、そうだといいね」
ゼマは2階を見るように振り返る。聞き方によっては強い口調ではあったが、何もカリーエを攻めていたわけではない。
「はい、大丈夫だって思いたいです。カリーエさんって、もともとは明るい方ですから」
病院を去った冒険者たちのように、カリーエが復帰できる日を彼は望んでいた。時間はかかるかもしれないが、彼女の胸にはきっと師匠との思い出が残っている。
そう信じて。
「そっか。よーし、じゃあ行きますか」
事を終えたララクたちは、病院を出る。
外に出ると、首都の賑やかな街並みが続いている。天気も良く、心地よい風が流れていた。
道行く人を見ると、家族連れ、冒険者パーティー、様々な人たちが談笑しながら通り過ぎていく。
それを見て、ララクは改めて確信した。
彼は考えていたことがあった。
自分の行動理念について。
「あの、今回は色々とありましたけど、おかげで1つ分かったことがありました」
「ん? どうした?」
「ゼマさん、ボクがクエストに関係なく人を助けようと時言いましたよね。『メリットがない』って」
ララクはずっとその言葉がどこかで引っ掛かっていた。損得で考えることはララクにもある。それで疾風怒濤の勧誘を蹴ったこともある。(それでデフェロットと険悪になったが)
そのように考えている部分もありつつ、困っている人がいると体が動いてしまう、という性質も自分の中にあるように気がしていた。
「そうね。少なくとも金にはならないよね」
がめついわけではないが、ゼマは金銭にはそれなりに厳しい。おそらくは、金がないと酒が飲めない、という単純明快な理由だろうが。
「でも、思ったんです。誰かの笑顔を見れることは、ボクにとっては、メリットなのかもしれません」
ララクは、先ほど冒険者たちに感謝されて、体の熱がふつふつと上がってくるような高揚感を覚えていた。
そもそも冒険者とは、クエストをこなす仕事である。金銭を貰うとはいえ、根っこの部分は人助けだ。
そんな冒険者たちに憧れを抱いていたララクには、当然の感情なのかもしれない。
それに、今まで気がついていなかっただけで。
「ははっ、純粋ね。あんたがリーダーだし、私も付き合ってあげるよ。でも、ちゃんとクエストはやるんだよ?
金は大事だからね」
ボランティアだけでは生きていけないのが、現実問題である。今回のように明確な報酬を貰わないままの頼みを聞き続ければ、いつか金が底をつく。
「もちろんです」
冒険者パーティーとして、明確に方針を決めるのは大事なことだ。方向性が違う場合は、疾風怒濤のガッディアのように、抜けるということも、お互いの為の時がある。
なので、同じ理念を持った仲間がいるのは、貴重なことだ。
ゼマは(なんだかんだ退屈しなそう)ぐらいの軽い気持ちかもしれないが。
「それじゃあ、せっかくなので武器が出来るまで首都を観光しましょうか」
「っお、いいね。私もゆっくり回ったことがないし。デートしよっか」
「デートですか? いいですね」
そこに恋愛感情がないことは彼にも分かってきたのか、言葉のあやとして素直に受け取った。
辛い結末となった今回の素材探し。
だからこそ、ララクにとって貴重な経験となったはずだ。危険と隣り合わせの仕事をやるうえで、きっと今日のことが糧となる日がくるだろう。
色々と差のある2人は、前を向いて首都を観光しに行くのであった。
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