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第11話 デフェロットの焦り

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 これはララクがシーサペント討伐に港町へ移動している最中の出来事である。

「おりゃぁぁぁぁ。【エアスラッシュ】」

【疾風怒濤】のリーダー・猛剣のデフェロットが、モンスターに向かってスキルを発動する。対象は、デスベアーと呼ばれる魔熊の一種だ。顔は1つだが、巨体は健在だ。

「グロォォォォ」

 デスベアーの胴体に見事【エアスラッシュ】がヒットする。そしてそのまま、デスベアーは倒れていく。

「っち」

 倒したというのにデフェロットは納得いかない様子だった。彼の理想では、デスベアーの体を真っ二つに引き裂きたかったのだ。特別な恨みがある訳ではないが、彼の今はシンプルな強さを思い求めているからだ。

「おいデフェロット。少し落ち着け」

 仲間であり守護戦士ガッディアが彼をなだめる。

「そうそう。いら立つとこっちもムカついてくるんだけど」

 怒りは伝播するものだ。そして、デフェロットとその仲間のレニナの間ではそれはよくあることだ。

「うるせぇ。せっかく武器を新調したって言うのに、まるでダメだ」

 彼らの装備はケルベアスの一件から、一段階パワーアップしていた。素材にはケルベアスの毛皮や爪、牙などがふんだんに使われている。

 デフェロットの剣は、ケルベアスの爪で強化された『ヘルソード』に進化している。ガッディアも骨なども利用して大盾を強化していた。

 一番変わったのはレニナだった。ケルベアスの分厚い皮を素材に『魔熊のローブ』を作成してもらったのだ。これを着ていると、魔力が上昇し魔法系統のスキルにも強くなる。さらに、物理的な攻撃にも、以前よりは段違いに耐えれるようになっている。

 彼女の髪色は銀髪なので、漆黒のローブを着るとその色がより生えていた。

 これらは、ララクが討伐したものの放置されたケルベアスの死体を利用して作られたものだ。自分たちの装備に使えなそうなものは、すべて売却した。

 デフェロットは「あいつのおこぼれなんか貰えるか」と拒んだが「無駄にするのはもったいない」とガッディアが良い、素材を使って新しい装備を作れることを知ったレニナが「私、新しい服欲しい」と言って、リサイクルすることにしたのだ。

「何を言う。デスベアーはおそらくレベル50。以前の俺たちでは倒すのは難しかったはずだ」

 彼らが今いるのは、魔熊の森のケルベアスが生息していたエリアだった。主がいなくなったこともあって、ここまで足を延ばしていた。しかし、それでもこの辺りのモンスターのレベルは高い。ケルベアスの武器がなければ、こうもスムーズにはいかない。

「そうかもしれねぇが、ララクなら一瞬で倒せる。しかも、切断できるはずだ」

 脳裏に焼き付いた、ララクがケルベアスの頭を切り落とす場面。忘れたくても、その映像が彼の頭から離れることはなかった。

「確かにあの子は強くなった。けれど、比べる必要はないはずだ。俺たちは俺たちなりに強くなればいい」

 ガッディアも、年下のララクに一気に追い抜かされたことで、プライドが少しだけ傷つけられたはずだ。しかしそんな思いは隠して今は、デフェロットを落ちつかせることにつとめていた。

「それじゃあダメなんだよ! 俺は、俺たちはもっと強くなんなくちゃいけねぇんだよ!」

 その叫びは、辺り一帯に響き渡る。リーダーの焦りを感じ取った2人は一瞬黙り込んだ。その間、森の草木が騒めく音だけが流れていった。

「……あんた、なんでそんなに焦ってんの?」

「……忘れたのかよ。俺らはララクがいなけりゃ、あの時死んでたんだ」

 その言葉に、2人はハッとされる。
 ララクの鮮烈な登場により、そのことが薄れていたようだ。彼らはみな、あの時死を覚悟した。それは元メンバーのララクにより回避されたが、「死にかけた」という事実は残っている。

「そういうことか。確かに俺たちは、一度死んだ」

「でも、それってイレギュラーなことでしょ? ララクがいなければ死んでたかもしれないけど、そもそもケルベアスが来たのはララクが原因でしょ?」

 レニナは、【追放エナジー】発同時に起きた光の粒が大量発生した時のことを思い出す。推測でしかないだろうが、おそらくケルベアスはあの光を追ってやってきたと考えていた。

「ああそうだ。けど、これからそのイレギュラーがまた起こらねぇとは限らねぇ。強敵が来ようが、そいつを払いのける力がねぇと、冒険者は簡単に死ぬんだよ」

 自分の死、そして仲間の死。リーダーとして、彼はいろいろと背負っていた。

「お前の言い分は分かった。その意見にも賛成する。しかし、具体的にどうしようというのだ。あそこまで強くなるのは、それこそイレギュラーなことだ」

 ララクのみせた常人を超えた動きに、卓越したスキルの数々。一朝一夕では、彼のレベルまでたどり着く気はしなかった。

「レベルアップするしかないんじゃない?」

「それだけじゃあ、足りねぇだろうよ。もっと何か、明確に強くなれる方法が必要かもしれねぇ」

 3人はしばらく考え込んだ。冒険者の常識として、強くなるにはレベルを上げるか今回のように武器を強化するかの二択だ。しかし、それだけでは足りないとなると、無理難題と言えるだろう。

「……イレギュラー。そうか、それがあればいいんだ」

 何かを思いつくガッディア。

「あん? どういうことだ」

「だから、俺たちの誰かが、ララクと同じく「隠れスキル」を所持している可能性があれば良いってことだ」

 その案を聞いて、デフェロットたちの表情に明るさが戻っていく。

「そうか、俺らの中にも隠れスキルがあるかもしれんぇもんな」

「うんうん。私なら、ある気がしてきた」

 急に元気になっていく2人。随分と分かりやすい性格だ。

「隠れスキルがある確率は分かっていない。何故なら、隠れスキルがあるかどうかを判別できないからだ。逆に言えば、可能性はゼロではない。
 そして噂だが、隠れスキルを判別することが出来るスキルもある。らしい」

 この情報は長年冒険者をやっているガッディアだからこそ知りえたものだろう。

「まじかよ、じゃあそいつを探すしかねぇじゃねか!」

「なんか面白くなってきたね」

 具体的に案が出ると、彼らは途端に口が回りだした。

「だが、そいつがどこにいるのか、そもそもそんなスキルがあるかどうか分からないんだぞ?」

「そっかー、時間かかるかもねぇ~」

 人探しということになるわけだが、その人物の名前や特徴、そして実在するかどうかさえ分かっていない。

「時間ならあんだろ。ケルベアスを売ったおかげで、当分はクエストを受けなくても問題ねぇ。ここいらで、戦力アップに集中するのはいい機会だろ」

「……ふむ、そう言われるとそうだが。よし分かった。国内であれば付き合おう。それ以上は、家族と離れることになるから、俺は同行できない」

「私も別にいいよ~。旅行、好きだし」

「あのなぁレニナ、これは遊びじゃねぇんだよ。……まぁいい、とりあえず街に戻って情報収集だ。それでもダメなら、首都にでも向かうか」

 デフェロットのいう首都は、彼が拠点としている街から山を越えたところにある場所だ。そちらのほうが、人は多かった。

「了解した」

「おっけー」

 疾風怒濤は新たな目標を立てて、旅立つことを決めたのだった
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