21 / 113
第21話 無人島
しおりを挟む
漁師用の船なので、観光用とは違って少し進みは荒かった。
船乗りはだいたい【酔い耐性】を持っている。そのため、酒などにも強い。海賊たちがビールなどを片手に宴を上げているイメージが広まっているのは、その影響ともいわれている。
そしてこのスキルはララクも所持している。大酒のボダーズという冒険者が所持しているスキルだった。
ボダーズの所属する冒険者パーティー【荒波】には、遊泳槍デューンと釣り師アバンジャが籍を置いていた。
【酔い耐性】というバッシブスキルは、何も酒を飲む際に活用できるものではない。モンスターの中には、地震などを起こして揺れを起こすものや、強力な打撃で直接脳を揺らすものもいる。そこでこれがあると、意識を保ちやすいのだ。
港町バルミューを囲む近海は海が澄んでいることで有名だ。ゴミなどが流れることも少なく、海洋生物たちはすくすくと育つ。これは、バルミューをはじめとした近辺に住む人々が、海を大切にしている表れでもある。
「もうすこーし掛かるが、暗くなる前にはつきそうだ。ほんとに、迎えはいらないんだな?」
ララクが漁師を訪ねたのが昼過ぎだったので、船に乗っている時間を追加すると、つくのは夕方の少し手前ごろと行ったところか。
行きは問題なくとも、帰りは確実に夜になる。真っ暗のなかでの移動は危険がつきものだ。
「はい。【テレポート】があるので」
改めて瞬影忍者カケルの持つ【テレポート】の便利さに関心するララク。
しばらく海を眺めながら漂っていると、無人島がいくつか見えてきた。そして船の方向線上に、目的の場所が見えてくる。
背の高い木々が多く、全体が緑で覆われているようだった。広さは有人島と比べるとこじんまりしており、この距離からであれば全体的な大きさを確認できた。
「ここが、魔狼島ですか?」
「まぁ、魔狼が本当にいるならそうだな。今はただの無人島さ」
漁師は無人島の浜辺へと船を近づけ、ぴたりと止めてみせた。
「ありがとうございました」
ララクはハシゴを使うことなく、ひょいっと船から飛び降りる。そして、船に乗ったままの漁師を見上げた。
「良いってことよ。おまえさんに、海の加護があらんことを」
彼は胸のペンダントを握りしめ、神に祈る。
「そちらも、お気をつけて」
ララクは船が発車するのは見守ると、魔狼島と思われる未知の場所へと足を踏み入れていく。
(いたって普通の島だよなぁ)
背の高い木々が多い、という点以外はぱっと見は何の以上もなかった。
天を見上げると、雲一つない絵のような青が広がっていた。この島を外から見た時は緑に囲まれているという安易に感想を持ったが、入ってみると空からの光が多く差しむ地形をしていた。日陰は少なく、長時間入れば日焼けをしそうだ。
「【アーマークリエイト・ハード】」
彼は武器を作り出す【ウェポンクリエイト】ではなく、防具などを作れる【アーマークリエイト】を使用する。防具というと物騒だが、簡単に言えば衣服を作れることが出来る。その範囲には、頭部に着用するものも含まれている。
早着替えのマリーカという冒険者が愛用するスキルだ
「ふぅ、【日焼け耐性】はないからなぁ」
彼が作り出したのは、小さな頭にすっぽりと入る麦わら帽子だった。日焼け防止のスキルは持っていないので、こうするしなかった。
【日焼け耐性】というピンポイントなバッシブスキルは存在する。皮膚が焼けないということで炎の熱にも強い。しかし、それならば【炎耐性】で事足りる。それゆえか、希少スキルの1つではあった。
ピクニックにでも来たかのような様になった彼を、迎えるものがいた。
「キュキュ??」
モンスターの鳴き声だ。凶暴性はあまり感じなく可愛らしい声だ。
「あ、ジャンプラビットだ」
ジャンプラビットはその通り跳躍力に優れている。見つけたその兎は、雑草を小刻みにジャンプしている。おそらく、ララクの首あたりぐらいまで跳ぶことができるだろう。
「っえ、こんなに?」
ジャンプラビットが跳ぶのは習性的に何ら不思議はないが、群れで活動していたようで数十匹が一気に宙を舞っているのだ。
「モンスターは多いんだな」
ゴブリン並みに大群でいるジャンプラビットだが、攻撃をする気配はなかった。かれらは草食動物だ。こちらから攻撃しない限り、襲撃されることはない。
