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第26話 報告

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 ジンドの街にある国立図書館へと、ララクは再び訪れていた。

「館長はいますか?」

 クエストの報告をしようと依頼主である館長を訪ねてきたのだ。魔狼島からは、テレポートを使えば一瞬で戻ってこれた。
 楽に帰ってはこれたが、さすがに魔狼との戦いで疲弊して、一度宿で休息をとった。

 ダメージ自体は受けてはいなかったので、回復スキルを使わずともすぐに元気を取り戻した。

 ララクが館長を呼ぶと、すぐに彼はやってきた。上機嫌は維持されたままだった。

「おー、キミはこの間の冒険者くんじゃないかっ! その様子だと、何か手掛かりをみつけたのだね??」

「えー、まぁ。あの、ここではなんですし……」

 図書館の館長のくせに声がでかいことは前回で把握していたので、ララクはすぐに場所を移動するように提案する。

「おーそうだな。ゆっくりキミの話を聞きたいからね」

 館長は会議室の鍵を持つと、そのままララクと一緒に場所を移した。

 会議室は変わらずで、長テーブルが置かれており前にはホワイトボードがあった。

「あの、これ使ってもいいですか? 説明が少しややこしいので」

「おー、もちろん。そんなこと言われてしまうと、期待してしまうなぁ」

 館長は今まで、有益な情報を持って帰ってこれなかった冒険者の顔を何度も見てきた。しかし、今目の前にいる少年は違う。確かなものを掴んで帰ってきた、希望のある目をしている。

「えーでは、まず魔狼島からですが、噂の島は意外にもすぐに見つかりました。知り合いの漁師に聞いたら、その場所を知っていたんです」

「なるほど、漁師の間では有名な話ということか」

「えー。ボクは最初、『異常のなかった島』と『行方不明者が出た島』は別だと考えていました」

 ララクはホワイトボードに簡易的な無人島を2つ書き出した。線が丸く可愛らしいタッチの絵だった。

「ん? そうではないのかね?」

「はい。この2つは同じ島だったんです。つまり、安全と危険の両方の性質を持っていたのが魔狼島だったんです」

 書いた2つの無人島からそれぞれ矢印を出す。その2つの矢印は、新しく書いた無人島に収束している。分かりやすいように、無人島の絵の中に「魔狼島」と書き足した。

「ほうほう。しかし、やはり謎だな。魔狼がいるのであれば、安全とは考えにくい」

「はい。ボクは魔狼を探しましたが痕跡すらありませんでした。そこでヒントになったのが、その島に住む野生モンスターたちです」

 ジャンピングラビット、クワトロホーン、など彼が目にしたモンスターたちをずらっと絵にして並べる。どれもおとぎ話に出て来そうなフォルムをしている。

「ん? このモンスターたちは……」

 自分の中にあるモンスター図鑑を開いて思い出す館長。魔狼以外の事なら、ララクよりも館長の方が詳しい。

「そうです。全部繁殖能力の高いモンスターなんです」

「ほほう、それは不思議な生態系だな」

「ええ。しかし、その割にはモンスターで溢れかえっておらず、植物も食い荒らせれていませんでした。そこでボクは、彼らを捕食する存在がいるのではないかと考えました」

「それが、魔狼ということだな」

「はい、しかし探しても見つかる気配すらしませんでした。夜になっても手掛かりを掴めないでいると、その島は月明かりが異様に入り込むつくりになっていることに気がつきました。
 そこで、もしかすると魔狼はあそこにいるのではないかと思い時を待ちました」

「あそこ、とは?」

「月です。魔狼は月に住んでいたんです」

 ララクは魔狼島の上に、月を現す円を書き記した。

「つ、月だと?! そ、そんなばかな……」

「まぁ、ボクも半信半疑だったんですけど、実際に見てしまったので」

「み、見ただと!? お主、魔狼を見たのか!?」

 噂話の追加情報を得て帰ってきた、程度にしか考えていなかったようで、まさか真相に辿り着いていたとは思っていなかったようだ。

「えぇ、まあ。名前は魔天狼というらしいです。どうやら満月の時にしか姿を現さないようです。
 そのため、その日以外に調査をしても出会うことは出来ない。逆に出会ってしまったら、捕食されて終わり。だから、噂があのような不確かなものになってたんです」

