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第49話 試し斬り

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 ジュダが疾風怒濤に入ったその日のことだ。
 デフェロットは、自分の隠れスキルの獲得条件を調べるために、夜の平原へとやってきた。
 あまり疲れた様子のないガッディアと、逆に凄く眠たげな顔をしているレニナ、そして新米冒険者のジュタが同行していた。

 だだっ広い平原なのだが、夜なので全く先が見えない。自然の中なので街灯があるわけではない。

「き、緊張します」

 たいまつを片手に、ジュタは震える足で歩いていく。彼は大き目の袋を腰から下げている。そこにはポーションなどの冒険に役立つ道具が入っている。

「まだ敵はいなそうね」

 鼻をヒクヒクと動かしながら、周辺を警戒するレニナ。パッシブスキルの【嗅覚上昇】があるので、外敵が現れれば気づくことが出来る。

「だが、このエリアに出現し、交通を妨害しているのは間違いない。いずれ遭遇することだろう」

「オークの野郎、とっとと出てきやがれ」

 今回、疾風怒濤が受けたのはオーク退治のクエストだ。

【オークが通せんぼ!】

 私は商人で、他の街に移動することもあるんですが、通り道に最近オークがたむろしているんです。足が遅いので馬車で逃げれるんですが、平原を突破するのは難しいです。
 あそこを通れないと、随分遠回りになるので、追い払っていただける助かります。

          依頼主・旅の商人


「やっぱりさぁ、夜じゃない方が良いんじゃない? きっと豚たちも寝てるんだよ」

「レニナのことも一理ある。が、来てしまったものは仕方がない」

 ガッディアはたいまつの光を頼りに、敵を捜索していた。

「……っち、これじゃあ試しようがねぇな」

 デフェロットは早く達成条件を見つけたいようで、焦っているというよりはうずうずしている。

「……あ、この異臭。近くにいるよ」

 一番前を歩いていたレニナが立ち止まった。異様な臭いをキャッチしたようだ。

「ジュタ。俺の後ろに下がりながら、周囲を照らしてくれ」

「わ、わかりました」

 新米冒険者のジュタに、ベテランのガッディアがすぐさま指示をする。仲間を守るのがタンクであるガッディアの仕事なので、彼の後ろにいれば比較的安全だ。

「……くるっ!」

 レニナがアナウンスすると、暗闇の向こうから標的が接近してきた。たいまつの光に照らされて、オークの姿を確認することが出来るようになった。
 ジュタは初めて見たようで、かなり怖がっていた。

「ブォォォォォ」

 豚の頭をしており、下は太った人間の体をしている。いわゆる獣人、という種類になるが、狐人などの人間の面影のある顔と違い、完全に豚の容姿をしている。
 それだけなら害獣認定はされないが、さらに意思疎通が全くできず、獰猛で人を襲う。

 なので、討伐の対象となっている。

 さらにオークは1匹だけではなかった。

 3匹の成熟しきった大人のオークが、疾風怒濤を襲う。こん棒のようなものを持っており、それを使って殴りにかかってくる。

「来たな豚野郎! 【エアスラッシュ】!」

 敵が来たやいなや、鞘から剣を抜いてその勢いでスキルを発動する。ケルベアスの素材で強化されたヘルソードで繰り出す飛ぶ斬撃なので、一瞬で1匹のオークの首をはねた。

 オークのレベルは30も行かないぐらいなので、今のデフェロットたちの相手ではない。

 別のオークが、デフェロットではなくガッディアにこん棒を振るう。だが、彼はそれを大盾で危なげなく防ぎ、さらに盾を突き出してオークを吹っ飛ばす。

 その先にはヘルソードを突き出しているデフェロットが待っていた。押し返されたオークの背中に剣が突き刺さり、そのまま心臓を貫通した。

「よっと。あたらないよ~」

 【空中浮遊】を発動させて、軽快な動きでオークの攻撃を避けているレニナ。一回り大きいオークを、華奢な彼女が翻弄している。

「これでラストだっ。【スラッシュムーブ】」

 デフェロットは剣を振り上げると、その場で高くジャンプをする。そして、剣を持ったまま回転していき、最後のオークに向かっていく。

 魔力によって推進力と回転力を得ており、半自動的に繰り出されるスキルだ。

 レニナに遊ばれているオークは、車輪のような動きをするデフェロットの攻撃を避けることは出来なかった。

 勢いの乗ったヘルソードは、豆腐でも切るかのように簡単にオークの体を左右に真っ二つにする。

 その際に大量の血しぶきが流れる。

「ちょっと、最悪」

 【空中浮遊】で避けるが、数滴ほどレニナの装備にかかってしまった。デフェロットの方は勢い余って通り過ぎていったので、血しぶきをかからずに済んでいた。 
 だが、ヘルソードはもともとの漆黒に、血の色が加わったどす黒い色をしている。

「す、凄い。一瞬で倒しちゃった」

 ジュタは自分以外の冒険者の戦いをまじかで見てこなかったので、その鮮やかな連携と動きに目を奪われていた。
 そんな彼の紋章が光りだした。どうやら、パーティー契約をしたことにより、彼にも経験値が入りレベルアップを果たしたようだ。

「2、2つもあがっちゃいました」

 名前  ジュタ・ロロンアルファ
 種族  人間
 レベル 16→18

 残念ながら新しいスキルは獲得できなかった。しかし、肉体レベルとスキルの効果は僅かではあるが着実に上昇している。

「っくそ、俺のほうはなんの反応もねぇ」

 デフェロットは紋章に目をやるも、光り方は全く変わっていなかった。スキルを獲得しているならば、紋章が点滅するはずだ。

「当たり前じゃん。いつもと変わらずに戦ってただけだし、オークだって何度も倒したことあるし」

「あのなぁ、お前には分かんねぇかも知んねぇが、色々試したんだよ」

「???」

 レニナには彼の言っていることが理解できなかった。新しく得たスキルを発動したわけでも、戦い方をガラッと変えたわけでもない。
 では、デフェロットは何をしたのか。

「おそらくだが、デフェロットはまず、相手を一撃で倒すことにこだわった。スキルも同じのではなく、2種類を使用してな」

 仮説の1つにすぎないだろうが、デフェロットは達成条件が「相手を一撃で絶命した回数」ではないかと予想した。
 もちろん、今までの戦闘でも1撃で倒したことは何度もあった。なので、さらに体を切断することを試した。
 さらにそれが、「エアスラッシュでモンスターを切断して倒す」などのスキル指定の可能性もあるので、ガッディアの言った通り複数のスキルで倒した。

「ふーん、デフェロットなりに考えてたんだ。でも、2匹目はスキルを使ってなかったじゃん」

「あれは逆に、スキルを使用せずにモンスターを倒す、って条件かもしんねぇからやったんだよ。だが、全部外れちまった」

「す、すいません」

「なんでおめぇが謝んだよ。まだオークがいるかもしんねぇ、まだ続けんぞ」

「わ、分かりました」

「はぁ、付き合うこっちの身にもなってほしいわ」

「そういうな。パーティーじゃないか」

 デフェロットはまだ始まったばかりだと、仲間と共にクエストを続行していった。
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