81 / 113
第80話 【棒適正】
しおりを挟む
カリーエとララクは一度、【ストーンズ】というパーティーで一緒だったことがある。山仕事を主にこなしており、ここへとは来たことはないが、鉱山には一緒に訪れた経験がある。
「大丈夫ですか?」
腰を下ろしたララクは、彼女の上半身を抱えて意思疎通ができるか確認する。
「はぁ、はぁ。な、なんとかね」
そんな衰弱しきった彼女の体が、急に発光し始める。これは回復スキルの発動時の光だ。
「【クイックヒーリング】」
ヒーラーとして、弱ったら回復する、というのが根付いているようで、すぐに彼女に回復を施した。
ララクと知り合いのようなので、一応助けることにしたのだろう。
しかし、一向にカリーエの症状は良くならなかった。まだ息は荒いままだ。
「あれ、おかしいな」
自分の回復性能の度合いはゼマが一番分かっている。普通なら、すぐに元通りの状態に戻ってもおかしくはない
「彼女に外傷はありません。もしかすると、生命力そのものを奪われたのかも」
正確なことはララクにも分かりえないことだが、とにかく通常の回復スキルでは治療できないということだ。
しかし、だからと言って絶体絶命というわけではなかった。
カリーエの呼吸は徐々にだが正常に戻りつつある。寄生も終了し、傷もないのでゆっくりと休息をとれば、意識もはっきりしてくることだろう。
これも、ゼマが寄生先にダメージを与えることなく攻撃したおかげと言えるだろう。
「わ、私のことはいい。し、師匠が奥に行って帰ってこないんだ……。師匠を頼む」
弱弱しいカリーエは、力を振りしぼって口を動かす。そしてララクの肩に手をやる。
「ディバソンさんもいるんですね? ……分かりました、探してみます」
「わ、悪いね。助かるよ」
岩石野郎 ディバソン。カリーエの所属する冒険者パーティー【ストーンズ】のリーダーであり、彼女の師匠にあたる初老の男性だ。
ララクも彼の弟子?だった期間が短いがあった。
ララクは彼女の手に、自分の手を重ねる。
鉱物探しの他に人探しが急遽加わったわけだが、そんな中彼らを襲う新手がやってくる。
それらは、地面、壁などから姿を現す。
これは【地中移動】というスキルだ。主に土で出来た場所に入り込み、自在に移動することのできるスキルだ。
これは穴を掘り進める【グランダイブ】と似ている。魔狼戦の時に、ララクが使用したことのあるスキルだ。
が、あれは地中を掘って空間を作ることが出来るので、少し性能が異なる。
【地中移動】はどちらかというと、地面などと同化する、という表現があっている。
それを使って、一瞬にしてララクたちを囲んでしまう。
前後に3体づつ立ちふさがっており、彼らの逃げ場所を防いでいる。
「あらら、囲まれちゃった。てかさ、こいつらも冒険者かなんかってことだよね」
「そうなりますね。すぐに助け出さないと。でも、その前に」
状況を確認する2人。
アイアンデーモンは先ほどのカリーエ吸収体と同じように、中に人間を内蔵している状態だった。
カリーエの衰弱ぶりを見る限り、一刻も早く助け出さないとさらに危険な状態になると危惧していた。
しかし、カリーエを置いたまま戦うことは出来ない。
そこで、ここでの治療は断念する。
「カリーエさん、一度あなたを首都に送ります。自力で歩けるようになったら、病院で体を見てもらってください」
「送る、だって?」
「はい。【テレポート】」
説明している余裕もなかったので、【テレポート】を使って彼女を首都へと移動させた。カリーエは訳も分からず、瞬間移動をさせられた。
しかし、都にはモンスターはいないので、完全に安全と言えるだろう。
「なるほどね、ナイスアイディア」
これでカリーエのことを守らずに戦うことが可能になった。
アイアンデーモンたちは、狭い洞窟内でハンドレッドの2人に襲いかかってくる。
「また、同じことをするだけ」
完全に数はモンスターのほうが勝っている。が、狭い空間なので数が多くても多角的に攻撃されるというようなことはなかった。
なので、ゼマは余裕な笑みを浮かべる。
それを見たララクはあることを思いつく。
「ボクも真似させてもらいます。【ウェポンクリエイト・ハード】
ララクは戦闘に合わせて臨機応変に武器を作り出す。
今回選んだのは、ゼマが持つアイアンロッドとほぼ同じ鉄棒だった。
「あり、あんたも棒術扱えるんだっけ?」
今までララクが戦闘で使ってきた武器の中に、棒はなかった。しかし、剣やバトルアックスまで作っているのを見たことがあるので、それほど驚いてはいなかった。
