上 下
92 / 113

第90話 おねぇさん

しおりを挟む
「あんたもしかして、大技使おうとしてない?」

 彼女はララクの作戦を知らないはずなのに、見事に言い当ててみせた。マジカポーションで回復したのを、強力なスキルを使うためと判断したようだ。

「はい。それがボクの全力ですから」

 ガッディアに言われたことを自分の中でずっと彼は考えていた。そして、団体戦では使用しなかった【分身】を戦略の主軸にしようとしていた。

「何もさ、それってやみくもに戦う事じゃないと思うんだよね」

「やみくもってわけじゃ……」

 ララクとゼマが意見の食い違いを起こしていると、【アイアンショット】が役目を終えて鉄が消滅していった。
 急に辺りは静かになったが、それもつかの間、アイアンデーモンが動き出す。

「お喋りはそこまでだっ!」

 強化されたピッケルを振り上げながら、ララクの元へと落下していく。地面に落ち立った瞬間、目の前の金の盾にピッケルを打ちつける。

 すると、ピッケルの先端が盾に食い込んでいき、そこからヒビが全体に広がっていく。そして、金の盾は細かく砕けていった。

「まずいっ!」

 会話に気を取られて、まだ防御態勢が整っていなかった。自分を守っていた盾が消滅し、目の前には大鎌のようなピッケルを持った鉄の悪魔がこちらを睨んでいる。

「【刺突】!」

 近距離まで来たアイアンデーモンは、ララクを刺し殺そうとピッケルの先で彼を攻撃する。

 彼は今、武器を所持していない状態だ。
 咄嗟に防御手段をとれずに、まともに食らいそうになる。

 しかし、それを助ける救世主がいた。

「こっちに来なっ!」

 アイアンデーモンが攻撃を仕掛ける前に、すでにゼマはアイアンロッドをララクの元まで伸ばしていた。そして、前の戦いでガッディアを縛り上げたように、【伸縮自在】の効果を使ってララクに棒を巻きつける。

 そしてそのまま、真っすぐに伸びている箇所だけ【伸縮自在】を解除する。すると、するするとロッドが縮まっていく。しかし、彼を拘束した部分はまだ伸ばしたままなので、ララクは固定されたまま彼女の元へと引っ張られていった。

 一気にララクが移動したことにより、アイアンデーモンの放った【刺突】は空振りとなる。

「す、すいません」

 ゼマは自分の元へと彼を連れてくると、すぐに拘束を解除した。回復がヒーラーの仕事だが、彼女はその前の回避の部分を手助けしてくれたのだ。

「まだ付き合い短いけどさ、あんたってもっと作戦ちゃんと考えるタイプじゃなっかった?」

 今までの2人で行ってきた戦闘は、ララクが作戦を考えて彼女に指示を出していた。しかし、まだ彼から戦闘のオーダーは彼女に通達されていない。

「……そうですけど」

「さっきの【テレポート】もそうだし、魔力の使い過ぎ。
 もし、大技使ってそれでも倒せなかったら? なにも出来なくなって死ぬかもしれないよ」

 ゼマはララクが無暗にスキルを使いすぎているのではないかと危惧しているようだ。彼は全く何も考えずに使っているわけではないが、確かに今日は感情を優先して行動していることが多々あった。

「……確かに、一理ありますね」

 彼の中で【分身】を使用して相手を追い詰める作戦は考えられていた。しかし、そのあとのことは考えていない。
 いつもは失敗したとしても、新たな作戦を考えればいい。
 何故なら、戦闘に使える膨大な魔力が残っているからだ。

 しかし、魔力を消費すぎた今日に限っていえば、【分身】を使った後に残る魔力は僅かだろう。

 逃げようにも【テレポート】さえ使えなくなるだろう。

「大人しくお前らも吸収されろぉぉぉお」

 アイアンデーモンが雄たけびを上げる。自分の攻撃を、スキルを使って防御する2人にいら立っている様子だ。

「リーダー、また作戦考えてよ。それまで、私が時間稼ぎするからさ」

 改めてゼマはアイアンロッドを構え直す。彼女の持つそのロッドはいつ限界を迎えて壊れるか分からない。ロッドを失えば、彼女の戦う術が一気に減少する。
 しかし、そんなことを恐れる女ではない。

「ゼマさん、すいません」

「いいんだよ。いつも言ってるでしょ。おねぇさんに任せなさいって」

 そう言うと、ゼマは荒ぶるアイアンデーモンに向かっていく。彼女はララクをリーダーとして扱いつつも、年下の子供としても扱っている。
 だからこそ、ララクの至らない部分を指摘することが出来るのだろう。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...