少しづつだが、魔狼島についての情報を頭に書き留めておくララクだった。
◇◇◇
ララクは草木をかき分けながら、無人島を進んでいく。すると、新たなモンスターたちが次々と顔を出してくる。
(あれは……クワトロホーン)
不規則に曲がった角が4本ほど生えており、見た目は完全に鹿だった。こちらも、数匹の群れで活動している。
「キャキャラッ」
幼児のように高い声を出して、木の上のを登っているのはウッドモンキーだった。茶毛をしており、木系統のスキルを扱うと言われている。ウッドモンキーは小さな赤子もいて、家族連れのようだ。
(ほんと、野生のモンスターが多いな。でも、どれも温厚な生き物だし、危険はなさそうだ)
消息不明者が出た原因は、これらのモンスターの影響である可能性は薄い、と考えていた。
(それなのに、全然いないな)
辺りを見渡せども、目に映るのは草食動物ばかりだ。それに伴い、木の実や雑草は潤沢に育っている。
上級モンスターどころか、ゴブリンのような低級だが凶暴なモンスターさえ存在しない。
ララクは先ほどから地面の土も注意深く観察していた。しかし、巨大生物の足跡らしきものは確認することが出来なかった。
(これなら、異常がないと判断するのも納得だ)
この島はいたって平和的だ。人間がいないだけで、それに危害を加える存在はいない。日当たりもよく、動植物はすくすくと育っている。
(モンスターにとっては楽園だなぁ、ここは。……ん、待てよ)
肉食獣が存在しないので、小動物には暮らしやすい。そう考えていると、ここにいるモンスターたちの共通点に、ララクは気づき始めた。
船乗りはだいたい【酔い耐性】を持っている。そのため、酒などにも強い。海賊たちがビールなどを片手に宴を上げているイメージが広まっているのは、その影響ともいわれている。
そしてこのスキルはララクも所持している。大酒のボダーズという冒険者が所持しているスキルだった。
ボダーズの所属する冒険者パーティー【荒波】には、遊泳槍デューンと釣り師アバンジャが籍を置いていた。
【酔い耐性】というバッシブスキルは、何も酒を飲む際に活用できるものではない。モンスターの中には、地震などを起こして揺れを起こすものや、強力な打撃で直接脳を揺らすものもいる。そこでこれがあると、意識を保ちやすいのだ。
港町バルミューを囲む近海は海が澄んでいることで有名だ。ゴミなどが流れることも少なく、海洋生物たちはすくすくと育つ。これは、バルミューをはじめとした近辺に住む人々が、海を大切にしている表れでもある。
「もうすこーし掛かるが、暗くなる前にはつきそうだ。ほんとに、迎えはいらないんだな?」
ララクが漁師を訪ねたのが昼過ぎだったので、船に乗っている時間を追加すると、つくのは夕方の少し手前ごろと行ったところか。
行きは問題なくとも、帰りは確実に夜になる。真っ暗のなかでの移動は危険がつきものだ。
「はい。【テレポート】があるので」
改めて瞬影忍者カケルの持つ【テレポート】の便利さに関心するララク。
しばらく海を眺めながら漂っていると、無人島がいくつか見えてきた。そして船の方向線上に、目的の場所が見えてくる。
背の高い木々が多く、全体が緑で覆われているようだった。広さは有人島と比べるとこじんまりしており、この距離からであれば全体的な大きさを確認できた。
「ここが、魔狼島ですか?」
「まぁ、魔狼が本当にいるならそうだな。今はただの無人島さ」
漁師は無人島の浜辺へと船を近づけ、ぴたりと止めてみせた。
「ありがとうございました」
ララクはハシゴを使うことなく、ひょいっと船から飛び降りる。そして、船に乗ったままの漁師を見上げた。
「良いってことよ。おまえさんに、海の加護があらんことを」
彼は胸のペンダントを握りしめ、神に祈る。
「そちらも、お気をつけて」
ララクは船が発車するのは見守ると、魔狼島と思われる未知の場所へと足を踏み入れていく。
(いたって普通の島だよなぁ)
背の高い木々が多い、という点以外はぱっと見は何の以上もなかった。
天を見上げると、雲一つない絵のような青が広がっていた。この島を外から見た時は緑に囲まれているという安易に感想を持ったが、入ってみると空からの光が多く差しむ地形をしていた。日陰は少なく、長時間入れば日焼けをしそうだ。
