【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平

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第19話 情報収集

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 陽気な館長と話し終えたララクは、情報収集のために図書館を後にした。
 そんな彼の手には「モンスター図鑑」と書かれた本が握られていた。魔狼のことについては当然載っていないが、類似したモンスターの情報が役に立たないかと思い、借りてきたのだ。

「これはちょっとかさばるから……。【ポケットゲート】」

 彼がスキルを発動すると、目の前に黒い渦のようなものが現れる。これ自体に殺傷能力はないので触れても問題ない。
 ララクはそれに腕ごと本を突っ込んだ。そして腕を抜くと、本が消えていた。この【ポケットゲート】の先には異空間が広がっており、物などを収納することが出来る。

 図鑑をしまったララクは人から話を聞いて情報を集めようとしていた。
 噂話があるということは、それを目撃した人物がいるということだ。

(ギルドに戻ろうか。いや、そこにはよく行っているけど、誰かが話しているのは聞いたことがないな。
 他に冒険者が集まる所と言えば……)

 長年発見されてこなかった魔狼だ。情報すら持っている人間も少ない。なので、少しでも多くの冒険者から話を聞く必要があった。

「あ、あそこの人なら、詳しいかも」

 ララクは冒険者が必然的に集まる場所に心当たりがあったようで、すぐにそこへと向かう。

 彼がやってきたのは【クェイグの店】と書かれた看板が出してあるお店だった。ここは冒険者にはなくてはならない武器を売っている鍛冶屋だった。

 ララクは元ヒーラーであり、クエストの分け前も少なかったことから、こういったところで武器を新調する機会は少なかった。【追放エナジー】を得てからは、全体的に身体機能が上昇し、防具の優先度は低かった。
 武器に関しては、【ウェポンクリエイト】などで状況に適した武器を作り出せるので、必要性は薄かった。

 そのため、ここに訪れる冒険者の会話を、ララクはほとんど聞いたこことがなかったのだ。

「失礼します」

 重たいドアを開けて、鍛冶屋の中に入る。
 こじんまりとしたお店だが、武具の出来が良いと評判で人気店だった。剣や盾といった王道的な武器から、鎌やクロスボウなど少し癖のある商品も揃えられている。

「ん? 見ない顔だな」

 パイプで煙を吸っていた店主がララクに気がついた。さっきの館長とさほど変わらない年齢だが、筋肉は発達しており強面だった。

「どうも。ララク・ストリーンと申します」

 実は数回だけ元パーティーメンバーと一緒にやってきていたのだが、その時は影が薄すぎて覚えられていなかったようだ。

「新人か?」

「いえ、そうではないんですけど」

 そもそも18歳という若さと、実年齢よりも幼い顔立ちをしているので、冒険者になったばかりの子供だと思われたようだ。それもあって、声をかけられたのかもしれない。

「そうか。まぁ、うちは色々と揃ってるから自由に見てくれ。奥に鍛冶場があってな、依頼があれば特注で武器を作ってやれる。まぁ、素材は自分たちで用意してもらうのが一般的だがな」

 その説明は聞いたことがあったが、初耳のような顔をしながらララクは聞き流す。

「実は今日は武器を見に来たわけではなくて、少しお話を伺いに来まして」

「話? わしにか?」

 武器の依頼ではなく、話を聞きたいだけの人間は珍しかったので不思議に感じる。
 ララクの目的は、鍛冶屋そのものではなく、この店主から話を聞くことだった。

「魔狼島、の噂って聞いたことがないですか? もしかして、ここに来ている冒険者の方々が話していないかな、と思って来たんですが」

 ギルドと同じようにここには冒険者が多く訪れる。冒険で得た素材を加工するために、ここへ来ることも多い。つまり、ここはそういった者たちの生の声が聞ける場所なのだ。

「……魔狼島? 聞いたことは……いや待てよ。どこかで聞いたことがあるような、ないような」

「実はボク、クエスト中でして、何でもいいので教えていただけるとありがたいです」

 店主の記憶を呼び起こそうと、詳細が書かれた依頼書を見せる。
 店主は老眼なのか虫眼鏡を取り出すと、じっくりとその文を読み込んだ。

「思い出した、あの館長がずっと探しているやつか。はぁーおまえさん、また変わったクエストに手を出したな」

「っハハ。興味があったので」

 苦笑いをしながらララクは答える。おそらく、館長が変わり者なのを知っているから、店主はそのようなことを言ったのだろう。

「けど、わしも詳しくはねぇぞ。確かに無人島で魔狼を見た、って噂は聞いたことがあるが、魔狼島がどこにあるかは知らないな。
 だがぁ、探しに行ったって奴には会ったことがあるな」

 頭を掻きむしりながら、古い記憶を探し当てた。

「ほんとですか? その人って、無事に帰ってこれたんですか?」

「あー確か、あぁそうだ。そもそも、『探しに行ってきたが魔狼なんていなかった』って言ってたんじゃなかったかなぁ」

「なるほど。そうでしたか」

 館長の依頼書に書いてあった通りだ。

「ちなみに、その島ってどこにあるか分かりますか?」

 クエストは何も進展していないが、見つからなかった島が分かれば、そこを省いて調査することが出来る。ララクはそう考えていた。

「さすがにそこまでわなぁ。けどよぉ、ここから行くっていやぁバルミューの町から船で行ける場所だろうよ」

 港町バルミューは以前、ララクがシーサペント退治で訪れた場所だ。

「あそこですか。確かに自分で船を出すのは難しいですからね」

 ララクのいるパーリア国は、島国ではないが地図で見ると海に囲まれている。そのため、近辺には数多くの無人島が存在する。それを知らみ潰しに調べるのは骨が折れる。
 しかし、そこら中から船が出ているわけではない。
 漁船や、他の国へと渡る貨物船などがある場所は限られている。この近辺で言うと、店主の言った通り、港町バルミューがそれに該当する。

「ま、苦労することには違いがないがな」

「でも、それが知れてよかったです。ありがとうございます、武器を購入してもいないのに」

 鍛冶屋で話を聞くだけなのを、少しだけ心苦しく感じていた。

「別にいいんだよ。実はな、最近羽振りが良くてな。それ、見てみろよ」

 店主は奥の壁に飾られてある武器に顔を向けた。ララクも同じ方向に目をやる。
 そこには、アシンメトリーな巨大な武器の鎌だった。漆黒という言葉が相応しい純度の黒を基調としていた。鋭く尖った鎌は、指を触れただけで怪我をしそうなほど輝いている。

 下には品名が書かれている。

【ケルべアサイズ】

 つまり、ケルベアスの素材を中心として作られた鎌ということを表している。

「あのケルベアスの素材を持ってきた連中がいてな。そいつらに武器を作ったんだが、余ったやつはこっちで買い取って、ああやって作って売ってるんだ。
 それがよぉ、ケルベアスなんて珍しいもんだから、客がわんさかやってきたんだよ。今は少し落ち着いたが、いい仕事させてもらったよ」

 嬉しそうに昨今の懐事情を語る店主。

「なるほど。それならよかったです」

 ララクはあの時、自分がケルベアスの死体を置いてきたということを思い出す。そして、それを【疾風怒濤】のメンバーが回収したことも大方予想がついていた。

 自分の行ったことで上機嫌になっていて、強力的になっていくれていたならば良かったと、少し後ろめたさはなくなった。

「情報ありがとうございました。失礼します」

「おう。気ぃつけてな」

 目的を終えたララクは、鍛冶屋の扉を開けて店を出た。
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