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第29話 冒険者狩り

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「じゃあさ、さっそくクエスト探すか。あ、でも今日はもう飲んじゃったから、行くのは明日ね」

 アルコールに強そうなゼマであったが、さすがに酔っている状態でクエストに行くという危険行為はしないようだ。

「ですね。でも、どういったクエストを受けましょうか。正直、レベル60ぐらいならボク1人でなんとかなっちゃうんですよね。もちろん、モンスターにもよりますが」

 魔天狼はレベルが62だったが、レベル60のケルベアスよりも遥かにてこづった相手だった。だが、あれは【条件強化・月明かり】という希少スキルが故なので、レベル以上の実力を持ったモンスターに出会うことは少ないだろう。

「あんた、さっきからさらっと凄いこと言うね。レベル40代なのに、60が余裕なわけ? 私、そんな奴倒したことないんだけど。
 でも、これからあんたとパーティーを組むためには、それぐらいの相手との戦いで私が役に立たなくちゃいけないのか」

 なにもララクは、魔天狼クラスのモンスターをゼマに倒させようとはしなかった。ヒーラーとして機能するならば、仲間として問題ないと考えていた。

「そう、なりますね。だけど、ここにはレベル60以上の討伐クエストはほとんどなくて」

 クエストボードを見ながら話し合っても良かったが、ララクは何度かそれをすでに確認していた。張り出されるクエストは定期的に変わるが、そこまで頻繁に更新はされない。そもそも、このギルドは中級者向けのクエストを多く扱っている。

「そっか。じゃあ、首都にでも向かう? あそこなら、人も多いし狩場も近くにいっぱいあるから、色んなクエストあると思うよ」

 ララクたちが今いる場所 パーリア国・ジンドの街は栄えてはいるが、冒険者の多さは首都の方が勝っている。ジンドの街は、どちらかというと住みやすい街であり定住者が多い。

「そうですね。色んな場所にも訪れてみたいと思っていたので、いいかもしれませんね」

「よし、じゃあ明日は首都に向かお~う。景気づけに、ビールお代わり」

 いつの間にかビールを飲みほしていたゼマは、まだ飲み続けるようだ。

 話はまとまり、この街を出て首都へと向かおう、となった時だった。

 2人のいる席に、近づいてくる者がいた。

「ねぇ、ララク。首都に行く前に、この仕事やってみない?」

 それはいつもララクを担当することの多い顔なじみの受付嬢だった。いつもはカウンター越しでしか見ていなので、全身を見ると不思議な感じがするララクであった。

「え、クエストですか?」

 受付嬢は1枚の張り紙を持っており、それをテーブルの上に置いた。どうやら、ゼマとララクの話がひと段落するのを見計らっていたようだ。

「そうよ、これならララクには丁度いいんじゃない?」

 彼女が持ってきた張り紙にはこう書かれていた。

【冒険者狩りを倒してくれ!】

 お前たちは、冒険者狩りの異名を持つ鳥を知っているか? 名前はシームルグ。セファー山に住む大怪鳥だ。
 こいつは、山に入った冒険者を何故か執拗に狙うんだ。何人も攫われてる。……そして、俺の仲間もやられちまった。
 復讐のため、ってだけじゃない。
 こいつがいたら、狩りがまともに出来なくて他のクエストに影響が出てる。
 あいつは凄まじい強さを持っていて戦うだけで危険だ。
 だけど、誰か勇気あるものがいれば、奴を討伐してくれ! 頼む!

      依頼主・【ソードマンズ】リーダー・ヤロン


「冒険者狩り、ですか」

 ララクはシームルグという名前は聞いたことがあった。しかし、かなり強力なモンスターのため戦ったことは今までない。

「あー、なんか噂は聞いたことあるかも。時期によっては立ち入り禁止になる時もあるんじゃなかったっけ?」

「はい、ゼマさんの言う通り、シームルグが活発な期間は立ち入ることさえ禁止されてるの。でも、あそこは資源が豊富で、国としては本当は常に行けるようにしたいらしいの。
 だけど、狡猾さと強さを重ね合わせているから、相手ができる冒険者がほとんどいなくて」

