【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平

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第72話 苦渋の決断

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「えー、それじゃあさ、私はこの乱暴男と、そこのチビッ子のおもりをしなくちゃいけないってこと? 
 めんどくさいだんけど~」

 レニナは既に、彼の脱退を認めていた。家族がいること、そしてその家族を思っていることも知っている。
 なのですでに、彼が抜けた疾風怒濤を想像していたのだ。

「おいレニナ、お前も抜けるとか言わねぇだろうな?」

 リーダーとして、仲間が次々辞めてしまうことは避けたい。なので今はレニナの自分に対する罵声は気にせずに、引き留めようとしていた。

「どうしよっかな~」

 わざとらしそうにレニナは顔を反らした。

「俺からも頼むよ。勝手に抜ける俺が言えたことじゃないが、お前には彼らと一緒に旅をして欲しい。
 こいつを、リーダーとして認めているならな」

 軽く頭を下げるガッディア。

「っま、飽きるまでは一緒にいてあげる」

 そもそも彼女の答えは決まっていたのか、驚くほどあっけなくここに残ることを決めた。

 そんな彼女の態度に一番慌てていたのは、実はジュタであった。2人が抜けてしまっては、デフェロットと2人っきりになってしまう。
 もちろん嫌っているわけではないだろうが、2人だけで過ごせるかどうかとはまた別の話だ。

「っち、めんどくせぇ奴だな。おい、ジュタ。お前も残るよな?」

「も、もちろんです! まだ入ったばかりですし、もっとここで勉強したいことがいっぱいありますから」

 内心デフェロットは焦っていたのか、ジュタの発言を聞いた彼は、小刻みに顎を揺らして少しだけ頬があがっているように見えた。

「ありがとう、2人とも。これで安心してここを出れるよ」

 ガッディアも立ち上がり、パーティーメンバーを見渡す。そして、にこやかな笑顔を見せると、自分の腕をデフェロットに向ける。

 手甲をつけているが、その上から紋章が浮かび上がっていた。

「っち、」

 癖の舌打ちをしながら、ゆっくりと紋章のついた手を近づける。

 だが、しばらくしても、デフェロットは何も言わなかった。

 それを不安そうに見つめるジュタと、呆れた様子でいるレニナ。

 見かねたガッディアが声を発する。

「ガッディア・ブロリアスとデフェロット・バーンズのパーティー契約を……解除する」

 自分で言い出したことだが、なにも全て受け入れられているわけではなさそうだ。
 ガッディアが疾風怒濤で活動してきた期間は、2年ちょっとだ。
 それを短いか長いと取るかは人それぞれだろう。

 2人の紋章から光が現れると、それは儚くも鮮やかに散らばっていった。

 これで、疾風怒濤からガッディアが正式に抜けたことになる。

「はぁ、これでもうパーティーじゃねぇな」

 明らかなに気が落ちている。
 そんな彼をみて、慰めかガッディアはこんなことを言った。

「だが、俺とお前の間に、その「キズナ」とやらが紡がれていることは間違いない。だからきっと、まだその力を使えるはずだ。
 レニナやジュタと共に、もっとキズナを深められれば、ララクにだって勝てるさ。応援しているよ」

 相変わらず彼は自分の思いを包み隠さずに伝える。それが若者にとっては、むず痒く感じる。

「またお前はこっぱずかしいことを。っふん、お前がいなくたって俺らはやってけるさ。とっと、お家に帰りやがれ」

 契約解除が終わったとたんに、態度を変えたようにガッディアを追い払おうとする。

「そうだな。じゃあ、俺は行くさ」

 立ちあがってしまったので、このまま酒場を出ることにしたようだ。

「っえ、もう行っちゃうんですか?」

「そんなに娘ちゃんに会いたいんだ」

 早々と帰ろうとするガッディアを引き留めるわけではないが、他の2人が口を出す。

「まぁ、そんなところだ。それに、寄りたい場所もあってな」

「そうでしたか。あの、短い間でしたがお世話になりました」

 ジュタは長い髪を揺らしながら頭を下げた。疾風怒濤に入るための交渉がスムーズにいったのは、知識のあるガッディアがいたからでもあるだろう。

「あとは頼んだ」

「でもさ、別に一生会えなくなるわけじゃないでしょ? またね」

「あぁ、また会おうじゃないか」

 レニナも思うことはあるのだろうが、デフェロットよりはスンとした態度でガッディアを見送っていた。彼女の言った通り、死に別れというわけではない。再会は、意外にも早いことだってある。