「【アーマークリエイト・ハード】」
彼は武器を作り出す【ウェポンクリエイト】ではなく、防具などを作れる【アーマークリエイト】を使用する。防具というと物騒だが、簡単に言えば衣服を作れることが出来る。その範囲には、頭部に着用するものも含まれている。
早着替えのマリーカという冒険者が愛用するスキルだ
「ふぅ、【日焼け耐性】はないからなぁ」
彼が作り出したのは、小さな頭にすっぽりと入る麦わら帽子だった。日焼け防止のスキルは持っていないので、こうするしなかった。
【日焼け耐性】というピンポイントなバッシブスキルは存在する。皮膚が焼けないということで炎の熱にも強い。しかし、それならば【炎耐性】で事足りる。それゆえか、希少スキルの1つではあった。
ピクニックにでも来たかのような様になった彼を、迎えるものがいた。
「キュキュ??」
モンスターの鳴き声だ。凶暴性はあまり感じなく可愛らしい声だ。
「あ、ジャンプラビットだ」
ジャンプラビットはその通り跳躍力に優れている。見つけたその兎は、雑草を小刻みにジャンプしている。おそらく、ララクの首あたりぐらいまで跳ぶことができるだろう。
「っえ、こんなに?」
ジャンプラビットが跳ぶのは習性的に何ら不思議はないが、群れで活動していたようで数十匹が一気に宙を舞っているのだ。
「モンスターは多いんだな」
ゴブリン並みに大群でいるジャンプラビットだが、攻撃をする気配はなかった。かれらは草食動物だ。こちらから攻撃しない限り、襲撃されることはない。
少しづつだが、魔狼島についての情報を頭に書き留めておくララクだった。
◇◇◇
ララクは草木をかき分けながら、無人島を進んでいく。すると、新たなモンスターたちが次々と顔を出してくる。
(あれは……クワトロホーン)
不規則に曲がった角が4本ほど生えており、見た目は完全に鹿だった。こちらも、数匹の群れで活動している。
「キャキャラッ」
幼児のように高い声を出して、木の上のを登っているのはウッドモンキーだった。茶毛をしており、木系統のスキルを扱うと言われている。ウッドモンキーは小さな赤子もいて、家族連れのようだ。
(ほんと、野生のモンスターが多いな。でも、どれも温厚な生き物だし、危険はなさそうだ)
消息不明者が出た原因は、これらのモンスターの影響である可能性は薄い、と考えていた。
(それなのに、全然いないな)
辺りを見渡せども、目に映るのは草食動物ばかりだ。それに伴い、木の実や雑草は潤沢に育っている。
上級モンスターどころか、ゴブリンのような低級だが凶暴なモンスターさえ存在しない。
ララクは先ほどから地面の土も注意深く観察していた。しかし、巨大生物の足跡らしきものは確認することが出来なかった。
(これなら、異常がないと判断するのも納得だ)
この島はいたって平和的だ。人間がいないだけで、それに危害を加える存在はいない。日当たりもよく、動植物はすくすくと育っている。
(モンスターにとっては楽園だなぁ、ここは。……ん、待てよ)
肉食獣が存在しないので、小動物には暮らしやすい。そう考えていると、ここにいるモンスターたちの共通点に、ララクは気づき始めた。
0
お気に入りに追加
1,163
あなたにおすすめの小説
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~
渡琉兎
ファンタジー
15歳から20年もの間、王都の門番として勤めていたレインズは、国民性もあって自らのスキル魔獣キラーが忌避され続けた結果――不当解雇されてしまう。
最初は途方にくれたものの、すぐに自分を必要としてくれる人を探すべく国を出る決意をする。
そんな折、移住者を探す一人の女性との出会いがレインズの運命を大きく変える事になったのだった。
相棒の獣魔、SSSランクのデンと共に、レインズは海を渡り第二の故郷を探す旅に出る!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、で掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる