【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平

文字の大きさ
上 下
78 / 113

第77話 鍛冶屋

しおりを挟む
 ジンドの街、北東部。
 鍛冶屋や道具屋など、冒険者に関するお店が比較的多い場所である。

 そして町のど真ん中に、どこからともなく瞬間移動してきた者たちがいた。

「まさか、こんなに早くここに戻ってくるなんてね」

 見たことのある街の景観を見渡すゼマ。その背中には、壊れかけのアイアンロッドが収められていた。

「あまり鍛冶屋には詳しくないので、知っているところがいいなかって思いまして」

 ゼマの装備を強化する最適な場所として選んだのは、【クェイグの店】という鍛冶屋兼武器屋だ。

 彼はここに何度か来たことがあり、一度だけ店主と話したことがある。

 少し前のことだが、魔狼島の時の情報収集の際に訪れたことのあるお店だ。

「ふーん、なんか見たことはあるけど。あれ、ここで買ったんだっけ?」

 ゼマは記憶を呼び起こす。が、はっきりとは思い出せない。ソロ時代は自由に国内を移動していたためか、記憶があいまいなようだ。

「とりあえず、中に入りましょうか」

 そう言ってララクたちは、鍛冶屋に入っていく。扉は重く硬い。

 中に入ると、平和な町中から、急に殺伐とした雰囲気に早変わりする。
 こういった雰囲気が好きな冒険者も中にはいる。

 ララクも武器自体は好きなので、鍛冶屋は嫌いではなかった。彼の特性上、利用する機会はあまりないが。

(っあ、ケルベアサイズ、売れてる)

 前に訪れた際、ケルベアスの素材を使って作成されたケルベアサイズという大鎌が展示されていた。
 ララクはそれを、【ウェポンクリエイト・ハード】で作り出したことがある。

