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第36話 彼女の才能

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(【伸縮自在】を使ってくれたんだ。よし、これで攻めれる)

 一瞬だが、攻撃を喰らったことでシームルグがのけぞったので、今がチャンスだとララクは攻めることにした。

「【テレポート】」

 行き先はシームルグの頭上だ。

「ジュロロォォォォ」

 しかし、ララクのスキル発動と同時にシームルグもスキルを発動しようとしていた。どうやら攻撃を喰らったことでご立腹のようだ。

「い、いない!?」

 ララクが【テレポート】した瞬間、シームルグはすでに空中から姿を消していた。

 ララクが辺りに目をやると、シームルグが高速で移動したことによる残像が見えていた。
 そしてシームルグが超高速で移動した先は、ゼマのいる地上だった。

【ソニックバード】
 効果……飛行能力、速度を格段に強化して敵に突進する。翼の性能によって威力と速度は変動する。

 こちらも翼を持った種族のみ発動できる、鳥類特有のスキルだ。シームルグは元々の飛行性能が高いので、このスキルの性能も格段に強化されている状態だ。

「う、嘘でしょ!?」

 自分に向かってくることは分かったものの、音速に近いスピードを誇るその攻撃を、ゼマが避けることは出来なかった。

「っぐぅわぁぁぁぁ」

 速度に加えてシームルグは体重も相当だ。大石が目に見えぬスピードで放り投げられたといってもいいだろう。
 そんな攻撃をまともに受ければ、軽装備のゼマがただで済むはずはなかった。

 【ソニックバード】を受けた彼女の体は、石ころのように吹っ飛んでいった。

「ゼマさん!」

 パーティーメンバーが強烈な攻撃を受けたことを知り、声を荒げるが、人の心配をしている場合ではなかった。

 シームルグはその勢いを保ちつつ大きく旋回して、今度は空中にいるララクへと【ソニックバード】で突っ込んできた。

「っく、ぐぅぅぅう」

 本当なら【テレポート】で避けるのが最善だったが、そんな隙を相手は与えてはくれなかった。

 ララクは咄嗟に、生成していたゴールデンソードを両手持ちにして、その刃の腹でシームルグの嘴を防いでいた。

 攻撃は止めることに成功したが、勢いと衝撃は打ち消すことは出来なかった。

 【空中浮遊】でなんとか滞空を維持しようするも、シームルグの押す力が凄まじいので、それの動きを完全停止させることは出来ない。
 徐々にララクの体が後ろへと下がっていく。

 他にスキルを発動して対処したいところだが、一瞬でも力を弱めればこのまま力負けしてしまうだろう。

「ジュロロロロオロロロロ」

 お嬢際が悪いと言わんばかりにシームルグが叫ぶ。そして、突進の力が強まっていく。

(どうする。どうすればいい?)

 冷静であろうとするも、目の前に巨大なモンスターがいる状態なので、精神的にも気圧されそうだった。

「……ララク、待ってな」

 ララクとシームルグの激突を、地上から薄れゆく意識の中で見ていた者がいた。
 それは、頭から血を流しているボロボロのゼマだった。

 瀕死寸前に思える彼女だったが、頭の傷や突進により折れた骨や打撲傷が、瞬時に癒えていた。

 これが、彼女の言う「ヒット&ヒール」の神髄だ。
 攻撃をすれば相手の注意を引くことになるので、今回のように怒りの一撃を喰らうこともある。

 強烈な攻撃は当たらなければ意味がない。そしてそれと同じく、回復してしまえばダメージはなかったことになる。

 彼女は【クイックヒーリング】【ヒーリング】を同時に使用していた。【クイックヒーリング】であってもこの傷を完治させるのには時間が掛かる。だが、【回復力上昇】で強化された【ヒーリング】も使用しているので、時間さえあれば傷は全て治ることだろう。

「……ふぅ、ふぅ……」

 アイアンロッドを杖のように使って立ちあがる。足にも怪我を負っていたが、それも徐々に癒えていくだろう。

 そして彼女は、治療が完了するのを待つことなく、さらに攻撃を仕掛けるつもりだった。

 姿勢は【刺突】とほぼ同じ。繰り出すのもその進化系と言われるスキルだ。
 だが、ただの【刺突】と違って動作が長く集中力が必要だ。
 それを、完治しきれていない体でやるのは至難の業だ。

 しかし、ゼマはこれぐらいで倒れることはない。

「【刺突……乱舞】!」

 一瞬で何度も突きを食らわせるスキルだ。相手に向かって棒を放つだけではなく、すぐさま自分の元へと戻す必要がある。
 そして、再び敵へと突きを繰り出す。それを繰り返すのだ。
 もともとの技術がなければ、【刺突乱舞】の性能は低下する。

 さらに【伸縮自在】によって伸びてしまえば、引き戻すまでの時間がかかってしまう。
 一瞬で自分の元へと戻すには、【伸縮自在】を解除する必要がある。

 そうすれば自然と元に戻っていく。

 しかし、一瞬の乱舞の中でスキルの発動と解除を行うのは困難だ。

 だが、ゼマはそれをやってのけた。

 持ち前の戦闘センスで、初見のスキルを使いこなしてしまったのだ。
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