 冒険者を狙う危険すぎるモンスターがシームルグだった。空を飛ぶので、剣士などでは戦うのが困難だろう。

「確かに、シームルグなら今のボクに丁度いい相手かもしれません」

「でしょ? そう言って貰えると、とってきたかいがあるわ」

 前向きなララクの言葉を聞いて、受付嬢は嬉しそうに答えた。

「もしかして、ボクのために他の所から持ってきてくれたんですか?」

「まあね。ほら、さっきも話したけど、首都に行く気なんでしょ? 実力のあるあなたなら、もうここから巣立つのかなって思ってたのよ。
 だから、最後にデカい仕事をここでやって貰おうっと思って。
 余計なお世話だったかな」

 シームルグのクエストは、他のギルドにたらいまわしにされていた。受ける者がいなかったのだ。それを知った受付嬢が、普段は扱わないような仕事だが、このギルドに持ち込んだのだった。

「いえ、そんなことは。丁度、これぐらいの難易度のクエストを探していましたし。
 それに、ここに来ることが少なくなりそうなのは確かです。
 だから、旅立つ前の試練として受けてみます」

 ララクはこのギルドを何度も利用していた。時期によっては宿よりも通っていたぐらいだ。なので少しだけ、ここを離れるのが名残惜しい、という気持ちが芽生えているのかもしれない。

「ありがとね、ララク」

「ちょっとお姉さんさぁ、こいつに肩入れしすぎじゃない? もしかして、惚れてんの?」

 冷やかすように言うゼマ。2人のやり取りを微笑ましく見ていた。

「違いますよ。ただ、ずっと頑張ってたの見てたから。
 今日でさよならってのも、何だか寂して」

 拠点を首都に移すか、他の場所に旅立つ場合は、このギルドにララクがくる回数はかなり減るだろう。テレポートがあるのでいつでも来れるが、彼の求めるクエストがなければ、来る必要はない。

「ふーん。じゃあ、なおさらこのクエスト成功させなきゃね。これをクリアして、勢いをつけて首都に向かう。
 それでどう?」

「はい、そうしましょう」

「良かった。じゃあ、受理してくるわね」

 眉を上げて分かりやすく喜びながら、受付嬢はカウンターへと戻っていく。

「あんたはさ、彼女の事は好きじゃないの?」

 ゼマは多少酔って上機嫌になっているのか、まだ恋愛話を続けようとしていた。

「好きですけど、恋愛感情とかはよく分かんないです」

 ゼマに茶化されても、ララクは照れたりはしなかった。言葉通り、恋愛的な意味で人を好きになる、ということを彼はまだ経験していないようだ。

「なーんだ、つまんないの。あ、でもいつでもお姉さんが相談にのってあげるよ」

「は、はぁ。ゼマさんは、恋人とかいるんですか?」

 自信満々にゼマが言うので、深く考えずにララクはそう質問した。

「え、あーいや、うーん。私の話はいいんだよ。ほら、明日の景気づけにあんたも飲みなさいよ」

 ゼマは下手くそな誤魔化し方で、話を反らした。空になったジョッキをララクに向けていた。

「ボクは飲まないので」

 この国では18歳から人間は酒を飲むことが出来る。種族によって飲める年齢は変わってくる。
 ララクは飲める歳だが、飲んだ事はほとんどなかった。一応、バッシブスキルの【酔い耐性】を持っているので、アルコールには強いはずだ。

「つれないねぇ~あんた。じゃあ、私が代わりの飲んじゃおーと。あ、お姉さんまたビールのお代わりね。
 あとー、ポテサラと生ハムも追加。よろしくね」

 慣れた口調でウェイターに注文していく。日頃から酒場を利用しているようだ。

「ま、まだ飲むんですね。もしかして【酔い耐性】持ってるんですか」

「ん? ないよ?」

 ゼマはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、並べられたつまみをむしゃむしゃと口に運んでいった。

(この人、素でアルコール強いんだ)

 豪快に食べ進める彼女の姿を見て、ララクは若干、引いていた。
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