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第42話 岩石野郎

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「よし、いただくとしよう」

「待ってました~」

「このキノコ、うますぎるだろ」

 各々、運ばれてきた食事を口に運んでいく。なんだかんだデフェロットも腹がかなり減ったようで、開口一番に食事に手をつけていた。
 山菜にこだわっているだけあって、デフェロットに文句の1つも言わせないほど旨いようだ。

 そんな3人を、少し離れた席で見ていた冒険者2人組がいた。
 1人は「マウンテンウォリアー」という名前が似合いすぎな、屈強な体をした中年男性だった。

 もう1人は、20半ばぐらいの健康的な体をした女性だ。下半身だけつなぎを着ており、上の部分の袖を腰辺りで巻いていた。よれよれのシャツを着ていて、鎖骨などが見え隠れしている。

 その2人は疾風怒濤の顔を確認すると、席から立ち上がり近づいてきた。

「お前ら、見たことある顔だな。もしかして、ジンドの街で会わなかったか?」

 中年男性が食事を楽しんでいる3人に声をかける。デフェロットとレニナは口いっぱいに食べ物を詰め込んでおり、喋れる状態ではなかった。

「あなたは確か……そうだ、ディバソンさんじゃないですか?」

 声をかけてきたのは岩石野郎 ディバソンという冒険者だ。2人は面識があったわけではないが、同じギルドを利用していた時期があったのだ。

「やっぱお互い見かけたことあるみたいだな。あんた、名前は?」

「ガッディア・ブロリアスと申します。彼らと【疾風怒濤】というパーティーを組んでいます」

 年上なのでかしこまった態度で会話をするガッディア。
 だが、それが逆に岩石野郎 ディバソンは気に入らなかった。

「敬語なんてやめてくれ。そうされると、背中が痒くなるんだ」

「師匠は硬いのが嫌いなんだ。お互いフレンドリーに話せると、助かるんだけど」

 彼を師匠と敬う女性が、今後の会話をスムーズに進めるように提案する。師匠と呼ばれるのは嫌ではないようだ

「そうか。では、よろしく。この尖がった髪をしているのがリーダーのデフェロット。狐人の彼女がレニナという。
 君の名前は?」

「私は師匠の一番弟子 カリーエって言うんだ。師匠と一緒に【ストーンズ】っていうパーティーで活動している。
 一時期、ジンドの街にも訪れたことがあったから、その時にあなたたちを見た気がしてさ」

