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第41話 疾風怒濤、到着

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 ここはパーリア国 首都サーザーである。
 国内で人口が一番なのはもちろん、冒険者とギルドも数多く存在している。
 少し街を歩けば、鎧や武器を持った冒険者たちとすれ違うことだろう。

 仕事を探しに、地方から上京してくる者も多い。昨今では国内だけではなく、隣国からも移住者や旅行者が入国してきている。

 今日もまた、新たな者たちがこの都にやってきていた。

 しかし、彼らの目的は、少し他の冒険者と比べると変化球と言えるだろう。

「やっとついたな」

「はぁ、結構時間かかっちまったぜ」

「もう疲れて死にそうなんだけど~」

 3人の冒険者たちが、南東の入り口で立ち止まっていた。
 都には背の高い建造物も多いので、上を見上げて景色を楽しんでいた。約1名、顔がどんよりとしていて、それどころではなそうだった。

「おい、レニナ。てめぇは【空中浮遊】でほとんど浮いてたじゃねぇか。
 何が疲れた、だぁ。言うとしたら、俺か重装備担いで歩いてきたガッディアだろうが」

 冒険者パーティー【疾風怒涛】のリーダー・猛剣のデフェロットが、愚痴を言う仲間の意見を否定する。

「魔力使うだけでも疲れるんだから。あんたみたいに体力馬鹿じゃないんだよね」

「っけ、ちょっとは鍛えやがれ」

「気が向いたらね」

 狐風のレニナが、両耳を前に折れさせ、くたびれた様子で喋っていた。他の2人の足元が土で汚れているのに対して、彼女は磨いたばかりのような綺麗さだった。

「俺も疲れたわけではないが、少し腹が減ったな。情報収集もかねて、近くのギルドを訪ねてみないか?」

 2人よりも年上である守護戦士ガッディアが、現実的な提案をする。顔には出ていないが、デフェロットの言った通り、ガッディアが一番疲労を感じているはずだ。

 ここまで来るのに、山を1つ登ってきた。道中、モンスターに遭遇して戦闘もしてきた。同じ国内であっても、街から街に移動するのは、この世界では危険で困難な行為と言える。例外はいるが。

「たしかに、そろそろ飯の時間か。久しぶりに酒も飲みてぇ」

「酒臭くなるから飲まないで欲しんだけど」

 彼女は狐人なので、鼻がきく。それ+パッシブで【嗅覚上昇】が発動しているので、些細な臭いですら感じ取ってしまう。

「鼻、つまんでればいいだろ」

「そんなんじゃ意味がないのよ。もともと、あんた口臭いのよ」

「あぁん? おまえ、喧嘩売ってんのか?」

「おい、みっともないから、喧嘩はやめろ」

 疲れのせいか、デフェロットとレニナはいつも以上に不機嫌だった。
 このままではまずいと、ガッディアは先導してギルドを探しに行った。

「ここがギルドだ」

 すぐに目的地は見つかった。彼らがいつも利用するジンドの街のギルドよりも、小奇麗な外観をしていた。
 扉の近くに看板が出ていて、「マウンテンウォリアー」と書かれている。

「マウンテン、ウォリアー?」

「ギルド名だな。ここはギルドの数が多く、それぞれが専門的なクエストを扱っていることが多い。
 だから、分かりやすいように名前をつけているのだ」

 ガッディアは今でこそ、家族のいるジンドの街を拠点にしているが、若いころは首都に何度かやってきたことがあった。
 ジンドの街にもいくつかギルドがあるが、名前は「図書館近くのギルド」など他の場所と合わせて言えば伝わる。
 名前を付けるか否かにルールはなく、トップであるギルドマスターによって変わる。

「山の仕事、専門ってことか」

「そうなるな。山仕事に適した人間ならば、ここしか利用しない者もいるだろう」

「山だけなんて、絶対無理」

 デフェロットたちは扉を開けて、中に入る。
 内観も綺麗で、観葉植物などが設置してあり、いろどりも良かった。

 マウンテンという力強い名前のわりには、穏やかさを感じる。

「山仕事だけあって、全員タフそうだな」

 デフェロットは軽く店内を見渡すと、筋骨隆々な男たちが多いことに気がつく。レニナが臭いの話をしていないので、どうやら加齢臭などはしないようだ。

「キノコ狩りに、山道の整備。モンスター退治以外にも、山に関する仕事が沢山あるようだぞ」

 ガッディアは端にあるクエストボードに目をやる。そこでは、何人かの冒険者が、次に行くクエストを吟味している。

「とりえあず、食事しない? 私、このままじゃ餓死しそう」

「わーたっよ」

 ここも一部が酒場エリアとなっていて、食事を楽しむことができる。

 3人は開いている席に座って、注文をすることにする。

 メニューは、山菜や家畜ではない野生モンスターを使った料理が多かった。

「あー、キノコの盛り合わせと、マウンテンボアのサイコロステーキ。あと、ジンジャエール」

「私は、あぶらあげのチーズ焼きと、フレッシュピラフかな。飲み物はトマトジュース」

「ゴブリンの内臓焼きと、ジャンピングラビットの骨付き肉、あとバジルトマト。飲み物は緑茶でお願いします」

 それぞれが好きなように注文をする。とりあえず頼んだだけで、まだまだ胃袋に入れるつもりだろう。

「そういえばさ、ガッディアって酒飲まないよね。弱いんだっけ?」

 ソフトドリンクを頼んだので少し疑問に感じたようだ。見た目的には、ビールジョッキが似合いそうだ。

「妻と娘が嫌がるのだ。やはり臭いがきついらしい」

「あー、奥さんと娘ちゃん、獣人なんだっけ?」

「あぁ、犬人だ」

 ここパーリア王国は、多種多様な種族が住んでいる。人口のうち半分以上は創設種族である人間と言われている。だが、もう半分近い国民は他種族ということになる。
 異種族間で結婚することも珍しくはない。

「ほらー、あんたも酒、控えてよ」

「うっせぇ。お前は俺の妻じゃねぇだろうが。気なんて使ってたまるか」

「ふん。素直じゃない男だ。結局、ノンアルコールにしていたじゃないか」

「そんなんじゃねぇ。今日はしょうがって気分なんだよ」

 彼は口臭について言われたことを気にしたのか、ジンジャエールを頼んでいた。ちなみにメニューの中にはジンジャエールを使ったカクテルも色々とある。

「変に気を遣われるのも気持ち悪いんだけど」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」

 どうやらレニナは半ば冗談で言ったようで、彼が酒を頼んだのか頼んでいないのかさえ、ほとんど気にとめていなかったようだ。

 こんな調子で、疾風怒濤は口喧嘩をしながらも、無事にここまでやってきたのだった。
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