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第17話 魔狼島の噂

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 シーサペントの討伐から少し経ったときのことだ。
 ララクは次にどのクエストに向かうか吟味していた。

 冒険者ギルドのクエストボードの前で、しばらく悩み続けている。

(オークの討伐に、ガーゴイルの討伐。うーん、そう簡単に上級モンスターの依頼はないか)

 彼はこれまで戦ってきたモンスターと同レベルかそれ以上の相手を探していた。しかし、クエストを見る限りは、中級モンスターの討伐ばかりだ。

 ギルドによって貼られる内容は違うが、ここは低級から中級の討伐依頼が主で、まれに上級モンスターの依頼が舞い込んでくる。

(ん? なんだろうこれ)

 討伐依頼を中心に見ていたが、少し違った内容のクエストにも目を向けると、気になるものを発見した。

【魔狼を見つけて欲しい】

 あなたは魔狼島という場所を知っているかな? 近辺の海のどこかにあると言われている無人島何だか、そこに謎の魔狼がいるって噂なんだ。だが、実際に確認した人は1人もいない。探しに行った連中も何人かいるのだが、ただの無人島を見つけるか、そのまま帰ってこなかった。
 おいぼれの興味にすぎないが、気になって仕方がないのだ。
 ぜひ、このクエストを受けて欲しい。

          依頼主・ジンド図書館館長


(魔狼島。そしてそこにいる魔狼……。強敵の予感が凄いするな)

 もし本当にいるのなら、その実力を確かめたい。そう感じたのか、討伐依頼ではないが関心を持ったようだ。

「よし、これにしよう」

 張り紙を剥がし、いつものようにカウンターへと向かっていく。
 しかし、それを見た受付嬢の表情は芳しくなかった。

「ララク、このクエストはやめた方が良いよ」

 これまでのクエストの実績から、ララクが一人前の冒険者になったことは知っているはずだ。それでも、このクエストを受けることに否定的なようだ。

「どうしてですか? ボクじゃまだ、実力不足ですか?」

「そういうわけじゃないわ。誰であっても、このクエストは大変だ思うよ」

「というと?」

「書いてある通り、このクエストを受けた人は何人もいるんだけど、誰1人有益な情報を得れてないの。魔狼がいるかどうか怪しいってことよ。だから、探すだけ時間の無駄かもよ?」

 クエストには、シーサペントのような緊急性を要するものが多いが、このクエストのように期限が特にないものもある。そういうクエストは長期化しやすく、難易度も高い傾向があった。

「……なるほど。でも、クエストは出されてるんですよね?」

 クエストボードにずっと貼られていたということは、依頼主はクエストを破棄したわけではないということだ。

「それは、手数料は払うから載せてくれって、そこの館長が必死だからね。あなたが興味あるなら、これ以上は止めないけど」

 クエストを載せる際に、依頼主はギルドに手数料を支払う。長期化して掲載期間が延びると、その都度貰う仕組みになっている。
 なので、ギルドとしてはこのまま放置されていても問題はなかった。

「忠告ありがとうございます。でも、やっぱり自分で調べてみたいです。いなかったとしても、ここで放置したら、ずっと気になる気がするんで」

「そっか。もしあなたでも見つけられなかったら、館長も諦めてくれるかもしれないわね。雲をつかむようなクエストだから、頑張ってね」

 受付嬢はクエスト自体には否定的だったが、ララクの好奇心に満ち溢れた表情を見て、応援することにしたようだ。

「はい。まずはその館長に会ってきます」

「受けてくれたのを知ったら嬉しがると思うわ。……あ、そうだ」

 依頼書に許諾の印を押すと、彼女はあることを思いだした。

「この前言っていた話、覚えている?」

「この前って、もしかしてパーティーのことですか?」

「そうそう。その募集用紙を作ってみたのよ」

 ララクがリーダーとなって作ることになった冒険者パーティー【ハンドレッド】に入ってくれるヒーラーを募集する話を、彼女はしっかりと進めてくれていたようだ。

 彼女は手作りのヒーラーを募る用紙をカウンターに置いた。

『新パーティー【ハンドレッド】に加入してくれる、ヒーラーを募集中!』

 急成長を遂げた若き冒険者ララク・ストリーンが、パーティーを結成することに。条件はたった1つ、回復スキルを持ったヒーラー、ということだけ!
 彼は魔熊の森の主 ケルベアスや、海住まうシーサペントを討伐した輝かしい実績があります。
 まだ18歳で、これから成長する事間違いし!
 この波に乗り遅れるなっ!


「あの、ちょっと気合い入りすぎてません?」

「そうかしら。間違ったことは言っていないつもりだけど」

 付き合いが長いこともあり、普通の募集の時よりも熱がこもりすぎている節があった。だが、ヒーラーはそもそも数が少ないので、これぐらい分かりやすい方が加入しやすいかもしれない。

「そうですけど。まぁでも、わざわざありがとうございます」

「魔狼島のことを調べるなら、少し時間が掛かるだろうし、その間に1人ぐらい声がかかるわよ」

「だといいですね。じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、ララク」

 ララクは募集要項を確認すると、クエストに向かっていく。まずは依頼主のいる図書館へと足を運ぶようだ。

 それを見送った受付嬢は、鼻歌交じりにカウンターを出てクエストボードに向かう。
 そして、その横の目立つ場所に、パーティー募集の紙を張り付ける。

「いい人が見つかりますように」

 果たしてララクの望むヒーラーは現れるのか。

 そして、魔狼は本当に存在するのか。

 彼の新たの冒険が始まろうとしていた。
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