 彼ら【ストーンズ】は、主にここマウンテンウォリアーズを利用していて、気分転換を目的に他の街へとたまに移動する。

「はぁー、美味しかった。さっき、一番弟子って言ってたけど、他に弟子がいるように見えないんだけど?」

 一度口を空っぽにしたレニナが、会話に参加しだす。

「うぅ、痛いところを突くね。実は師匠の波長と合わずに皆辞めちゃうんだ」

「がっはっはっは。去る者は追わずだ」

「そんなこと言って、あの子は逃げてもいないのに追い出したじゃないか。根性ありそうだったから、二番弟子になってくれそうだったのに」

「ん? いやー、あいつに教えれることなんてなにも無さそうだったからよぉ」

「そうかもしれないけど。……あー、ごめん、少し話がそれたね。まぁ、とにかく今は2人で頑張っているんだ」

 一番弟子のカリーエは、尊敬はしているのだろうが、彼女も師匠に手を焼いている様子だ。

「ふーん。っで、私たちに何か用?」

「冷たいことを言わないでくれよ。冒険者同士、交流を深めたいだけさ。パーティーメンバー以外とも、触れ合うことはいい刺激になると思うんだ」

「あー、カリーエ。いいこと言ったなぁ。そういうことだ。邪魔するぞぉ」

 そう言って岩石野郎 ディバソンは、了解を得ることなくガッディアの隣に座る。それに合わせて、カリーエも空いた席に座っていく

「ちょっと、相席するの?」

「いいじゃねぇか、狐ちゃん。なんなら、ここの飯代、出してやってもいいぞ?」

「……なるほどね。そうやって近づいて、弟子を増やすつもりなのね」

「っく、君は本当に容赦なく言ってくるな」

 レニナの言ったことは図星だったようで、カリーエは強く言い返せなかった。その横でディバソンは「その通りだ。がっはっはっは」と陽気に笑っていた。

「おいお前ら、別に一緒に飲むのは構わねぇが、その代わりに俺らの話も聞いてもらうぞ」

 飲み食いを止めずに話を聞いていたデフェロットが、ようやく食事を終えてディバソンたちと話し始めた。

「なんだ? おれらが知っていることなら、なんでも話してやるぞ」

「デフェロット、抜け目のない奴だな。……実は、俺たちはここに、ある人物を探しにやってきたんだ」

 ガッディアはデフェロットの考えを読み取り、食事をいったんやめて、情報収集にシフトすることにしたようだ。

「人探しか。おれはサーザーが長いからな。もしかすると、話したことがあるかもしれんぞ」

 ディバソンは年齢的にベテラン以上の冒険者であり首都サーザーの滞在期間も長い。さらに、性格的にギルド内にいる冒険者に話しかけるタイプだ。
 なら、これほど人探しの情報源として最適な者はいない。
 もしかするとデフェロットが黙って彼らを受け入れたのは、これが理由かもしれない。

「んで? 名前はなんていうんだ? その探しているやつは」

「いや、名前はないんだ。特定の人物を探しているわけではないんだ」

「話がみえねぇな」

 遠回しに話を進めるガッディアの喋り方が、ディバソンには好印象ではなかった。説明しやすいように順序良く話そうと考えたようだが、逆効果だったようだ。

「申し訳ない。では、単刀直入に聞こう。隠れスキルを判別できるスキル、を所持している者を知らないか?」

「隠れスキル……。それが分かるスキルだと? いやぁ、聞いたことがねぇな。カリーエ、お前はあるか?」

「いやー私も。そんなスキル自体、聞いたことないね」

「っち、ダメか」

 空振りだ、と悟ったデフェロットは、再度注文をしはじめた。

「そうか。そんなスキルがあれば噂が広まっていると思ったんだがな。熟練のあなたが知らないとなると、可能性は薄いか」

「えー、ここまで来てもう終了? 面倒くさいけど、もっと他にも聞き込みしてから諦めてよ」

 やる気があまり感じにくかったレニナだが、ここまで来たからには何かしら収穫を得て帰りたいようだ。瞬間移動ができないので、帰路はまた山道だ。この後すぐに、また山を登るのは勘弁したいようだ。

「あー、狐ちゃんの言う通りだぜ。サーザーは広い、おれの知らねぇ冒険者がゴロゴロいる。中には、初めて聞く希少スキルを持っているやつだっていたぜぇ。
 この世界にはまだまだ、解明されてない事ばっかだ。
 鉱山に行けば、たまに新種が発見されるぐらいだからな」

「……あぁ、もちろん俺もこれだけで帰るつもりはない。帰りが早いと、逆に家族に不審がられてしまう」

「なーんだ、私の早とちりか」

「今日は食べ終わったら宿行って、また明日、調べんぞ」

 リーダーが明日の予定を決めると、メンバーのガッディアとレニナは短く頷いた。

「じゃあ、話も終わったことだし。私たちも何か飲もうよ、師匠」

「あぁ。マウンテンビールでも飲むか」

 ディバソンとカリーエは、そのビールをウェイターに注文する。そして、出てきたのは大ジョッキよりも、さらに一回り、いやもっと大きいジョッキに入った泡たっぷりのビールだった。

「す、凄い量だな。こんなものをいつも飲んでいるのか?」

 ガッディアは飲まないだけで、それなりにアルコールを摂取できる体だった。しかし、そんな彼でも、まさしく山のような大きさをしたそれに驚いていた。
 そしてそれを、いとも簡単に飲み干していく2人に対しても同じ感想を抱いた。

「あったりめぇよぉ。ここの名物だからな」

「正直、私たちがここをよく利用するの、これが目当てだったりするんだよね」

 2人は中身が水なのではないか、という超人的なスピードで飲んでしまった。そしてあろうことか、さらに同じのを追加オーダーする。

 店側も彼らが1杯で終わる、とは思っていなかったようで、おかわりも迅速に運ばれてきた。

「……酒くせぇぞ、お前ら」

「うん、臭い」

 レニナだけではなく、デフェロットも酒に文句を言い始める始末だ。自分が飲んでいない分、他人が気になってしまったのかもしれない。

「がっはっはっは。細かいことは気にすんな」

「そうそう、ここは酒場でもあるんだからさ」

 ストーンズの師匠とその一番弟子は、おかわりを全く同じタイミングでして、同じスピードで、再び喉に流し込んでいくのであった。

(こりゃ、弟子が出来ねぇわけだ)

(マイペースというか、元気が有り余っているというか……)

(苦手だわ~。こういうタイプ)

 気の強い連中の多い疾風怒濤だったが、それとはまた別のタイプの人間と出会い、各々苦々しい感情を抱いていた。
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