「……じゃあな」

「……」

 デフェロットは何も言わずに席に座った。雑に座ったので、またテーブルが微かに揺れた。

 それを皮切りに、ガッディアはその場を離れていった。

「あんた、素直じゃないね」

 別れだと言うのにそっけない態度をとるデフェロットに(子供なんだから)とレニナは思った。

「うるせぇよ。あーくそ、今日は最悪の一日だぜ」

 結局、彼のイライラは消えることなく逆に勢いを増してただけだった。

「……はぁ、もうしょうがないな」

 レニナは何かを思いつき、深くため息をつく。いつもは彼がどんな状態だろうとお構いなし、といった態度をとる。が、さすがに今日は気の毒に感じたのだろう。

「っあ、注文いい? 生ビール1つ。あとオレンジジュース追加で」

 近くを通ったウェイターにドリンクを追加する。

 ジュタはそれを見て(なんでこのタイミング?)と不思議そうだった。

 デフェロットは、彼女の行動の異様さに気がついた。

「お前、酒なんて飲まねぇだろ」

 彼女は酒の臭いが体質的に苦手だった。獣と人間の血が混じった獣人と呼ばれる種族が、全員この臭いを苦手なわけではない。が、比率としては苦手意識を持つ者が多い。

「そうだよ。あんたの分。今日ぐらい飲んでもいいよ、文句は言わないから」

 あまり理由を聞かれたくないようで、サラッとそう答えた。

「はぁ? 気ぃ使ってんのか? 気持ちわりぃんだけど」

「何よその言い方。もうキャンセルするから」

「っちょ、おい。飲むは飲むけどよ」

 手を挙げてウェイターを呼ぼうとすらレニナを、デフェロットは必死で抑え込む。自分でも余計なことを言ってしまったと、若干後悔している。

 酒場は生ビールがメインということもあって、ドリンクはすぐに宅へと運ばれていった。ジョッキに入っており、泡もたっぷりだ。
 彼は久しぶりに飲むこととなる。

「ぷはぁ、やっぱうめぇなっ!」

 喉を鳴らしながら軽快にビールを流し込んでいく。炭酸の爽快さと苦みが体中に染みわたる。

「それはよかったね」

 彼女は鼻をつまみながら目は笑っていた。

「あー、これから3人か。っま、頑張るしかねぇか」

 一度ジョッキを置くと、また何か自分の中だけで考え事をしていた。だが、これが何を思っているのかは、すぐに周りに伝わってしまう。
 感情は隠そうと思っても、体に出てしまうことがある。

「あ、あれ? デフェロットさん、泣いてます?」

 ジュタは吊り上がったデフェロットの目が、少し潤んでいるのことに気がついた。理由は明白だ。

「まじ、嘘でしょ? あんた、そんなにガッディアの事大切だったの?」

「あーもういんだよ、過ぎ去った奴のことは」

 軽く腕で顔を拭う。涙は流れておらず、泣いているかは微妙な所だった。

「そういえば、自分で追放したくせにララクのことも気にしすぎてるし。あんたって根に持つタイプ? うわー、だからモテないんだ。納得」

 体を後ろに傾けて、引いてますよ、と彼にアピールする。顔もクシャッと中心に寄せている。

「さっきからうるせぇなお前は! あー、今日はとことん飲むからな! ジュタも付き合えよ」

「っえ、あ、はい。お酒は飲めませんけど」

 疾風怒濤から今日、1人の仲間が去っていった。
 しかし、その代わりといっては何だが、新しい若き冒険者が加入した。

 再び3人体制となった冒険者パーティー【疾風怒濤】は、仲間のお別れ会もかねて、飲み会を続けていくのだった。

 そんな彼らのやり取りを聞こえていたのか、ガッディアは出入り口の前に少し立ち止まっていた。

 そして、唇を噛み締めて微かに息を漏らすと、扉を開けて外に出ていくのだった。
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