「一応、ですけど」
アイアンロッドをララクは構え、ゼマと背中合わせになる。前後囲まれているので、それぞれ別方向を担当するようだ。
ララクの【棒適正】はそこまで強化はされていなかった。【槍適正】なら遊泳槍デューンなど、所持している冒険者が多い。
だがこれは、希少スキルと言うほどではないが、そこまでメジャーな適正スキルではないのだ。
そのため、スキルだけでいえば、ゼマよりも少しだけララクのほうが上手く扱える程度だ。レベルはララクの方が高いからである。
しかし、それ以上に武器を扱ってきた歴が違う。
そのため、ゼマのような練度で扱えるかどうかはまた別の話である。
「【刺突乱舞】」
ララクは見よう見まねで乱舞を繰り出す。【伸縮自在】を付与していないので、アイアンデーモンに近づいてから発動した。
スキルを発動すれば、半ば自動的に体が動き出す。
そこから繊細に操れるかどうかは、スキルのレベル度合いと使用者の技術による。
「ぐぅぅ、うおぉ」
アイアンデーモン1匹に乱舞がお見舞いする。冒険者の鎧と思われる部分を狙わずに攻撃しようとすると、かなり攻撃の軸がぶれてしまう。
ゼマほど正確には鉄を削り取ることは出来なかった。
が、【攻撃力上昇】や【打撃力上昇】などをパッシブスキルとして持っているので、かなり細かくは砕けている。
逆にあまり勢いをつけて攻撃してしまうと、中の人に重傷を負わせる危険性がある。
「っく、難しいな」
改めてゼマの卓越した棒捌きの凄さを思い知らされる。ララクはパッシブスキルがなければ、武器の扱いは素人同然。
今までの冒険で目で盗んでは来たが、それを完璧に再現するには今回のターゲットでは難易度が高いといえるだろう。
「遅い、遅い。三連【刺突乱舞】」
ララクの背後から、【伸縮自在】によって形が変化したゼマのアイアンロッドが伸びてくる。そしそれは、ララクの前方にいたアイアンデーモンたちの体を、次々と剥がれ落としていく。
3回連続で発動したので、効果が単純に3倍になるということだ。攻撃力などはそのままだが、突きの数が尋常ではない量に増える。
その大量の突きは、またも正確に鉄部分だけを捉えて粉砕していく。
「大丈夫ですか?」
腰を下ろしたララクは、彼女の上半身を抱えて意思疎通ができるか確認する。
「はぁ、はぁ。な、なんとかね」
そんな衰弱しきった彼女の体が、急に発光し始める。これは回復スキルの発動時の光だ。
「【クイックヒーリング】」
ヒーラーとして、弱ったら回復する、というのが根付いているようで、すぐに彼女に回復を施した。
ララクと知り合いのようなので、一応助けることにしたのだろう。
しかし、一向にカリーエの症状は良くならなかった。まだ息は荒いままだ。
「あれ、おかしいな」
自分の回復性能の度合いはゼマが一番分かっている。普通なら、すぐに元通りの状態に戻ってもおかしくはない
「彼女に外傷はありません。もしかすると、生命力そのものを奪われたのかも」
正確なことはララクにも分かりえないことだが、とにかく通常の回復スキルでは治療できないということだ。
しかし、だからと言って絶体絶命というわけではなかった。
カリーエの呼吸は徐々にだが正常に戻りつつある。寄生も終了し、傷もないのでゆっくりと休息をとれば、意識もはっきりしてくることだろう。
これも、ゼマが寄生先にダメージを与えることなく攻撃したおかげと言えるだろう。
「わ、私のことはいい。し、師匠が奥に行って帰ってこないんだ……。師匠を頼む」
弱弱しいカリーエは、力を振りしぼって口を動かす。そしてララクの肩に手をやる。
「ディバソンさんもいるんですね? ……分かりました、探してみます」
「わ、悪いね。助かるよ」
岩石野郎 ディバソン。カリーエの所属する冒険者パーティー【ストーンズ】のリーダーであり、彼女の師匠にあたる初老の男性だ。
ララクも彼の弟子?だった期間が短いがあった。
ララクは彼女の手に、自分の手を重ねる。
鉱物探しの他に人探しが急遽加わったわけだが、そんな中彼らを襲う新手がやってくる。
それらは、地面、壁などから姿を現す。
これは【地中移動】というスキルだ。主に土で出来た場所に入り込み、自在に移動することのできるスキルだ。
これは穴を掘り進める【グランダイブ】と似ている。魔狼戦の時に、ララクが使用したことのあるスキルだ。
が、あれは地中を掘って空間を作ることが出来るので、少し性能が異なる。
