上 下
55 / 113

第54話 再開

しおりを挟む
「では、1回の奥に大浴場がありますので、ご利用ください。着替えも貸し出していますので、よろしければご利用ください。
 それではこちら鍵でございます」

「ありがとうございます」

 ララクは大浴場つきと書かれた看板を見て、すぐにこの宿に泊まることを決めた。近くにギルドもあるようなので、利便性も良さそうだと感じていた。
 店主から鍵を受け取ると、2回にある部屋へと向かおうとした。

「っあ、私先に風呂入っちゃうわ。先に部屋行ってて」

「分かりました。ごゆっくり」

 一旦そう言って2人は別れることとなる。

 鍵を持ったララクは、階段を上がろうとした。

 しかし、宿屋に見慣れた声が聞こえてきて足をとめた。

「いやーしかし、とんでもねぇ力だったな」

「あぁ、そうだな。さすが、隠れスキルと言ったところか」

「私、体痛いんだけど」

「ぼ、僕もです」

 店に戻ってきたのは4人組の冒険者パーティーだった。

 硬い髪が上に向かって伸びている剣士と、少し髭の生えた重騎士。そして、銀髪をした若い狐人とララクよりも幼い少年だ。

 その少年のことは見たことがなかったが、他の3人の顔をララクは忘れていなかった。かつて、一緒に戦った仲間なのだから。

「あれ、疾風怒濤の皆さんじゃないですか。お久しぶりです」

 その声を聞いて、疾風怒濤の4人も彼の存在に気がついた。
 彼らと再会するのは、ケルベアスと戦った時以来だった。あれからララクはクエストに明け暮れており、デフェロットたちは隠れスキルを調べていたので、出会う機会がなかったのだ。

「あん? って、なんでお前がここにいんだよ!」

 デフェロットが真っ先に気がつくやいなや、罵声を浴びせる。
 ララクは階段を登りかけているので、少しだけ彼がデフェロットたちを見下ろしているような構図になっていた。それもあって、一瞬でデフェロットのスイッチが入ってしまった。

「ボクもここに宿泊することになりまして」

「っち。せっかくいい気分だったのに、だいなしだぜ」

 舌打ちをして、ララクから顔を反らした。よっぽど、彼のことを嫌っているようだ。根に持つタイプなのか、魔熊の森で起きたことを忘れていないのだろう。

「元気そうじゃないか、ララク」

「ララクに会うとか最悪~」

 ガッディアとレニナは対照的なリアクションをとった。レニナは苦々しい顔を出して拒絶反応を示している。ガッディアは久々に再開して嬉しそうにしていた。

 そして加入したばかりのジュタは、手持ち無沙汰にしながら目が泳いでいた。

「あ、あの、この方は?」

 ララクとジュタは年齢的には数歳離れており、ララクの方が年上だ。しかし、お互いが幼げな顔をしているので、同級生にも見える。

 ララクの方が今までの戦いで成長したせいか、表情に凛々しさが出てきたように見える。

「あー、彼はララクと言ってな、少し前まで仲間だったんだ。まぁ、色々あったんだが、その辺はこいつが気にするからあまり聞かない方がいいかもしれん」

 ガッディアは親指でデフェロットのことを指さすと、ジュタに注意喚起をした。だがその発言が、余計にデフェロットの怒りに火を注ぐことになる。

「こんな奴どうだっていいんだよ! ほら、とっとと部屋戻るぞ」

 デフェロットを戦闘にして、彼らは階段へと歩きはじめる。当然そこにはララクがいるので、通り過ぎることになる。

「っけ、どきやがれ」

 ララクは少しその場を離れると、さきに彼らを登らせることにした。

「はやくベッドにダイブした~い」

 レニナはララクと会話をすることなく、そそくさと階段を登って行ってしまった。

「すまんなララク。機会があれば、また後で話そう」

「はい、ぜひ」

 仲間たちの無礼を謝りながら、ガッディアもララクを通り過ぎていった。

「は、初めまして。その、失礼します」

「初めまして。よろしく」

 2人は短く挨拶をすると、ジュタも2階に登っていった。

(たぶんだけど、新しいメンバーってことだよな。でも、ボクがいうのもなんだけどあんまり強そうに見えなかったけど)

 一瞬しか対面しなかったが、ジュタの何となくの雰囲気は伝わってきた。
 ララクは、デフェロットたちが次に仲間に入れるとしたらもっと腕のいい冒険者だと勝手に考えていたようだ。
 なので、以前のララク以上にひ弱に見えた彼を、疾風怒濤に加入させたのが謎だったようだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...