 ホワイトボードに大きめな狼の絵を追加する。その上に「魔天狼」と名前を付けくわえた。

「満月。なるほど、狼と月には不思議な関係がある。うーん、キミの話は妙に説得力があるなぁ。
 では、私も満月の日にそこを訪れれば会えるのだな!?」

 真実を知ったからには、この目で確かめたいと思うのは当然だった。

「そうなんですけど。やめた方が良いと思います。餌になるのがオチです」

 重力を操る、という半ば反則的なスキルを使ったとはいえ、魔天狼は【追放エナジー】を獲得したララクに初めて膝をつけさせた相手だ。

「な、ならば腕利きの冒険者を集めよう! そうすれば問題ないだろう?」

 館長は気持ちが高ぶり、今すぐにでも出会うための準備を行おうとしていた。

「そのことなんですが。あの島は、そっとしておいてあげてください」

「な、何を言うんだ。これは図鑑のどこにも記されていない世紀の大発見なんだぞ? それをみすみす放っておくなど」

「館長、落ち着いてください。あの島は繁殖力の高いモンスターばかりが住んでいます。そしてそれを、捕食して数を減らす魔天狼がいることで成り立ってる特殊な島なんです。
 つまり、魔天狼がいなくなってしまえば……」

 館長はララクの言葉を聞いて、はやる気持ちを抑えてつばを飲み込んだ。館長も自然に詳しいので、すぐに彼の意図することを理解できた。

「生態系が壊れる、ということだな」

「はい。あれは、人の手を加えるべき場所ではないんです。ですから、残念ですが会う事は推奨しません」

 その言葉は、館長に言っているようで自分自身に言っていた。【ロックブラスト】を上手く使用することで反撃に成功したララクだったが、その勢いのまま止めを刺そうとしてしまった。
 そこで、クエスト内容を思い出した。

 クエストの依頼は、【魔狼を討伐せよ】ではなく【魔狼島の探してくれ】だ。つまり、そもそも戦う必要はなかったのだ。
 月から現れる姿を確認するだけで、クエストは完了していたのだ。
 だが、あの時のララクは強者との戦いに胸を高鳴らせていた。その失敗を経験したからこその注意喚起だった。

「……んんんん。……仕方ないか。秘密が判明しただけでも良しとしよう。だが、最後にこれだけ聞きたい。
 本当に、魔狼、いや魔天狼を見たんだな?」

 クエスト報告には、何か証拠を提供するのが普通だ。しかし、今回はかなり特殊なケースだ。最後まで戦わなかったので、素材も確保できていない。もし魔天狼を目にしようと思っても、次の満月まで待たなければいけない。

「はい。とんでもなく強かったです」

 きっぱりと答える。館長がララクをじっと見つけているので、負けじと目力を強くして見つめ返す。
 2人の間にしばし沈黙が流れると、館長が喋りだした。

「そうか。キミを信じよう。その目と、その絵に免じてな」

 ララクの後ろにある、彼の書いた魔天狼の絵に館長は視線を移した。決してうまいとは言えないが、特徴は捉えていた。

「ありがとうございます」

 実はララクは嘘をつくと、とあるスキルが発動してしまう体になっていた。そのスキルとは【嘘鼻】である。これはダブランファミリー所属のトッドーリが持っている希少スキルだ。
 効果はシンプルで、嘘をつけば鼻が長くなる。

 なので、嘘をつけばすぐに分かるのだが、そのことを説明せずとも、館長はララクの言葉を信じてくれた。

「いや、こちらこそ礼を言うよ。キミのおかげで長年の謎が解けたのだからねっ! これでクエスト達成だよ」

「良かったです。では、ボクはこれで」

 ララクは自分の描いた絵を消そうとしたが、館長が止めた。胸ポケットからノートを取り出して、それを書き留めていた。
 邪魔してはいけないと、そのまま会議室を後にしようとした。
 が、ララクは一瞬だけ足を止めて館長に顔を向ける。

「館長、最後にちょっといいですか?」

「ん? どうしたかね?」

「満月の夜、空を見上げてみてください。もしかすると、お目にかかれるかもしれません」

 一瞬ではあるが、魔天狼が月から島へとやってくる時間が存在する。おそらく、目撃証言はこの時のものだろう。

「そうか。それは試してみないとだな」

 館長はにんまりと笑った。
 次の満月の日が楽しみで仕方ない事だろう。

 これでララクの受けたクエスト【魔狼島を探してくれ】は無事に終了を迎えたのだった。
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