【地中移動】はどちらかというと、地面などと同化する、という表現があっている。
それを使って、一瞬にしてララクたちを囲んでしまう。
前後に3体づつ立ちふさがっており、彼らの逃げ場所を防いでいる。
「あらら、囲まれちゃった。てかさ、こいつらも冒険者かなんかってことだよね」
「そうなりますね。すぐに助け出さないと。でも、その前に」
状況を確認する2人。
アイアンデーモンは先ほどのカリーエ吸収体と同じように、中に人間を内蔵している状態だった。
カリーエの衰弱ぶりを見る限り、一刻も早く助け出さないとさらに危険な状態になると危惧していた。
しかし、カリーエを置いたまま戦うことは出来ない。
そこで、ここでの治療は断念する。
「カリーエさん、一度あなたを首都に送ります。自力で歩けるようになったら、病院で体を見てもらってください」
「送る、だって?」
「はい。【テレポート】」
説明している余裕もなかったので、【テレポート】を使って彼女を首都へと移動させた。カリーエは訳も分からず、瞬間移動をさせられた。
しかし、都にはモンスターはいないので、完全に安全と言えるだろう。
「なるほどね、ナイスアイディア」
これでカリーエのことを守らずに戦うことが可能になった。
アイアンデーモンたちは、狭い洞窟内でハンドレッドの2人に襲いかかってくる。
「また、同じことをするだけ」
完全に数はモンスターのほうが勝っている。が、狭い空間なので数が多くても多角的に攻撃されるというようなことはなかった。
なので、ゼマは余裕な笑みを浮かべる。
それを見たララクはあることを思いつく。
「ボクも真似させてもらいます。【ウェポンクリエイト・ハード】
ララクは戦闘に合わせて臨機応変に武器を作り出す。
今回選んだのは、ゼマが持つアイアンロッドとほぼ同じ鉄棒だった。
「あり、あんたも棒術扱えるんだっけ?」
今までララクが戦闘で使ってきた武器の中に、棒はなかった。しかし、剣やバトルアックスまで作っているのを見たことがあるので、それほど驚いてはいなかった。
「一応、ですけど」
アイアンロッドをララクは構え、ゼマと背中合わせになる。前後囲まれているので、それぞれ別方向を担当するようだ。
ララクの【棒適正】はそこまで強化はされていなかった。【槍適正】なら遊泳槍デューンなど、所持している冒険者が多い。
だがこれは、希少スキルと言うほどではないが、そこまでメジャーな適正スキルではないのだ。
そのため、スキルだけでいえば、ゼマよりも少しだけララクのほうが上手く扱える程度だ。レベルはララクの方が高いからである。
しかし、それ以上に武器を扱ってきた歴が違う。
そのため、ゼマのような練度で扱えるかどうかはまた別の話である。
「【刺突乱舞】」
ララクは見よう見まねで乱舞を繰り出す。【伸縮自在】を付与していないので、アイアンデーモンに近づいてから発動した。
スキルを発動すれば、半ば自動的に体が動き出す。
そこから繊細に操れるかどうかは、スキルのレベル度合いと使用者の技術による。
「ぐぅぅ、うおぉ」
アイアンデーモン1匹に乱舞がお見舞いする。冒険者の鎧と思われる部分を狙わずに攻撃しようとすると、かなり攻撃の軸がぶれてしまう。
ゼマほど正確には鉄を削り取ることは出来なかった。
が、【攻撃力上昇】や【打撃力上昇】などをパッシブスキルとして持っているので、かなり細かくは砕けている。
逆にあまり勢いをつけて攻撃してしまうと、中の人に重傷を負わせる危険性がある。
「っく、難しいな」
改めてゼマの卓越した棒捌きの凄さを思い知らされる。ララクはパッシブスキルがなければ、武器の扱いは素人同然。
今までの冒険で目で盗んでは来たが、それを完璧に再現するには今回のターゲットでは難易度が高いといえるだろう。
「遅い、遅い。三連【刺突乱舞】」
ララクの背後から、【伸縮自在】によって形が変化したゼマのアイアンロッドが伸びてくる。そしそれは、ララクの前方にいたアイアンデーモンたちの体を、次々と剥がれ落としていく。
3回連続で発動したので、効果が単純に3倍になるということだ。攻撃力などはそのままだが、突きの数が尋常ではない量に増える。
その大量の突きは、またも正確に鉄部分だけを捉えて粉砕していく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,164
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる