上 下
70 / 113

第69話 激闘の末

しおりを挟む
 しばらくすると、赤き竜巻が消滅していった。

 そしてそこには、地面に倒れている3人の男の姿があった。

「っくそ、いてぇし、熱いしよぉ」

 仰向けになりながらデフェロットは倒れており、愚痴を漏らしている。今の彼は、魔人ではなく人間の姿をしていた。上半身も裸ではなく、鎧を着ている。
 そして、隣に倒れているガッディアも、元の鎧の姿に戻っていた。

 【キズナ変化】が解けたのだ。

 そして、ガッディアのさらに横には、全体的に焼け焦げているララクの姿があった。意識はあるが、かなり重症といえるだろう。
 最後は攻撃だけに集中していたので、デフェロットの反撃には抗うことが出来なかった。

 3人とも息を荒くしていて、虫の息だ。全員、しばらく立ち上がれそうにない。

「……引き分け、ですね」

 思うように体が動けないことを確認したララクは、そうぼそっと呟いた。

 それの言葉にいち早く反応したのは、デフェロットだった。

「お前は馬鹿か。どこが引き分けだよ!」

 デフェロットは片腕を少し振り上げて、地面に叩きつけて怒りをぶつけた。彼の予想では、自分が地面にへばりついているはずではなかった。

「っえ、でも……」

 デフェロットの言葉を聞いて、何が言いたいかを理解できた。ララクはまだ、団体戦の経験に乏しい。自分が動けなくなったからといって、勝負に負けたわけではない。

「……はぁ、キミにはまだ、動ける仲間がいるだろう」

 ガッディアは少し顎を動かして、いるであろう彼女に視線を移した。

「私はまだ、無傷だよ?」

 手を振りながら、ゆっくりとゼマが3人の元に近づいていくる。堂々とした態度をしており、自分がまだ戦えることをアピールしていた。

「しかもこいつはヒーラーだ。お前を回復すれば、また戦えるようになる。俺とガッディアに回復はできねぇ。 
 あーくっそ! 俺らの負けだよ! 今度はこいつを見返せると思ったのによぉ!」

 言葉では負けを認めていたが、その事実はデフェロットの精神に深手を負わせる。何度も地面を腕で叩きつけていた。

 そんなリーダーの姿をガッディアは横目で、黙って見つめていた。悔しいのは彼も一緒なはずだ。

「そういこうこと。【クイックヒーリング】、【ヒートリカバリー】」

 ゼマはララクに微笑みかけると、受けた傷を完全に治すための回復スキルを発動した。デフェロットたちと同程度のダメージを受けていたララクだったが、嘘のように傷が癒えていく。

「ありがとうございます。ほんと、ゼマさんがいてくれて良かったです」

「って、あんた私のこと忘れてたでしょ?」

「っあ、いや、忘れたわけでは……」

 ゼマの安否を忘れて、はやばやと「引き分け」と言ってしまったララク。そのことをゼマにもつつかれていた。
 おそらく、彼がそんなことを言ったのは、自分が戦闘不能に近い状態まで追いやられたことが、ショックでもあり嬉しかったからだろう。
 デフェロットたちの新しい力【キズナ変化】にララクは興味津々だ。
 だから、少し冷静さがなくなっていたのかもしれない。

「あんたたちも回復してあげようか? お金取るけど」

 地面に寝転がっているデフェロットを、文字通り上から目線で見下してくるゼマ。

「余計なお世話だっ! おいジュタ、ポーションぐらいあんだろ。持ってこい」

 デフェロットは、ジュタが彼の所持スキルである【錬金術】で薬草を回復薬であるポーションに変えられることを思い出した。

「あ、は、はい!」

 突然のお呼び出しに慌てながらも、常備してあるポーションを持って2人の元へと向かう。

(っま、もう魔力がカラカラでまともに回復なんてできないんだけどね)

 実は無傷ではあるゼマだが、魔力消費に関しては彼女もかなりひどかった。
 ハンドレッドの2人の回復に加えて、戦闘にも積極的に参加していた。頻繁に【伸縮自在】を多用しているので、それだけ魔力が失われる。
 一番は、ガッディアを巻きつけるために大量にアイアンロッドを伸ばした時だ。あの時に、大量の魔力を持っていかれてしまった。

 今、ララクを回復したことで、ほとんど余裕はなくなっていた。しかし、時間が経てば自然と魔力は回復していく。

「はぁ、これでも勝てねぇか……」

 デフェロットは上半身を起き上がらせて、ポーションの入った小瓶を受け取る。そして、戦いを振り返りながら、口に流し込んでいく。

「勝負には負けたが、ララクと互角に戦うことは出来た。まだスキルも得たばかりだ。上々の出来だろう」

 今回はまともに戦えたどころか、序盤は圧倒していたぐらいだ。しかしその前は、彼らにとってララクという存在は、「自分たちを瀕死に追いやったモンスターを倒した冒険者」だ。そんな相手と渡り合えただけで、大きなる成長と言えるだろう。

「っち。もっと、あの状態での戦闘経験が必要ってことか」

「あのボク、驚いちゃいました。強くなられていたこともそうですけど、まさか姿が変わってしまうなんて。【キズナ変化】? でしたっけ」

「やっぱダセェ名前だぜ。色々あって獲得したんだよ」

「キズナって、ぷふっ。あんた、似合わなすぎでしょ」

 改めてスキル名を聞いたゼマが。思わず吹き出す。デフェロットは常に仏頂面をしている男だ。ゼマのイメージからは、その言葉は程遠いのだろう。

「うっせぇ! 俺だって気に入ってるわけじゃねぇ!」

 ポーションの効果が出てきたのか、怒鳴り返す元気はあるようだ。

「そういえば、キミがそのスキルに気がつかなかったということは、キミは新しく得たスキルまでは獲得できないようだな」

 ガッディアは少し気になっていたことについて喋り始めた。彼が言っているのは、【追放エナジー】の効果についてだ。

「そうみたいですね。あの時点での皆さんのスキルを獲得できたみたいです」

「当たり前だ。スキルがパクられただけでも気分わりぃのに、これからの努力と時間も奪われてたまるかっ!」

「そう言うな。別に奪われたわけではないだろう」

 負けたこともあってか、機嫌の悪いデフェロットをいつものようにガッディアがなだめた。

「っけ、おいララク。今度戦う時は、絶対に俺らが勝つからな! 調子乗るんじゃねぇぞ」

 負け犬の遠吠え、とも言えるが、ララクはその台詞を真っ向から受け止めた。

「はい、次の戦いが楽しみです」

 勝負に勝ったことよりも、デフェロットたちの新しい姿と戦えたことが嬉しかったようで、にこやかにしていた。

「あ、その時はまた、頭下げなさいよ?」

「あん? この女ぁ、まじでむかつくぜ!」

 デフェロットはプライドを捨てて、ララクに頭を下げて頼んだこと思い出した。そしてその際に、ゼマに言いくるめられたことも。

 デフェロットが怒鳴る姿を見て、ガッディアはなんだか微笑ましく感じていた。しかし、どこか彼の表情は暗くなっていた。

 それぞれが様々な思いを胸に抱きながら、戦いは終わりを迎える。

 2対2の団体戦は、ハンドレッドの勝利で幕を下ろしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...