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第65話 隙きあり

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「【ウォータースラッシュ・波風《なみかぜ》】」

 ゴールデンソードが一瞬だけ透明な水に包まれる。そして、ララクが剣を振るうとそこから斬撃が放たれる。風系統の力によって斬撃を射出することが可能になり、そこには水系統の力が加わっている。
 刃は半月状をしながらも、水が揺れて形が一定ではなかった。

 複合スキルなわけだが、これをララクは目の前の敵ではなく、遠く離れた相手に当てようとしていた。遠距離スキルの利点の1つとして、離れた味方のアシストを行えるというのがある。

 ララクが狙ったのは、ゼマと激しい戦闘を行っているデフェロットだ。鋼鉄のガッディアを1人で対処するのは骨が折れると、作戦を変更したのだ。
 これはチーム戦だ。味方の援護を行うのも大事な戦法だ。

「デフェロットっ!」

 自分に向かってこないその攻撃をガッディアは防ぐことは出来なかった。だが、自分の相方に注意を促すことは可能だ。

「あん?」

 デフェロットはその声に気がつき目の端で声をする方を見た。すると、自分へと水色の斬撃が向かってきていることに気がつく。

 彼は頭で理解するよりも先に、手に握った炎魔剣でそれを防いだ。魔力を込めて炎を宿すが、相手は水系統のスキルだ。
 しかし、この【ウォータースラッシュ・波風】は大量の水を放出するスキルではない。なので、切っ先の範囲と同程度しか大きさがないため、炎を消すことが出来ずに消滅していった。

 奇襲だったが、デフェロットの反射神経が鋭く、ララクの攻撃は当たることがなかった。

 だが、彼が戦っている本命は、ララクではない。

 目の前にはまだ、痛みを顧みない野獣のような冒険者がいる。

「よそ見、発見!」

 デフェロットはしっかりとゼマのことも捉え続けていた。しかし、意識はララクが発動したスキルに持っていかれている。さらに、剣を持った片腕を横に移動させて、横やりを防いだ。
 なので、正面が腕1本分開いてしまったのだ。

「【刺突乱舞】」

 ゼマは前項のチャンスだ、とアイアンロッドを強く握りしめて乱舞を放つ。近距離で戦っていたこともあり、2人の距離はそれほど遠くない。
 すなわち、【伸縮自在】でアイアンロッドを伸ばす距離が短くて済むということだ。そうなると、当然伸びた棒を戻す時間が短縮される。
 これにより、【伸縮自在】を使用しながらも、ゼマの放つ【刺突乱舞】のスピードは凄まじい速度になっていた。

 そして、その攻撃のほとんどは、デフェロットの胸のあたりにヒットしており、さらに数発彼の顔面に叩きこまれた。

「ぐはっ!」

 避ける暇もなく、乱舞を全て体で受けてしまった。上半身と頬のあたりに、綺麗な円状の跡がいくつもついている。
 打撃スキルではあるが、顔面に受けた際に口を切ったようで、僅かだがデフェロットは血を流している。

 そして、全発受けたデフェロットの体は、遥か後ろへとぶっ飛んでいった。ゼマは狙ったわけではないが、デフェロットが飛んでいった場所はガッディアのいる付近だった。

「だ、大丈夫か?」

「く、くそ野郎」

 意識はまだあるようだ。だが、かなり体力を奪われたはずだ。

「ゼマさん、ナイスです! 【バーストスパーク】っ!」

 ゼマが隙のできたデフェロットにスキルを叩き込むところまでは予想通りだった。しかし、デフェロットがララクのほうまで吹っ飛んできたのは予想外だ。けれど、これは彼にとって好都合だ。

 【刺突乱舞】を受けたデフェロットは地面に倒れて、全身が平原の土で薄汚れている。この状態であれば、ガッディアは避けないはずだ。
 そう考えたララクは、爆発系の複合スキルを発動した。

【バーストスパーク】
 獲得条件……【スパークショット】と【フレイムバースト】を所持している。
 効果……発火性のある雷を相手に放ち、大爆発を起こす。相手を痺れさせることもある。

【スパークショット】は単純な電気での攻撃である【ダメージサンダー】と違って、当たると電気が四方八方に飛び散る。
 電気の爆発と言っていいだろう。ダメージも与えられるが、相手を痺れさせることに特化している。

 それに先ほどララクが放った爆発する炎を組み合わせたので、さっきよりも爆発の範囲が広く威力が上昇している。

「【ディフェンスアップ】」

 ララクの思惑通り、ガッディアはタンクとしての仕事をこなすつもりだ。

 強固な体を持つ鎧魔人に、【バーストスパーク】が直撃する。盾と雷が触れた瞬間、一瞬で大量の火花が散った。
 同時に小規模の爆発がいくつもおきて、まるで爆発が連鎖しているかのように連続で破裂音が鳴った。

 そのスキルは地面にも影響を与えて、砂ぼこりを大量に巻きあげた。しばらく、煙に包まれて、ガッディアたちの状況を確かめることは出来なかった。

 ララクはここで追撃をすることも可能だった。
 しかし、爆発に自分が巻き込まれる危険性もある。それに、相手がすでに反撃を準備している可能性だってある。
 まだ、ガッディアに重傷を与えたれているかどうかは彼には分からないのだから。

「【フレイムライド】って、うわっ!」

 ララクもまた、このスキルを所持していた。爆速のグルマンデという冒険者が多用している。やり方は分かるのだが、制御するのが難しかった。
 足の裏から炎が出ると、物凄い勢いでゼマのほうへとララクは飛んでいった。
 体がふらついており、これで自由に空を飛ぶには練習が必要そうだ。

 【フレイムライド】を使って一瞬でゼマへと近づくと、彼はその場に降りてゼマの状態を確認する。

「さすがです。けど、何回見ても、その戦い方はひやひやしますね」

 彼女が事前に使用した【オートヒーリング】で、デフェロットから受けた傷は見事に完治していた。しかし、彼女の衣服には激しい戦いの跡が残っている。

「そのうち慣れるよ。んで? これからどうするの?」

 いつもと同じ戦法をとっているだけなので、ケロッとした表情でゼマは指示を煽った。

「作戦を伝えます。上手くいけば、この勝負に勝てるかもしれません」

「待ってましたっ!」

 ララクのほうが年下ではあるが、パーティーの立場的には彼の方が上だ。それに、シームルグの戦闘でララクに戦術は任せた方が良いと、ゼマは判断していた。
 なので、文句を言うどころか、それを実行する気満々だった。
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