 どうやら、購入者が見つかったようだ。

「ん? どこかで見たことのある顔だな」

 奥にいる白髭の店主が葉巻を吸いながら、こちらに話しかけてくる。

「どうも、魔狼島の時はお世話になりました」

 そのキーワードを聞いて、店主はすぐにピンと来たようだ。

「あー、あん時の坊主か。クエストは上手くいったのか?」

「えーと、まぁ、そうですね。詳しくは言えませんが、館長は喜んでくれました」

 クエスト【魔狼を探してくれ】を思い出す。
 クエストは成功したが、島の性質を保つために、無暗に公表しないようにしていた。
 なので少し濁して伝えた。

「そうか。そういえば最近、館長が上機嫌だって噂になってたな。
 んで、今日はどうした? また、クエストか?」

「いえ、今回は客として来させていただきました」

「っま、頼むのは私だけど」

 ゼマはかなり年上の店主に対しても、相変わらずのテンションで「はぁーい」と手を振る。

 店主はそれを奇妙に思いながらも、仕事の話だと分かって葉巻の火を消した。

「そうか、注文か。見るところ、その武器か?」

 背中に刺してあるアイアンロッドに視線を移した。長年鍛冶屋をやっているだけあって、話が早い。

「っそ。壊れかけちゃっててさ、強化して欲しんだよね」

 ゼマはアイアンロッドを抜くと、カウンターに「ドンっ」と乱暴に置いた。これぐらいでは、まだ壊れないようだ。

「ちと、拝見するぞ。って、俺が作ったやつじゃねぇか」

 それを手に取るやいなや、呆れた様子でゼマにそう言った。

「っあ、やっぱり? でも、すぐに分かるなんて、良い腕してるね。結構、長持ちしたし」

 どうやら、彼女がアイアンロッドを購入した場所は、ここのようだった。

「自分の作ったもんぐらい分かるに決まってる。他の店の武器よりは、直しやすい。だが、強化っていったよな?」

「っそ、修復じゃなくて威力と頑丈さを上げてほしんだよね。できそうかな?」

「そりゃおめぇ、出来ねぇってことはねぇ。が、素材は必要だな。聞くが、どれぐらいの相手を想定してるんだ? それによって素材も変わる」

 鍛冶屋はやみくもに武器を強化するわけではない。
 一番は、その冒険者にあった武器を作ること。
 それはなにも、威力だけの話ではない。

 用途、予算、相性、など様々な要素を話し合って作っていく。

「そうねぇ、レベル70ってとこ? あーでも、1人で倒す必要はないから、60前後ってところかな」

 ゼマは最近戦闘を行ったシームルグのレベルを思い出す。しかし、すぐにもうソロではないので、あのレベルの相手と対等に戦う必要はないと考えた。

 だが、生半可な物では、このように壊れる危険性がある。

「な、70だと? 随分、強い相手を見据えてるんだな。お前たち、そんな強いのか?」

 はなっから疑ってかかっているわけではないが、レベル70というのは熟練冒険者でも倒すのは困難な相手だ。
 そう簡単には信じれないだろう。

「私はともかく、この子はチョー強いよ」

 隣にいたララクの方に腕を回す。ララクのほうが身長は少し低いので、彼女は少しだけ背中を丸くしていた。

「いえ、ゼマさんだって凄いじゃないですか」

「いや、あんたの方が凄いって」

「そんな、ヒーラーとしてゼマさんの事、尊敬してますから」

 お互いがお互いの実力を認め合っているので、謙遜しあっては褒めあうという、謎の状況に陥っていた。

 このままでは収集がつかなそうだったので、店主が口を挟む。

「わかったわかった。お前たちがそれを望んでるなら、作ってやるよ。けど、それぐらいとなると、かなりガラッと変えて強化する必要がある」

「つまり、モンスターの素材とかを組み込むとか、ですか?」

「普通はそうだな。けど、これはもともと純鉄で出来てる。モンスターの素材よりは、鉱物のほうが相性がいい。
 見たところ、これにスキル付与してるな?」

 店主はロッドを隅々まで眺めていた。
 そこで、これに【伸縮自在】が付与されていることに気がついたようだ。

「そんなことも分かるんですか? 見た目は変わらないのに」

 ララクの言うように、スキルを発動していない状態のアイアンロッドはいたって正常に見える。(ヒビを除いて)

「まぁ、勘だがな。鉄の声が聞こえんだよ」

 まるで我が子のようにアイアンロッドを撫でる。武器なので壊れるのは仕方ないことだ。しかし、出来るだけ長持ちできるようにしてあげたいのだろう。

「す、凄いですね」

 それが何らかのスキルの効果なのか、本当に勘なのかはララクには分からない。しかし、鍛冶屋として腕は間違いない事はすでに十分すぎるほど伝わってきていた。

「当然のことだ。それで、魔力を流し込むなら、それに順応できる鉱物が良い。そうだな、魔晶石でも使うか」

「魔晶石、ってなんだっけ?」

 武器の強化をろくにしてこなかったので、鉱物系にはゼマは疎い。クエストも、おそろく討伐系ばかりやってきたのだろう。
 彼女が薬草採取や、穴掘りをしているイメージは浮かばない。

「魔晶石は、魔力を持った水晶のことですよ」

「あー、あれね。知ってる知ってる」

 完全にしったかぶりであった。

 魔晶石は人間などと同じように魔力を持っている好物だ。中にはスキルを内蔵されてある水晶もあるとかないとか。

「坊主の言う通りだ。純度の高い魔晶石なら、硬度も問題ねぇ。が、そんなに簡単に見つけるもんでもねぇけぇどな。
 うちにも在庫はあるが、あいにく高純度の魔晶石は今はない」

 クェイグのお店は品ぞろえも豊富ではあるが、常に武器に使える素材が潤沢とは限らない。鉱山に出かけるにもモンスターに遭遇する危険性がある。
 なので、冒険者を雇うかクエストを頼むことが多い。

 しかし、それは需要の多い鉱物やモンスター素材の場合だ。
 特注品の場合は、要となる物は冒険者自身が用意することが多い。

「なるほど。ちなみなんですけど、それが見つかる可能性のある場所って分かりますか?」

「そうだなぁ、首都から少し行ったとこにある魔鉱山なら、あるかもしれんな。かなり遠いがな」

 それを聞いて、ゼマとララクは顔を見合わせて、少しだけほほ笑む。

「それなら大丈夫! てか、タイミングばっちりだね。さっきまでいたばかりだし」

「ですね。じゃあその魔鉱山に行ってみましょう」

 2人の会話は、店主にはちんぷんかんぷんだった。希少スキルである【テレポート】のことを詳しくは知らないだろう。
 知っていたとしても、彼が所持しているとは考えないだろう。

「よく分かんないが、気をつけろよ。死んだらもともこうもないからな」

「りょうかいです」

「大丈夫だよ」

 2人は武器の強化方針を決定すると、店主に別れを言って目的地を目指すのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎
ファンタジー
高校二年生の神山周平は中学三年の卒業後幼馴染が失踪、失意のままに日常を過ごしていた。 ある日親友との会話が終わり教室に戻るとクラスメイトごと異世界へと召喚される。 何がなんだかわからず異世界に行かされた戸惑う勇者達……そんな中全員に能力が与えられ自身の能力を確認するととある事実に驚愕する。 な、なんじゃこりゃ~ 他のクラスメイトとは異質の能力、そして夢で見る変な記憶…… 困惑しながら毎日を過ごし迷宮へと入る。 そこでクラスメイトの手で罠に落ちるがその時記憶が蘇り自身の目的を思い出す。 こんなとこで勇者してる暇はないわ~ クラスメイトと別れ旅に出た。 かつての嫁や仲間と再会、世界を変えていく。 恐れながら第11回ファンタジー大賞応募してみました。 よろしければ応援よろしくお願いします。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...